第129話 貸さない
朝。入口は暗いまま。箱壁も返却棚も灯りも触らない。外変化0。
返却棚はいつも通り落ちる。補修班返却3。止まりなし。
ゼフは腰袋を内側に押さえたまま、手の中でだけ穴札を揃える。机に置かない。見せない。口を増やさない。
フィン 昨日は穴だけ遅延札だったな。今日は何を真似る。
ミナ 真似じゃない形で来る。借りたいって言う。
ゼフ 貸した瞬間に紙が生える。
レイナ 進捗、一つ。貸さない。
フィン 貸さない、だけで?
レイナ 貸すは椅子。0。
ユハが入口側で幅を殺す。止まりの席が死ぬ。立ち話も死ぬ。
ミナが紙を一枚だけ置く。短い条件文。理由は書かない。
穴札は貸さない 貸出要求は0(凍結) 外持込は対象外0 説明無し 質問無し
ゼフが短く頷く。腰袋の口を見えない角度に戻す。
貸すと、受領が生える。受領が生えると署名が生える。署名が生えると制度になる。制度が燃える。
だから貸さない。貸さない理由も言わない。椅子が生えるから。
昼。いつも通りに回す。
子供便は三つ。番号だけ。速歩き。終わり。
補修班返却も三つ。まとめ落とし。終わり。
許可段+1は、箱が回って数が戻るだけ。言葉が増えない。
子供 いち!に!さん!
ミナ 三つ。番号だけ。
レイナ 速歩き。
子供 終わり!
フィン 今日も静かだな。
レイナ 静かは借りに来る。
午前の半ば。来た。借りる。
ギルド腕章の男が一人。紙束は薄いが、狙いは分かる。貸出申請。借用書。返却期限。署名欄。
紙束が薄いほど、椅子は立ちやすい。
腕章の男 穴札を一枚貸してくれ。確認が必要だ。すぐ返す。
フィン 貸してって言った瞬間、椅子。ここ椅子ない。
レイナ 0。
腕章の男 0とは何だ。正規の手続きだぞ。
レイナ 貸さない。
ミナ 理由なし。
レイナ 質問無し。
男は紙束を差し出して手渡しを作る。受け取った瞬間に責任が生える。
ミナは受け取らない。作業台の一枠を指で示す。置いて離れる。
一枠に置いたら、紙は箱へ滑る。読む前に寝る。制度の芽が消える。
ミナ 置いて。離れて。
腕章の男 受け取れ。
レイナ 置いて離れる。
ユハが一歩だけ位置を変える。止まれる幅が死ぬ。置いたら去るしかない。
男は置いた。置いた瞬間、ミナが凍結送りへ滑らせた。
ミナ 凍結送り。
レイナ 数だけ。
フィン はい終了。次の角行け。
腕章の男 貸さないなら監査を、
フィン 監査って言った瞬間、椅子。ここ椅子ない。
レイナ 無言。
ミナ 理由なし。
レイナ 質問無し。
男は苛立って言い換える。借りるがダメなら見せろ。確認だけでいい。
見せた瞬間に穴の教科書が外へ出る。外は真似る。真似が増える。燃える。
だから見せない。数だけ。
腕章の男 じゃあ12をここで数えろ。立会いする。
フィン 立会いって言った瞬間、椅子。ここ椅子ない。
レイナ 却下。
腕章の男 怖いのか。
フィン 怖いは椅子。終わり。
レイナ 無言。
ゼフは腰袋に手を入れない。今は数えない。数える瞬間を観客席にしない。
数は盾だが、数える姿は餌になる。餌は増やさない。
そこへ左肩が擦れた男が混ざる。今日は腕章男の背中にくっついている。
借りる手続きが通れば、自分が“借りた穴札”で勝てる。だから押す。
左肩の男 貸してやれよ。補修班が困ってるんだろ。
フィン 困ってるって言った瞬間、椅子。ここ椅子ない。
レイナ 箱で困ってない。
左肩の男 じゃあ返却が遅れたらどうする。
レイナ 数。
ミナ 理由なし。
レイナ 質問無し。
男は引かない。引かないときは現場で材料を作る。
補修班の若いのが返却に来る瞬間を狙い、腕章男が声を張る。
今だ、遅延だ、貸出が必要だ。観客を座らせたい。
でも返却は止まらない。まとめ落とし。終わり。
補修班の若いの ……終わり。
フィン 座る時間が無い。
レイナ 座らせない。
腕章の男 返却が速いのは今だけだ。穴札を貸せ。
レイナ 貸さない。
ミナ 理由なし。
レイナ 質問無し。
腕章の男が最後の一手。期限を書く。返却期限を書けば座れると思ってる。
紙に期限。期限に署名。期限に押印。
でも紙は寝る。期限は語られない。語られない期限は燃えない。
ミナ 凍結送り。
レイナ 数だけ。
フィン はい終了。次の角行け。
その間に、角。いつもの沈み。3番の腕が少し沈む。重さ。
ここに貸出を絡めたい。危険だ、点検だ、だから札を貸せ。
絡めさせない。動作で終わらせる。
子供 ちょっと重い。
ミナ 止まらない。
レイナ 0。落として離れる。
子供 ゼロ!終わり。
3番は0箱へ滑り込む。返答札が溝へ滑る。無音。外返答は無言。
貸出も受領も生えない。椅子が立たない。
腕章の男 今の危険だ。点検が必要だ。だから、
フィン だからって言った瞬間、椅子。ここ椅子ない。
レイナ 無言。
ミナ 理由なし。
レイナ 質問無し。
男は見せ場を失うと、別の形を持ち込む。
貸出箱を置け。返却箱を作れ。管理窓口を増やせ。
新しい箱は増やさない。口が増えて燃えるから。だから全部0。
レイナ 箱増設0。
ゼフ 0。
ミナ 数だけ。
フィン はい終わり。
腕章の男が引く前に、レイナが短く釘を打つ。
レイナ 必要なら夜便。箱で回す。
フィン 言葉少な。
ミナ 紙一枚で足りてる。
ゼフ 穴は内側。
男はそこで止まる。夜便に踏み込むと、自分が覗きになる。覗きは嫌われる。嫌われると座れない。
座れないなら燃えない。
ほのぼのは、外の子供が借りるって言葉を真似しそうになって、空箱便に吸われて終わるところで出た。
外の子供 かり、
ミナ 空箱。
外の子供 空、運ぶ?
ミナ 運ぶ。番号だけ。
外の子供 ……終わり。
フィン 借りるが箱に吸われた。
レイナ 終わり。
昼の終わり。ゼフが腰袋を内側で一瞬だけ開ける。机じゃない。視線が届かない角度。
札を手の中で揃える。数える。戻す。
ゼフ 穴札、12。
ミナ 12。
フィン 貸さないって、数が崩れないから言えるんだな。
レイナ 数だけ。
夕方。ブラントが市場から戻る。
ブラント 穴札を貸せ、が回りかけました。
レイナ 貸出要求0。
ミナ 紙一枚。理由なし。
フィン 外は期限とか立会いとか好きだよな。
ブラント 紙が寝てます。署名が取れてません。座れません。雑になります。
レイナ 雑は距離。
領主へ数字だけ。短く。
ブラント 穴札12維持。貸出紙2、凍結2。
領主 良い。貸した瞬間に燃える。噂は嫌いだ。
レイナ 数字だけ。
夜。灯りは二基。低く地味に足元だけ。入口は照らさない。外変化0。
凍結箱の貸出紙は奥へ。開けない。戻さない。
腰袋の穴札は12のまま。机に出ない。外に出ない。
補修班の許可段+1は、貸出の言葉を一つも増やさずに固定され続ける。
俺は板に一行だけ残した。
穴札貸出要求2を0凍結で寝かせ、穴札12を腰袋のまま維持して許可段+1を燃やさず守った。




