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最後の待ち合わせ

 

 〈四宮 葵(男)目線〉


 休憩時間、普段は確認しないプライベート用の携帯を開くと丁度電話がかかってきた。

 ほとんど甘えてくることのない普段はクールな彼女からの連絡。

 きっと何かある。そう感じ急いで鈴木さんを探した。



「鈴木さん。急で申し訳ありません。本日早退きにしていただくことは可能でしょうか」

 鈴木さんには葵が事前に今日旅立つと挨拶に来ていた。

 そのことと二人が付き合っているという事実。葵が最後の別れを告げようとしていることはすぐに繋がった。

「上がって貰って大丈夫ですよ。もうこれ以上することもあまりありませんから」

「ありがとうございます。それではよろしくお願いいたします」

 了承を取れてからは急いで四宮さんに電話をかけ、自室で外に出る用意をした。

 待ち合わせ場所は少し離れたところにある公園。初デートで葵さんと最後に行った公園だ。


 眼鏡を外しコンタクトを付け直す。髪もプライベート用の格好へと整えて鏡を確認する。

 大丈夫。いつも通りの自分だ。

 最後にコートを羽織り急いで公園へと向かった。


 やっと公園に着く頃には連絡が来てからかなりの時間が経ってしまっていた。

 もう居ないかと思い辺りを見回すと照明の下の柵に腰をかけている葵さんが居た。

 何かを考えているのか俯きがちな目と暗闇でも分かる白い肌、そしてその佇まいに見惚れてしまった。

 葵さんのことだからきっと着いたことは気が付いているのだろう。

 それでも話しかけるまでは気が付かない振りをしていた。



「葵さん。遅くなってごめん」

「葵くん。大丈夫。今来たところだから」

 きっとそんなことは無い。手に触れると完全に冷えてしまっていた。

「ごめん。寒くは無い?」

 上着を脱いで渡そうとするとすぐに止められた。

「葵くんが風邪を引いたら大変だから。気持ちだけ受け取っておくね」

「分かった」

 これは付き合い始めてから分かったことだが、葵さんは意外と頑固だ。一度言ったことは曲げない。

 そんな所もかっこよくて好きだ。

「それで……今日はどうしたの?」

「急に会いたくなって……迷惑だった?」

「大丈夫。連絡が来てて嬉しかった」

 滅多にない四宮さんからの連絡にかなり浮かれていた。

「一つだけ、私の話しを聞いてくれる?」

 少し声が震えていた。何の話かは分からない。けれど出来るだけ安心出来るよう手を重ねた。

「葵さんの話しならいくらでも聞くよ」

「ありがとう……私の両親は、亡くなってるの。前も言ったかな。雨の日の交通事故でね……」

 前にも聞いた。あれは文化祭準備の時。保健室での話しだった気がする。

「うん」

「それでプラネタリウムに行った時にこのネックレスは何か聞かれて答えなかったと思うの」

「そうだったね」

 きっと何か事情があると思って触れなかった話題だ。

 首元から銀色の細い鎖・が引き出される。

 電灯が反射しキラキラと輝いていた。

「これね……両親の形見の指輪をずっと持ってるの」

 手の平には鎖に通されたシンプルで美しい指輪が載せられていた。

「綺麗だね」

「そう。綺麗だよね……私が持っている両親のほぼ唯一の形見だから凄く大切にしていて……大切なものだからあまり人に言いたくなかったのごめんね」

「言ってくれてありがとう。本当にご両親のことが好きだったんだね」

「好きだったはずなんだけど……あまり思い出せなくて……だめだよね。私が覚えてないと、もう両親を知ってる親戚も居ないのに……」

「大丈夫。きっとご両親との思い出は心の奥深くに大切に眠っているだけ。大切だから失くしたくないんだよね……」

 言葉が出てこない。どう言っても必死に聞こえてしまうだろう。

 ふふっ、と小さく笑って「ありがとう」と言った。

「ごめんね、こんな話して……でも凄くほっとしてる。誰かに聞いてもらいたかったのかもしれないね」

 夜空を眺める彼女は儚く、いつもに増して美しかった。

「いつでも言って欲しい。力にはなれないかもしれないけど、少しは身が楽になると思うから」

 大したアドバイスも出来ない。その癖ただ話を聞くだけに徹することも出来ない。それでも葵さんの力になりたい。そう思ってしまう。

 そっと微笑んだ時、体が揺れた。

 正しく言えば葵さんが胸に顔を押し付け抱きついてきた。

「……()()()()好きだよ」

 ぼそっと呟いた葵さんの優しく背中に手を回すとより強く抱き締められた。

 それからしばらくは言葉を発することなく、穏やかな時を過ごした。



 〈四宮 葵(女)目線〉


 楽しかった四宮くんとの付き合っていた時間もあと少し。もう別れを告げなくてはならない。

 でも……未だに言えずにいた。

 そろそろ村雨家に着く。言い出そう、そう思ったところで先に四宮くんが口を開いた。

「もし他の人に告白されたと言ったら、葵さんは嫌、だよね」

「告白されたの?でも、葵くんが人気なのは知ってるから……」

 それにもう別れるのだから他の人と幸せになって欲しい。

 わがままを言えば自分の見ていないところで幸せになって欲しい。

 今なら言えるかもしれない。

 そう思って口を開くも声は出てこなかった。

「葵さん?」

 いくら口を動かしても喉で止まった言葉は出てくることがなかった。

「……何でもない。大丈夫」

「本当に?」

「うん」

 心配そうな目が今はとても心に刺さる。

「じゃあまたね、葵さん」

「夜に呼び出してごめんね。おやすみなさい……じゃあ……」

 またいつか──



 角を曲がる四宮くんを見送った。いつまでも四宮くんの去った方を見ていたかったけれど電車の時間がある。

 すぐに切り替えて駅へと向かった。もう水谷さんやご夫妻、鈴木さんをはじめとする他の使用人方にも挨拶をした。

 ただ……陽夜だけは受け入れてくれなかった。話すら聞いてくれなかった。それだけが心残りだ。

 駅のロッカーに入れて置いた荷物を取り出して新幹線に乗り込んだ。




 そして数時間後には柳田さんのいる京都へと辿り着いた。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

次回は来週金曜日の18:00更新となります。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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