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【WEB版】私はただの侍女ですので(大嘘) ~ひっそり暮らしたいのに公爵騎士様が逃がしてくれません~【コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第六章

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月夜の邂逅

 満月の夜。

 何か重要なことが起こる時、必ず夜空には満月が輝く。

 そういう運命なのだろうか。

 だから私は、満月があまり好きじゃない。

 決まっていつも、私にとってよくない転機が訪れるから。

 けれど今は、少しだけ気分がいい。

 

「――あと少しだ」

「何があと少しなのですか?」

「――! あなたは……」

「こんばんは、ラバートさん」


 私たちは邂逅する。

 夜の一室、ここは王城、ベッドではリク王子が眠っている。

 私はカーテンの開いた窓を背に、ベッドの横に立つラバートさんと向き合う。

 視線を少し下げると、苦しそうに魘されている少年の顔があった。


「その方が、リク王子ですね。とても苦しそう……」

「……なぜあなたがここにいるのです? ここはリク王子の寝室です。無断で部外者が立ち入っていい場所ではありません」

「知っています。許可を受けた一部の人間のみ入室を許されている……安全部屋。だからこそ、一番危険な場所でもあるのですよ」

「何を言っているのですか? 質問の答えになっていません。私が聞いているのは――!」


 ラバートさんは驚く。

 瞬間、話していたはずの私は視界から消えた。

 次に私を視界に捉えたのは、リク王子が眠るベッドの反対側。

 私はリク王子の頬に触れている。


「……やっぱり、思った通りですね」

「何をしているのです? リク王子から離れなさい!」

「精神干渉系の魔法、しかも多重にかけ、呪いまで付与していますね」

「――!」


 ラバートさんがびくりと反応する。

 私はニヤリと笑みを浮かべ、彼に微笑みかける。


「とても優れた魔法です。これほどの魔法の才能、よほど恵まれた力をお持ちなのでしょう。だからこそ残念に思います。この力を、もっと人のために使うべきでしたね」

「……何を言っているのですか?」

「もう誤魔化さなくて結構ですよ? 反王族勢力のリーダーさん」

「――!!」


 どれほど優れた魔法も、私の目はごまかせない。

 この程度、千年前にはありふれた技術だ。

 言葉も、態度も、表情も、どれだけ偽ろうとも、私は最初から疑っている。

 そうして疑いは、確信へと変わった。


 ラバートさんは驚きつつも、呆れたようにため息をこぼす。


「何をおっしゃるかと思えば、私が反王族勢力? そんなわけがありません。私は誇り高きリク王子教育係です」

「そういう風に振る舞っていたことはわかっています。とても性格が真面目ですね。王族に反しながら、仕事はきっちりとこなしている。だからこそ、周囲からの信頼も厚い。さぞ動きやすかったでしょう? 信頼されてからは」

「根拠のない理由ですね。まさか、リク王子に何かされたのはあなたですか? 私に罪を被せようと考えているようですね」

「まさか、私はリク王子をお救いするためにここへ来ました。彼の心が壊れてしまう前に」


 彼が倒れた理由は病ではない。

 精神干渉魔法、他人の心を破壊し、傀儡とすることができる。

 それを多重にかけ、呪いを併用することで魔法を病に偽装している。

 並の魔法使いでも気づかないように、上手く彼の魔力と同調させているらしい。

 つまり、彼が侵されているのは肉体ではなく精神だ。

 彼は魔法に抗い続けている。

 他の症状は、魔法に耐えていることで生まれた副作用。


「凄い精神力です。これに二年も耐え続けている……子供とは思えない」

「さっきから適当なことを。仮に魔法だとして、それに気づかないとお思いですか? ここには宮廷の優れた魔法使いもいるのですよ」

「はい。だから、その方々もお仲間なのでしょう?」


 私が尋ねると、ラバートさんは呆れる。


「妄想が過ぎますね」

「生憎、そういった癖はございません。私の言葉はすべて事実、そろそろ諦めてください。暗殺者から情報は得ていますよ」

「――!」

「気づいているのでしょう? あなたが放った刺客からの連絡が途絶えていることに」


 騎士団に回収させた暗殺者たち。

 その情報はアスノトの一存で、まだ上へは報告されていない。

 

「――そうですか。では、彼らは失敗したようですね」


 ため息をこぼしたラバートさんの雰囲気が変わる。

 元々鋭い目つきがさらに鋭くなり、私のことを睨みつける。


「お前と言葉を交わしたのは失敗だったな。あの時から、私のことを疑っていたのだろう?」

「はい。あなたが一番、可能性が高いと思っておりました」

「おかしいな。王族や周囲の信頼は獲得していたはずだが……」

「そう聞いております。だからこそ、あなたが怪しいと思ったのですよ」


 私はニコリと微笑む。

 千年前の光景が、脳裏を抜ける。


「最も信頼すべき味方こそ、敵であると疑い続けなければならない。そうしても尚、裏切りには気づけない」

「随分と疑り深いな。裏切られたことでもあるのか?」

「はい。だから私に、いい人のフリは通じませんよ?」

「ふっ、ならば仕方がない」


 ラバートさんは両手を合わせる。

 彼を中心に、部屋を覆うように結界が展開される。

 内外の情報伝達を阻害する結界だ。

 これで……。


「今から何が起ころうと、逃げることはできない」

「お互いに、ですね」


 結界の展開中、発動者であるラバートさんも外には出られない。

 条件は同じだ。


「その余裕がいつまでもつかな? 言っておくが、私は暗殺者とは比較にならないぞ。力も、思想もな!」

「思想……どんな崇高な思想をお持ちなのですか?」

「決まっている! 我々は亡き改革の女王フレンディーナの遺志を継ぐ者!」

「――!」


 私は驚愕する。

 驚かずにはいられない。

 なぜなら、彼が口にしたのは……。


「お前は知っているか? かの女王は変革のための犠牲となった! 彼女が起こそうとしたのは真の平和! 王政などという縛りではない! 彼女が望んだのは、誰もが平等に評価され、自由に生きる世界だ」

「……確かに、そうかもしれないわね」


 かつての私はそんな世界を望んでいた。

 王国に暮らす人々が、恐怖や不安を感じず、平和に暮らせる世界にしたい。

 そのために、あらゆる悪をその身で受けよう。

 人々の平和のためなら、この身の全てを捧げても構わない。

 そう、望んだ。

 だけど……。


「そのために、幼い王子を傀儡にするつもりですか?」

「変革のためだ! かの女王も自らを捧げた! ならば現代の王もそれであるべきだ。むしろ光栄なことだと思わないかい?」

「――あなたは……」


 歪んでいる。

 私の理想、思想、それを勝手に解釈して。

 まるで、自ら望んで死を受け入れたように。

 違う。

 私を裏切ったのは、私が最も信頼していた仲間たちだった。

 変革を起こしたのではない。

 彼らが変革を起こし、人々の意思で元に戻っただけだ。

 私の死に意味があるとすれば、人々が自らの未来を選択するきっかけになったこと。

 断じて、変革のための死ではない。


「そんな下らない理由に、私の名前を使わないでほしいわね」

「……? 何を言っている?」

「あなたと話していると頭が痛くなる」


 怒りと呆れから、私は拳に力を入れる。

 感情の乱れが魔力にも伝わり、身体から魔力が流れ出る。

 それに気づいたのか、眠っていた王子が目を覚ます。


「ぅ……だ……れ?」

「大丈夫よ。悪夢はすぐに終わるわ」


 私は優しく微笑みかける。

 変革なんてくだらない。

 そんな理由で、罪のない命を、未来を汚されるなんてあってはならない。


「目を瞑って」

「は……い」


 私は彼の額に手を触れる。

 何重にもなっている魔法と呪い、下手に手を出せば悪化し、自分にも返ってくる。


「王子の魔法を解除するつもりか? 無駄なことはよせ。同じ魔法を自らも受けるだけだ」

「――なめないで」


 この程度の魔法、私が解除できないわけがない。

 私が女王として君臨したのは、何も地位と権力に頼ったからじゃない。

 あの時代には必要だった。

 他を圧倒するだけの、絶対的な力が。

 魔法使いとして実力が。

 だからこんなもの――


「解くことなんて簡単なのよ」

「なっ……馬鹿な!」


 ラバートは気づくだろう。

 彼に魔法をかけた張本人なら、魔法の効果が解除されたことに。


「あれ……身体が……」

「ありえない! あの魔法を解除するなど!」


 焦りを見せるラバード。

 久しぶりにハッキリと目覚めたリク王子は、私と視線を合わせる。

 この状況を一言では説明できない。

 不安はあるだろう。

 だから私はできるだけ明るい笑顔を見せる。


「あなたは……?」

「ただの侍女です、リク王子」

「じ、じょ?」

「馬鹿な! 侍女風情がこの私の魔法を解除するなど! こうなったらこの場で二人とも――!」


 直後、部屋の結界が破壊される。

 特異体質。

 あらゆる魔法を無効化する肉体は、触れるだけで結界を破壊できる。


「お待ちしておりました。アスノト様」

「遅れてすまないな。医者と魔法使い、どちらも確保したよ。あとは――お前だ」

「騎士王! くっ」

「無駄だ」


 アスノトの刃が、ラバートさんの喉元に突きつけられる。

 一瞬で間合いを詰められ、もはや動くことすらできなかったようだ。


「彼女に敵意を向けたな。少しでも動けば首が飛ぶぞ」

「……こんな……」

「一件落着、ですね」

「そうだな。お手柄だよ」


 よくやった。

 でも無茶をしすぎて心配だ、とアスノトは私に言った。

 これが私の義務でもある。

 女王として私がやったことは、存在は、現代の人々にも影響していた。

 私の存在が、誰かの不幸を招いてはいけない。

 リク王子も、王女様も、

 王族だからといって、危険が当たり前な日々を送るのは間違っている。

 せっかく平和になったのなら、彼らも穏やかに……。


  ◇◇◇


 後日談。

 リク王子の容態はみるみる回復していった。

 魔法の効果が消えたことで精神も安定し、起き上がれるようにはなったそうだ。

 身体に影響が出るものではなかったが、二年間ほぼ寝たきりの生活だった分、全身廃用は起こってしまっている。

 これからしばらくは安静とリハビリだろう。

 ただ、容態が安定したことで、半隔離状態も解除された。

 私とアスノトは、リク王子の寝室に招かれ、姫様やロベルトさんも一緒にいる。


「アスノトさん、イレイナさん、ボクのことを助けてくれて本当にありがとうございます」

「私からもお礼を言わせて。本当に……本当にありがとう」


 二人の王族が、揃って私たちに頭を下げている。

 やめてほしい。

 私はただ、取るべき責任を取っただけなのだから。

 感謝なんてむず痒い。


「お元気になられてよかったです。何かございましたら、遠慮なくおっしゃってください。アスノト様の侍女として、可能な限りお応えさせていただきます」

「あの、なら一つ、イレイナさんにお願いをしてもいいでしょうか?」

「はい。なんでしょう?」

「――ボクの、お嫁さんになってくれませんか?」


 予想外の展開に驚愕する。

 私だけじゃなく、アスノトや姫様も。


「あらまぁ」

「っ――!」

「それは……」

「助けてくれた時のこと、すごく格好良くて、綺麗な横顔が忘れられませんでした。ひ、一目ぼれしてしまったみたいです、ボク……」


 リク王子は恥ずかしそうに語る。

 顔を赤くして。

 私は自然と、アスノトに視線を向けた。


 とても複雑な顔をしている。

 自分がと主張したいけど、相手は王子で、しかも病み上がりだ。

 いろんな感情が渦巻いて、どうしていいかわからない。

 けど、主張したい。

 自分の婚約者だと……なんて、思っていることが伝わってくる。


 私は笑う。

 そうだとわかってしまう自分に。


「ありがとうございます。とても光栄です。ですが申し訳ありません。今の私は、アスノト様の侍女ですので」


 王族だったのは前世の話。

 今の私は、ただの侍女、王子様の隣には立てない。

 だって彼が、私のご主人様が、手を離してくれるとは思えないから。


 困った話だ。

 でも、今いる場所は、悪くはないから。

 

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 王子のいうとおり、ほんとかっこいいです。 王子が救われてよかった。 更新ありがとうございます。 今の楽しみです。
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