111話 最高の思い出を作ってみた
ドワーゴの鍛冶によって、“ばーべきゅぅこんろ”が完成したあと。
「わぁっ! 火加減の調節がこんな簡単に! それに手入れもすごく楽そうですね!」
「ふんっ……まあ、満足してもらえたんなら、なによりだ」
「けど、この人数だと、まだまだ“ばーべきゅぅこんろ”が足りやがらないぞー?」
「むぅ……鉄インゴットの備蓄も、そこまで余裕はないしな。今から鉱石を精錬するのも時間が……」
と、ドワーフ王たちが話し合っていたところで。
「あっ、それなら“溶岩ぷれーと”っていう板状にした溶岩石でも代わりになるそうです! まあ、ちょっと火加減の調整は難しそうですが」
「む、溶岩石? それなら――」
「この国には、いくらでもありやがるな」
ドワーフたちが顔を見合わせる。
ただ溶岩を薄く切って磨くだけの簡単な工作。
本来ならば、技術にプライドがあるドワーフがやるような仕事ではないが……。
それでも、ドワーゴの鍛冶を見せられた直後なのだ。
作りたくない――わけがない。
「あ……あたしは作りやがるぞーっ!」
「あっ、組長! それはオイラが狙ってた溶岩石だどん!」
「ぷっ……なんだ、お前。そのへったくそなもんは!」
「いいじゃねぇか。失敗したらそれはそれで笑えんだろ」
「おいおい、ローナ殿! 斬一文字は反則だぞ!」
「――作れ作れ! 不格好でもいい! とにかく作れ!」
気づけば、ワッフルやドワーフ王もまざって、どわはははっ! と、一緒に笑い合っている光景がそこにあった。
「……ったく、まるで子供の粘土遊びだな」
ドワーゴはそんな光景を少し離れたところから見守りながら、やれやれと肩をすくめる。
まるで、この地底王国そのものが炉になったかのような熱気。
ここにいる誰もが、今だけは才能だとかランクだとかを忘れて、子供みたいにお祭り騒ぎをしており。
その“祭り”の光景は、かつてドワーゴが毎日見ていた、もっとも活気のある頃の故郷そのもので。
「ふんっ……ようやく、ドワーフの国らしくなってきたじゃねぇか」
ドワーゴはそう言って、ふっと笑うと……。
「――おい、おまえらだけで楽しんでて、ずりぃぞ! オレもまぜやがれ!」
「わふっ!? ドワーゴのおっさん、すげー速さで量産しやがってるぞっ!?」
「わ、わしらも負けていられるかっ!」
◇
そんなこんなで、“溶岩ぷれーと”を作ったあと。
「……や、やべぇ、作りすぎたか?」
「ドワーゴ、そなたはいつもやりすぎだ……少しは自重せよ」
「それより、さっそく実験しやがるぞーっ! おまえら、肉を焼きやがれーっ!」
「おーい、酒がキンキンに冷えたぞ!」
「よし、飲み物はいきわたったな? それでは――」
「「「――宴だぁああああッ!!」」」
そのまま、なしくずし的に“ばーべきゅぅ”パーティーが始まった。
ちなみに、この“ばーべきゅぅ”という宴の形式は、当然のようにドワーフたちには大ウケであり……。
“溶岩ぷれーと”も、マグマにつければ30分ぐらい肉を焼けるようになるので、この国にはぴったりだったようだ。
「かぁ~っ! やっぱ言った通りだったろ! 酒がありゃ、最高の宴会になるってな!」
「うぉォん! “外”には今、このような新たな味が……っ! わしの知らぬところで、あらゆるものが進化し続けているのだな……」
「わふぅぅ~っ! このタレは、“職人米”との相性もばつぎゅーンですっ!」
「あっ、このニコニコッペパンにお肉や野菜やソーセージをはさんで……“はんばーがー”や“ほっとどっぐ”にしてもおいしいですよ!」
「「「――やはり天才か……っ!!」」」
こうして、宴はおおいに盛り上がり……。
「――ローナの嬢ちゃん」
「はい?」
そんなお祭り騒ぎの中、ふとドワーゴが声をかけてきた。
ドワーゴは照れたように鼻をかいて、「あー、ま……なんだ?」と、もごもご口を動かしてから。
「――最高の里帰りになったよ。ありがとな」
そう言って、にかっと最高の笑顔を浮かべるのだった。
それからも宴は続いていき、ローナのお腹も満たされたところで。
せっかくなので、この国での思い出作りのために写真撮影をすることにした。
「それでは、写真撮りま~す! みなさん、もっと寄ってください!」
「……う、うむ」「あ、あんまくっつきやがんな、クソ親父」『……………………』
「うん、いい感じです! それでは、1+1は~?」
「「「――どわっほいッ!」」」
――パシャ♪
「えへへ。みなさん、いい笑顔で撮れてますよ!」
追放した者、追放された者。仲違いをしていた父娘。
この国を襲った溶岩魔人と、襲われたドワーフたち。
これまで、さまざまなすれ違いがあった彼らだが……。
今はみんな一緒に、いい笑顔で写真に写っていた。
(――うんっ! なにか忘れてる気がするけど、この国でも最高の思い出ができたねっ!)
こうして、新たな友人たちとのにぎやかな“ばーべきゅぅ”パーティーは、夜がふけても続いていき――。
◇
そして、翌朝。
ローナとドワーゴは、地底王国ドンゴワの広場で、ドワーフたちに見送られていた。
「わふぅ……も、もう帰りやがっちゃうんですか? ローナの姐御も、ドワーゴのおっさんも、もっとこの国にいやがればいいのに……」
「ご、ごめんなさい、ワッフルちゃん。王都に用事もありますし、うちでペットも待っているので……」
「まあ、オレもさすがに仕事に戻らねぇといけないしなぁ。それとバカ弟子たちの面倒も見ねぇとだし」
「わ、わふぅ……」
そう、いつまでもこの国にいるわけにもいかないのだ。
ローナも王都での生活があるし、この国出身のドワーゴにしても、もう新たな町で欠かせない存在となっているわけで。
……もっとも、ローナはドンゴワ滞在中も、普通に家に帰ったりしていたが。
「ワッフルよ、そうローナ殿たちを困らせるな。今生の別れというわけでもないのだぞ」
「そ、そんなのクソ親父に言われやがらなくても、わかってるっての……っ!」
「とはいえ、ドワーゴよ。すぐにとは言わぬが……また、いつかこの国に戻ってくるつもりはないか?」
「んー、そう言ってもらえんのは光栄だが……ま、外もいいもんだしな。飽きるまでは、そっちにいるつもりさ」
ドワーゴはそう言って、ちらりとローナのほうを見る。
「……ま、しばらくは、飽きさせちゃくれないようだがな」
「ふっ、それは残念だ。いや、正直に言おう……そなたがうらやましくてたまらんッ!」
「どわっはははッ! そうだろそうだろ? 追放してくれてありがとよ、陛下!」
「…………う、うぐぅぅ……っ」
と、軽口を叩き合うドワーゴとドワーフ王。
この短い期間で、すっかり2人の間のわだかまりもなくなったらしい。
むしろ、王と国民という関係でなくなったからか、以前よりも親しい仲になったようだ。
「ま、お前らも穴ぐらにばっかこもってねぇで、たまには外に出てみろよ。今の外は、面白ぇもんがたくさんあるぞ。つっても、だいたいはローナの嬢ちゃんが発生源だがな」
「?」
「わふぅ……外かー……あたしも、いつか……」
ワッフルが少し興味を持ったような反応を示す。
いや、表に出していないだけで、興味を持ったのはワッフルだけではないのだろう。
これまでのドワーフたちは、どこか人間の技術を下に見ているところがあったが……その価値観は今、いい意味で崩壊していた。
今のドワーフたちならば、この地底に“外”からの新たな風を取り入れられるはずだ。
これも全ては、ひとりの少女のおかげだった。
「――ローナ殿」
「はい?」
「わずかな時間ではあったが、そなたには返しきれない恩ができてしまったな。またいつでも、この国に来るといい。そのときは、さらに面白い“祭り”でそなたを歓迎してみせよう」
「あっ! じゃあ、ちょくちょく遊びに来ますね! 転移すればいつでも来れるので!」
「そ、そうか……いや、そういえばそうだったな」
「そうだ! そのときはまた、ドワーゴさんも一緒に――」
「ま、待てっ! もう空輸はこりごりだ……っ!」
「「「――どわっはははは!」」」
ドワーフたちが豪快に腹を抱えて笑いだす。
やはり、ドワーフたちとの別れは、このような空気のほうが似合っているのだろう。
そんなこんなで、別れの挨拶も済み。
「それでは、ドワーフのみなさん! さよならの――どわっほい!」
「「「――どわっほい!」」」
こうして、ローナはドワーフたちに手を振って、町の出口へと足を向け――。
『…………ちょっと待て』
そこで、制止の声がかけられた。
『……なに、めでたしめでたしみたいな空気になっているのだ? 貴様らは大切なことを忘れていないか?』
「え? 忘れてるって、なにを……」
「わふ? なんも思い当たることは、ありやがらないけど……」
そう言いながら、ローナたちが声の主のほうをふり返ると。
そこには、溶岩魔人ラーヴァデーモンが、ぷるぷると震えながら仁王立ちしていた。
『――我が……我が待ってるだろうがァアアアッ!!』
(((――忘れてた!?)))










