112話 魔人と戦ってみた
※2025-07-15 展開を一部修正しました。
地底王国ドンゴワの前で、ドワーフたちに見送られるローナ。
そこに、制止の声がかけられた。
『……なに、めでたしめでたしみたいな空気になっているのだ? 貴様らは大切なことを忘れていないか?』
「え? 忘れてるって、なにを……」
「わふ? まったく思い当たることはないけど……」
そう言いながら、ローナたちが声の主のほうをふり返ると。
そこには、ぷるぷると震えながら仁王立ちしている溶岩魔人ラーヴァデーモンの姿があった。
『――我が……我が待ってるだろうがァアアアッ!!』
(((――忘れてた!?)))
そういえば、溶岩魔人と戦う感じの空気になっていたが……。
『大人しく待っててくれるし、あとでいっか!』とか思っているうちに、パーティーが盛り上がってしまい、すっかりローナたちの頭から抜け落ちてしまっており……。
『一晩も待たせられたうえに、忘れられるとは思わなかったぞォオオオッ!』
(((……ご、ごもっとも)))
なにも言い返せないローナたちであった。
『ぐごご……この溶岩魔人ラーヴァデーモンもナメられたものだ。しかし、我の“真の姿”を見たあとでも、その余裕を保っていられるかな――』
「――あっ、みなさん気をつけてください! 溶岩魔人さんはここから魔法を弾く金属“ニコニ鋼”の鎧をまとって、この画像の姿に――“溶岩魔人G”に変身するらしいです!」
『…………………………』
先に全部言われてしまったあげくに、変身後の姿までネタバレされてしまった溶岩魔人であった。
「な、なぁ、ローナの姐御に挑みやがるなんて無謀すぎるんじゃ……」
「故郷へ帰るんだな。お前にも家族がいるだろう……」
「……謝ろ? な? ほら、オレたちも一緒に謝ってやるからさ……」
『――ま……まだわからないだろォオッ!』
溶岩魔人はそう叫びながら、周囲のマグマを吸収するようにその身にまとい始めた。
そして、マグマと煙が晴れたとき。
そこに立っていたのは、先ほどまでの溶岩魔人ではなかった。
体は一段と大きくなり、黒光りする金属の装甲をまとった溶岩の巨人――。
『……ごごぼっ! ごぼぼぼ! 見よ、我はこの火山でさらなる力を得たッ! そう、魔法を弾く金属“ニコニ鋼”の鎧だ! 今の我は、もうただの溶岩魔人ではない――溶岩魔人Gだぁァアッ!」
「「「…………知ってる」」」
さっき、ローナが言っていたやつだった。
『さ、さらに、それだけではないッ! 今の我には最強の“戦法”がある。その名も――』
「――あっ、みなさん気をつけてください! 溶岩魔人さんは攻撃が届かない距離から、鎧で身を守りながら毒液を吐いて、ダメージを受けたら周囲の溶岩を食べてすぐに回復する戦法――“どくまも戦法”をしてくるそうです!」
『……………………』
なんかもう、全部言われてしまった溶岩魔人であった。
『だ、だが……しかしッ! 知られたところで、この“どくまも戦法”の対策は不可能ッ!』
溶岩魔人は、だん――ッ! と、大きくジャンプをして洞窟の壁に張りつくと。
カサカサカサカサカサ……ッ! と、壁を這いまわりながら、びゅっ! びゅっ! と、紫色の毒液を吐いてきた。
「うわっ、きたなっ!?」
『ごごぼっ! ごぼぼぼ! どうだッ、なすすべもないだろうッ! これが我が考えた最強の戦法――“どくまも戦法”だぁァアッ!』
「おい、溶岩で戦えよ」
以前、エリミナに敗北したことで、ちょっと“溶岩”への自信が揺らいでいた溶岩魔人であった。
とはいえ、なんだかんだで強力な戦術であることには変わりなく。
『びゅっ! びゅっ!』
「く、くそぉっ! オレたちの火山の壁や天井を、好きに這いまわりやがって……っ!」
「逃げるな、卑怯者ぉっ!」
「汚いな……さすが溶岩魔人きたない……」
『ごぼぼぼッ! なんとでも言うがよいッ! しょせん、この世は勝ったもん勝ちなのだッ! さあ、そのまま毒でじわじわとなぶり殺されるがよ――』
と、言いかけたところで、溶岩魔人は気づく。
「装備変更――女王薔薇の冠!」」
なぜか、噴射した全ての毒液が、ひとりの少女――ローナへと吸い寄せられていることに。
そして、なぜか毒液がローナに当たる直前に、見えない壁に弾かれたように消滅していることに。
「あっ、念のため、みなさんもこの“身代わり人形”を持っていてください。これを持っていれば、毒は効かないので」
『…………え?』
そう、溶岩魔人の毒液は、ただの状態異常攻撃でしかない。
そして、ただの状態異常攻撃ならば――かつてザリチェと戦ったときと同じく、“身代わり人形”を持っているだけで無効化できるのだ。
それから、ローナは光の翼を生やすと。
ばしゅ――ッ! と、頭上にいる溶岩魔人のもとへと一気に接近した。
「こんにちはー」
『な……なァッ!?』
毒の無効化に加えて、“遠距離”というアドバンテージの消滅。
“どくまも戦法”を完全に潰された溶岩魔人には、もはやなすすべはなく……。
ゆえに――ここから先は、ずっとローナのターンだった。
「うん、溶岩魔人さんは魔法耐性があるみたいだし……ここは、このスキルの出番だね!」
そう言って、ローナは溶岩魔人へと杖を向ける。
『ご……ごぼぼぼぼッ! な、なんだ、魔法かァ? 無駄だ、魔法は効かぬと言っ――』
「あ、いえ、魔法ではありません」
『…………ひょ?』
「それじゃあ、いきます――エンチャント・ウィング!』
ローナがそのスキル名を唱えた瞬間――。
『……ご、ごぼォッ!?』
ふわり――と、壁から引き剥がされるように、空中に浮かび上がる溶岩魔人。
その背には、いつの間にか、神々しい光の翼が生えていた。
『な、なんだこれは……ッ!? う、動けな――っ!? しかも、視界が回って……ぎぼぢわるっ!?』
溶岩魔人がじたばたと空中でもがくが……。
しかし、もがけばもがくほど、ぐるんぐるん――と空中で回転してしまい、溶岩魔人の顔が心なしか青くなっていく。
「あ、あはは……最初は思うように動けないですよね。神様たちも『操作性がクソすぎる』ってよく怒ってますし、私もしばらく練習しないといけなかったので」
そう、これは終末竜衣ラグナローブの装備スキル【エンチャント・ウィング】の力だ。
このスキルの効果は――。
――『対象に【翼状態】を付与する』
それは、ローナ自身にしか使えないスキルというわけでもなく……。
また、その使い道も『空を飛ぶこと』だけではない。
ローナは空中でまともに身動きが取れない溶岩魔人へと、とどめを刺すように杖を向けた。
「とりあえず、もう悪さができないように――星命吸収! 星命吸収! 星命吸収!」
『ま、待てッ……なにをすqあwせdrftgyふじこlp――ッ!?』
空中にいる溶岩魔人を、一方的にいたぶるローナ。
翼状態はあくまで“強化技”であるため、魔法耐性に優れた今の溶岩魔人に耐性はなく。
さらに空中ではガードすることも、溶岩を食べて回復することも、マグマにもぐって逃げることもできず……。
「――星命吸収! 星命吸収! 星命吸収!」
『ご……ごぼぉォオ――ッ!? や、やめッ――あッあぁああぁあァアア――ッ!?』
地底に響きわたる溶岩魔人の悲鳴。
それは、つい最近までドワーフたちを異変で苦しめていた元凶であり……さらには、Aランク装備持ちのドワーフたちを、まとめて蹴散らしたほどの強敵だったが。
そんな溶岩魔人が一方的になぶられている光景を前に、ドワーフたちは――。
「「「…………知ってた」」」
だんだん、ローナという存在に慣れてきたドワーフたちであった。











