表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タイムリープするお嬢様――二度目の婚約破棄はもう遅い。あなたが破滅する始まりです  作者: 御咲花 すゆ花
5話 メアリー・フィグマー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/115

38 名前のない依頼人

 秋の終わりを告げる風が、王都の街路樹を揺らす。

 キャサリン・エルフェルトは午後の紅茶を前に、机の上に広げた書類を眺めていた。

 内容は大したものではない。いくつかの社交上の招待状と、エマが整理した直近の情報まとめ。王都の噂話の類だ。


 静かな午後だった。

 穏やかすぎて、少しだけ物足りない気もする。


「お嬢様」


 エマが部屋の扉を静かに開けた。


「来客です」

「どちら?」

「フィリップ様でございます」


 キャサリンは書類から目を上げる。

 フィリップ・エルフェルト。父方の従兄弟にあたる青年だ。展覧会での一件以来、たまに顔を合わせる機会が増えた。


 以前よりずっと話しやすくなったとは思うが、それでもやはり、突然訪ねてくるような間柄ではない。


 ――また何かあったのね。


 退屈していたところだと、少しだけキャサリンは意地の悪い笑みを口元に浮かべた。もちろん、他人に不幸が訪れればいいなどと、キャサリンも思ってはいない。


「通して」


 短く答え、書類をまとめて脇に置く。

 まもなく応接室に現れたフィリップは、いつもと少しだけ様子が違った。

 整った顔立ちに、どこかぎこちない表情が張りついている。

 飾り気のない服装は変わらないが、その立ち居振る舞いには余裕がない。……これはいつものことかもしれない。


 言いにくいことを言いに来た人間の顔だと、キャサリンはすぐに見抜いた。


「久しぶりですわね、フィリップ様」

「ああ」


 向かいの席に腰を下ろしたフィリップが答える。

 エマが紅茶を用意して下がった。

 しばらくは沈黙。

 この前と同じだ。


「……」


 キャサリンは急かさなかった。

 フィリップが紅茶のカップに視線を落としたまま、ゆっくりと口を開く。


「……頼みたいことがある」

「伺いましょう」


 重い口から絞り出された話は、こういうことだった。

 メアリー・フィグマー子爵令嬢。

 フィリップの幼馴染にあたるこの女性は、現在、伯爵家の嫡男ロナルド・ベインと婚約している。

 しかし近ごろ、その婚約者の様子がおかしい。メアリーへの態度が冷たくなり、社交の場でも彼女を蔑ろにするような素振りが見えはじめたのだ。


 さらに、ロナルドの周辺では不穏な噂が流れているという。

 メアリーが他の男と密会しているという話だった。


「でたらめだ!」


 フィリップがはっきりと言い切った。

 その声に迷いはないどころか、明確に相手への非難が混じっている。


「メアリーは断じてそんなことをする人間じゃない! だが、このまま放っておけば……近いうちによくないことが起こるだろう……」


 キャサリンがフィリップを見つめる。


 ――確かにきな臭い。


 何かあるのは間違いないだろう。

 この王都で長く生きていれば、嵐の前の空気を読むことくらいはできる。フィリップの直感は正しいとキャサリンにも感じられた。


「わかりました。お力になりましょう」


 即答した。

 フィリップが、わずかに肩の力を抜く。しかし次の瞬間、また別の緊張が彼の表情に滲んだ。


「ひとつだけ、条件がある」


 キャサリンが片眉を上げた。


「この依頼が私から来たものだということを、メアリーには黙っていてほしい」


 静寂が応接室に落ちた。

 キャサリンはしばらく、フィリップの顔を見ていた。

 真剣な目だ

 すでに覚悟を決めた人間の目をしていた。


 ――ああ、そういうこと。


 腑に落ちた。

 フィリップがメアリーを慕っていることは、今この瞬間に確信した。

 だからこそ、条件の意味がよくわかる。

 助けたい。

 でも、自分の名前では助けたくない。

 それは恩を着せることを嫌う、不器用な誠実さの表れだ。好いている相手に、借りを作らせたくないのだろう。


 キャサリンはそれ以上、何も聞かなかった。


「……わかりました」


 静かにうなずく。


「ただし、私のやり方で進めます。よろしいですね?」

「頼む」


 それっきりで、2人の間に大きな言葉はない。

 フィリップは立ち上がり、一礼して部屋を出ていく。

 その背中が廊下の向こうに消えるのを見届けてから、キャサリンは静かに紅茶のカップを手に取った。


 少しだけ紅茶は冷めていた。


「エマ」

「はい、お嬢様」


 呼べば、気配もなく扉の脇に立っていたエマが、一歩前へと進み出る。


「メアリー・フィグマー子爵令嬢について、調べてちょうだい。それと、ロナルド様についても」

「すでに着手しております」


 さらりと返ってきた答えに、キャサリンは小さく笑った。


「相変わらず仕事が早いわね」

「フィリップ様がいらした時点で、おおよその予想がつきましたので」


 涼しい顔のエマに、キャサリンは苦笑しながら窓の外に目をやった。秋の終わりの空は、どこまでも青かった。


 ――さて。


 今度はどんな結末を用意してあげましょうか。

 その答えは、すでに半分ほど決まっていた。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ