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タイムリープするお嬢様――二度目の婚約破棄はもう遅い。あなたが破滅する始まりです  作者: 御咲花 すゆ花
8話(上) 逆行のキャサリン

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94 遡行する幻影(12)

「あなたもずいぶん変な方ですね」


 エマの発言に、ダライアスは困ったように笑う。


「よく言われます」

「でしょうね」


 小さなガラスの花を、エマは布の上に戻さなかった。

 手のひらの中で、そっと包む。


「ありがとうございます。大切にします」

「……よかった」


 心底ほっとしたような声だった。

 気を許すということは、距離を縮めることにほかならない。胸をなでおろしているダライアスを見たエマに、いたずら心が少しだけ芽生える。


「これは単に道案内のお礼として?」

「はい……いえ、あのそうではなく……」


 ダライアスは一度うなずいてから、慌てて首を振った。

 当然のように沈黙が生まれる。

 だが、エマが思っていたよりも、その静寂は短かった。


「お礼でもあります。でも、それだけではありません」

「では、なんでしょう?」


 わかりきったことをエマは尋ねてみる。かなり前から、ミリアムが背後から覗いている気がしたが、今さら隠すこともないだろうとエマは意に介さなかった。どうせ誰と親しくなろうと、ミリアムに知られるのは時間の問題なのだ。


「また……会っていただきたいです」


 ダライアスは言い切っていた。頼りないくせに、その一言だけは妙にまっすぐだ。

 つかの間、エマは返事をしなかった。

 店内に雨音が満ちている。奥の部屋から、ミリアムの動く気配がした。じれったいのだろう。そろそろ顔を出されるかもしれない。これ以上、引っ張るべきではないと思った。


「交際の申し込みと受け取っても構いませんか?」


 エマが静かに尋ねると、ダライアスは目に見えて動揺した。


「えっ。あ、はい。そうです。いえ、そう言うべきでした。すみません」

「謝るところではありません」

「では、ええと……。改めまして」


 ダライアスは姿勢を正した。

 真面目すぎるほど真剣な表情で、ダライアスがエマを見つめる。


「エマ殿。よろしければ、僕とお付き合いしていただけませんでしょうか」


 エマは手の中のガラス細工を見た。

 薄桃色の花。

 不揃いな花弁。

 けれど、壊れないよう丁寧に作られた、小さな春。

 笑いそうになってから、どうにか居住まいを正した。


「考えておきます」


 さすがに、ミリアムの前で最初から積極性を発揮するのは気が引けた。それに、すぐに頷いてしまうと、ずっと見ていたことまで見透かされそうだったのだ。


「……はい」


 明らかに落胆した顔だった。

 あまりのわかりやすさに、エマが内心でため息をつく。


「次の休日に、もう一度お茶を飲むくらいなら構いませんよ」

「本当ですか」

「ええ。ただし、今度は道を間違えないでください」

「努力します!」


 ダライアスは今度こそ、嬉しそうに笑った。

 この人は、きっとまた迷うだろう。

 そう思った。

 それでも、待ってみてもいいかもしれない。迷いながらでも着実に来ようとする人ならば、こちらから向かうのだって悪くないはずだ。


 エマは手の中のガラスの花を見つめた。

 雨の日の店内で、それは小さく春を閉じ込めたように光っていた。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

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