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タイムリープするお嬢様――二度目の婚約破棄はもう遅い。あなたが破滅する始まりです  作者: 御咲花 すゆ花
4話 リディア・ウルペッカ

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28 崩れていく舞台

 新薬の発表が始まった。

 ヴィクターが壇上に立ち、ゆっくりと会場を見渡してから口を開く。自分こそが主人公であるという自信が、立ち振る舞いから隠れていない。


「本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます」


 よく通る声だ。

 堂々とした姿は、発表者の見栄えとして悪くない。


「このたびランドール家では、長年の研究の末、難病の治療に有効な新薬の開発に成功いたしました」


 長年の研究。

 その言葉が空気に溶けていく。

 キャサリンは表情を変えなかった。

 会場から、感嘆の拍手が起きる。

 難病の治療薬。

 それだけで、注目度が段違いだ。

 医師たちも手帳を取り出し、メモの準備をはじめる。


 ――いい気なものね。


 ヴィクターの説明は流暢だ。

 薬の概要。

 効能。

 投与の方法。

 どれも本当に自分で作ったかのように、その口ぶりはよどみない。

 よく準備されたものだった。

 もちろん、その内容はすべてリディアが7年の歳月をかけて積みあげたものだ。

 ヴィクターの内助など、どれだけ甘く見積もっても2%程度だろう。

 ちょっとでも常識がある人間ならば、それを自分の手柄だとは間違っても思えない。


「……」


 キャサリンが、リディアの横顔に視線を向ける。

 とても落ち着いていて、リディアに怒っている様子は見られない。


 ――名誉を投げ捨てでも、治療を優先したいということね。


 だが、その目は壇上のヴィクターを、見定めるようにまっすぐ見ている。

 キャサリンはリディアに感心しながら、ヴィクターの言葉に耳を傾けつづけた。




✿✿✿❀✿✿✿




 質疑応答に移り、会場の雰囲気が少しだけ引き締まる。

 最初に手を挙げたのは、王宮つきの若い医師だった。

 飾り気のない服装に、真剣な目をした青年だ。


「一点だけ。この薬の副作用については、どのようにお考えでしょうか? 非常に強い成分も散見されますので、相応の症状が出ると思うのですが……」


 穏やかな口調だが、その問いは核心を突いている。

 会場の医師たちが、一斉に壇上のヴィクターへ視線を向ける。

 ほんの一瞬だけ間を置き、ヴィクターは力強く否定した。


「問題ありません。十分に安全性を確認しております」


 即答。

 迷いのない声音。

 だが、そのトーンの中に、根拠がないことをキャサリンは聞き取った。

 リディアの顔が強張ったように青ざめる。

 ほんのわずかな変化だが、キャサリンは見逃さなかった。


 ――やはり薬はまだ完成していないのね。


「具体的な根拠を示していただけますか」


 若い医師は追撃の手を休めない。


「それは……資料にも記載したとおりで」


 ヴィクターが書類に目を落とす。

 その手は探そうとさまようだけで、動いていなかった。


 ――答えられるわけないでしょうね。


 副作用の問題がどこにあるのか、その本質を理解していないからだ。

 7年分の蓄積は、他人が簡単に言葉にできるものではない。

 医師たちが、ひそひそと仲間内で話しはじめる。

 新薬への期待が、少しずつ疑念へと変わっていく。


 ――セリーヌ嬢のほうはどうかしら?


 この変化をどう見ているのだろうか。

 キャサリンは、ちらりと後方に視線を向ける。

 セリーヌの表情に差はない。

 むしろ、何かを待っているようにも見えた。


 ――そろそろか……。


 その予感は、すぐに当たった。




✿✿✿❀✿✿✿



 質疑応答が終わり、会場全体がざわめきの中にある頃合いを見計らって、セリーヌが動いた。

 王宮の関係者に近づき、何かを耳打ちする。

 その手に、書類が握られていた。


「エマ」

「見えています」


 エマがすでに体を動かしかけていた。

 キャサリンは首を振って、侍女を押さえる。


「まだよ。証拠を揃えるなら、向こうに動かせるだけ動かせてから」

「……承知しました」


 エマが静止する。


 ――気分がよくないから、見ているだけっていうのは趣味じゃなのだけれどね。


 理不尽な目に遭っている女性を救うためならば、多少の痛みは受け入れよう。

 全部を見てからタイムリープをするのだと、キャサリンは覚悟を決めていた。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

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