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タイムリープするお嬢様――二度目の婚約破棄はもう遅い。あなたが破滅する始まりです  作者: 御咲花 すゆ花
8話(上) 逆行のキャサリン

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99 青くほころぶ(3)

 その夜、キャサリンは寝室で本を開いていた。

 開いているだけで、目は文字を追っていない。


 ――時計職人……ねえ。


 不意に出てきた言葉が、どうにも頭から離れなかった。

 エマが町で出会ったという人物。

 懐かしい方。

 悪い人ではないと評した相手。

 それが時計職人なのだろうか。

 昼間に執事のギルバートから聞いた話を、キャサリンは思い返す。

 王都の外れで時計の修理をしている、ダミアンという男の話だ。

 南の町から王都へ出てきて、若い頃から職人のもとで働いている。目立った借財はなく、誰かと揉めている様子もない。評判は、良く言えば人懐っこく、悪く言えば少し頼りない。


 市場通りで粗悪な部品を売りつけられていたところを、エマによって助けられたらしい。

 そこまで聞いたとき、キャサリンは思わず黙りこんだ。

 話だけを聞けば、いかにもエマが放っておけなさそうな相手だったからだ。まるで聞いていたダライアスの話に似ている。


 少し抜けている職人。

 その響きが、どうにも引っかかった。


 ――偶然にしては、少しできすぎている気もするのよね……。


 だが、ギルバートの調べた限りでは、ダミアンに不審な点は見当たらない。

 人柄も、経歴も、仕事ぶりにも明らかな瑕疵はない。少なくとも、エマを意図的に害そうとして近づいた人物には見えなかった。


 考えれば考えるほど、ただの恋めいた話に思える。

 春。

 亡夫の命日。

 町での偶然の出会い。

 懐かしい面影を持つ男。

 そこまで並べればエマの心が揺れるのも無理はない。

 ただ一つだけ、ギルバートは妙なことを言っていた。


 ――ダライアス様に似ているのだろうということだったけれど……。


 ダミアンという男を知る者は多いのに、誰もその姿を見かけていないのだ。

 エマは恋をしたからといっても、仕事に穴を空けるような人間ではないだろう。ましてや、予定の日付まで取り違えるようなことなどないはずだ。


 考えすぎだろうか。

 キャサリンは本を閉じた。

 寝台脇の燭台の炎が、かすかに揺れている。

 明日になれば、いつものエマに戻っているとキャサリンは思った。

 そう思ったところで、廊下の向こうから微かな物音が聞こえた。

 足音ではない。

 何かが落ちたような、小さな音だった。


「……エマ?」


 呼んでも返事はない。

 しばらく耳を澄ませたが、それ以上の物音はもう鳴らない。

 やがてキャサリンは小さく息を吐き、もう一度だけ本に手を伸ばした。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

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