49話 偽王を看破してみた
毎日更新すると言ったが……1日に何回更新するかの指定まではしていない。つまり……私がその気になれば更新は1日に2回ということも可能だろう……ということ……!(ざわ…ざわ…)
(………………なにこれ?)
魔女マリリーンが水面に映し出した地下牢の光景を見ると――。
そこには、地下牢生活をエンジョイしまくっているローナ・ハーミットの姿があった。
なぜか、牢の周囲は食堂になり、ローナ・ハーミットは探偵帽をかぶって名探偵みたいなことをしている。
(……いや、えっ? な、なにがあったら、こうなるの……? というか……なんで、さりげなくルル姫が2人に増殖してるの?)
もはや、どこからツッコめばいいのかわからない。
悪い幻でも見ているような光景だった。
(は――っ!? ま、まさか……牢の中で得られる情報と知力のみをもって、人間嫌いの水竜族たちの心を掌握したというの……? あ、ありえない……魔封じの手錠をつけられて、牢屋に閉じこめられてるのよ!?)
同じことが自分にできるだろうか。
いや……できるはずがない。
――神算鬼謀。
そんな言葉が、魔女マリリーンの脳裏をよぎる。
しかし、それほどの知力がある人物が、むざむざ地下牢にとらわれるだろうか。
なにか、得体の知れない不安が、魔女マリリーンの中でじわじわと膨れ上がってくるが。
(だ……大丈夫よ。いくら知力があろうが、まさか海王が偽物と入れ替わってるだなんてわからないはず――)
『――あの、最近の海王様は、まるで人が変わったかのように厳しくなられたのですが……』
『ああ、それなら――今の海王様は“水月の魔女マリリーン”って人が化けてる偽物だからですよ!』
(――あぁあああッ!? 正体がバレたぁああああッ!?)
なんか、めちゃくちゃ普通にバレてしまった。
そこで、ようやく魔女マリリーンは気づいた。
ローナ・ハーミットは、最初からこれが目的だったのだ。
自ら地下牢にとらわれたのは――もっとも効率的に、この城の内部へ入りこむため。
そこで水竜族の役人や兵士たちを味方につけ、その推理力をもって自分の言っていることが真実だと印象づけてから――魔女マリリーンの正体を看破する。
そうすれば、嫌いな人間の言葉といえど、水竜族たちの中にも疑念がわくはずだ。
(で、でも、まだ変身が解かれたわけじゃないわ! 海王の姿をしているかぎり、誰もあたしには手を出せないはず――)
『あっ、ちなみに、“ケショーカ・マショーカ”というキーワードを言うと、変身を解くことができるそうですよ!』
(――ああぁああッ!? 変身が解かれたぁあああッ!?)
魔女マリリーンを包みこんでいた幻影が、しゅぅうう……っと消滅していく。
彼女の切り札である、幻術の解き方さえもバレていた。
(ま、まさか、見られていることに気づいて、遠隔で変身を解いたというの――っ!? くっ、今から変身しても、どうせ解かれるならMPの無駄……こ、こうなったら、モンスターにこの国を襲撃させて、その隙にいったん逃げるしか――ッ!)
魔女マリリーンが慌てて通信水晶を介して、国の外に待機させているモンスターに命令を送るが……返事がない。
嫌な予感がして、モンスターの待機場所を魔法で映し出してみると――。
待機させていたはずのモンスターたちが、綺麗さっぱり消え去っていた。
(ま、まさか……さっきの、あの凄まじい雷は……モンスターを倒すため!?)
自分の計画が、いつの間にか全て対策されている。
魔女マリリーンの全身から、冷や汗がどばぁっとふき出した。
(ど、どこまで……ローナ・ハーミットは計算しているというのっ!?)
優れた頭脳を持つ魔女マリリーンをもってしても――わからない。
いったい、いつからだろうか。
魔女マリリーンが、ローナ・ハーミットの手のひらの上で泳がされていたのは……。
まるでなにも考えてないような、ぽけーっとした顔をしているのは、周囲をあざむくための擬態だったのだろう。あるいは――彼女にとっては、これしきの計算など“考える”うちにも入らないと言いたいのだろうか。
実際にローナ・ハーミットは、この海底王国アトランに入ってから1時間ほどの間に――城の水竜族たちの人心を掌握し、そして魔女マリリーンの変身を破ったのだ。
(…………ば、化け物……っ)
自分は今、“なに”を相手にしているのだろうか。
ただの知力と呼ぶには、それはあまりにも人外じみている。
――――怖い。
魔女マリリーンは、今まで感じたことのないような恐怖を覚えた。
『ローナ殿。海王様がお呼びです。どうぞ、こちらへ』
『あ、御前裁判でしたっけ? わかりました!』
(――――っ!? まずい、ローナ・ハーミットがこっちに!?)
ローナ・ハーミットが、水竜族たちをつれて玉座の間へと近づいてくる。
もはや、逃げ場はない。
いや、どこへ逃げようと――きっと、ローナ・ハーミットからは逃げられない。
(待って……待って待って待って! 展開が早すぎるッ!? ど、どうして……どうして、こうなったの!? ついさっきまでは、全てが順調だったのに!? 海王の封印も成功して、もうすぐあたしの“復讐”が成就するところだったのに……なにが起きてるというの!?)
と、魔女マリリーンが混乱している間にも、玉座の間へと近づいてくる足音は大きくなっていき……。
ついに――運命の瞬間は、訪れた。
「――海王様、ローナ・ハーミットをおつれしました」
玉座の間の扉が、ぎぃぃっと開く。
そして、魔女マリリーンは、ローナ・ハーミットと対峙した。
「「るっ!? 誰だ、あいつ!?」」
「海王様はどこだ!?」
「まさか、ローナ殿が言っていたことは、本当だったのか……っ!?」
水竜族たちが魔女マリリーンの姿を見て、唖然とする。
しかし、魔女マリリーンはもう、その姿を隠すことはしない。
巨大クラゲで宙高くに浮かびながら、彼女は静かな瞳でローナ・ハーミットを見下ろしていた。
「……見事ね、ローナ・ハーミット。まさか、これほどの頭脳を持っているとは……本当に恐れ入ったわ」
もはや、自己紹介は必要ないだろう。
ローナ・ハーミットは、自分のことなど、とうに知り尽くしているはずだ。
「ええ、そうよ……あたしは……あたしを裏切って捨てた水竜族と人間に復讐するために、海王エナリオスになりかわり、この海底に封印された“原初の水クリスタル・イヴ”の封印を解こうとしていたわ。もっとも……反幻の呪文まで見つけてきたあなたには、とっくにバレていたでしょうけどね」
魔女マリリーンは静かに語る。
それを、ローナたち一行は黙って聞いていた。
「いいわ……あなたの強さ、認めてあげる。だけど、まだあたしは負けたわけじゃない。あたしの“復讐”はまだ終わってない……人間も、水竜族も……みんな、みんな――あたしが滅ぼしてやるんだからッ!」
魔女マリリーンが絶叫するとともに――かッ! と、部屋が光り輝いた。
その次の瞬間、視界が回復した人々が見たものは……。
玉座の間を埋め尽くすように出現した、無数の魔女マリリーンの分身体だった。
「水天魔法――ミスト・ディレクション。あなたたちはもう、あたしの幻の牢獄からは逃れられないわ!」
知力でダメならば、武力で勝負するしかない。
手錠によってローナ・ハーミットの魔法が封じられている今ならば、まだ勝機はあるはずだ。
(正直、まだ状況はよくわかってないけれど……こうなったら、迎え撃つのみ! こういうときは先手必勝よ!)
魔女マリリーンの殺気がびりびりと室内を満たす。
しかし、魔女マリリーンには、ひとつ大きな誤算があった。
たしかに、ローナは地下牢にて王が偽物だと看破したが……。
『海王が偽物……だって?』
『はっはっはっ! さすがにないない!』
誰も真に受けていなかったうえに、そもそもその話を聞いていた者がほとんどいなかったのだ。
そのため――。
(((……なんでいきなり自白してるんだ、こいつ!?)))
いろいろ展開をすっ飛ばしてきたようなスピード感に、その場にいた水竜族たちはひたすら混乱していた。
(る……るぅ? どうしよう、いまいち状況がわからぬ……)
(ま、まあ……ルル以外の誰かがわかってるはず……)
ルル×2は冷や汗を垂らしながら、周囲の水竜族たちに説明を求めるような視線を送る。
しかし、水竜族たちも状況は同じであり。
(くっ! いったい、今……なにが起きてるというんだ?)
(わ、わからねぇっ!)
(俺たちは今――なんとなく、ここに立っているッ!)
そして、水竜族たちが顔を見合わせて頷き合う。
国の命運をかけた決戦を前に、その気持ちはひとつになっていた。
(((――誰かもう1回、説明してくれないかな!!)))
そして、ここにいる全員の視線は、自然と1か所に集まった。
そう、この状況を作った張本人――ローナ・ハーミットのもとへ……。
一方、視線を浴びているローナは、魔女マリリーンをまっすぐ見すえ、そして――。
(……? …………誰だろう、この人?)
ぽけーっと口を半開きにしていた。
こうして、誰も状況をよくわかっていないまま……。
海底王国アトランの命運をかけた戦いが今――始まったのだった。










