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 〈四宮 葵(女)目線〉


 陽夜が蒼井さんとのデートから戻って来るとすぐに表と裏の交代を告げられた。初めてのことだった。

 陽夜のことだから何かしら理由があるに違いない。そう信じて待つも一向に理由を伝えてくれる気配は無かった。それだけでなく、その翌日から話しかけても無視されるようになった。


「陽夜。次の時間移動に変わったみたいだ……よ」

 いつものように話しかけた。何も違わないはずだが、陽夜は何事も無かったかのように横を通り過ぎ別の子に話しかけた。

 元々陽夜は友達が多く一緒に話していても他の子に呼ばれることも稀では無かった。

 けれど陽夜が無視をしてきたことは無い。

 今のも無視ではなく聞こえなかっただけかもしれない。

 そう思い時間を開けてから再び話しかけた。

「陽夜。先生が呼んでる」

 あえて詳しいことは言わなかった。そうすれば話が続くと考えたからであった。

 しかし今回も返事どころか目が合うことすら無かった。

 背後から「何先生が呼んでたか分かる?」という陽夜の声が聞こえ、胸が傷んだ。

 何がきっかけかは分からないが、そこまでしてでも関わりたくない理由があったのだろう。

 学校で話す内容は大した内容では無いことがほとんどだ。仕事上の影響も無い。

 そもそも護衛も同じ学校、同じクラスである必要はなかった。

 偶然同じ学年だった為に近くに居るのに都合の良い肩書きになっただけに過ぎない。

 陽夜が他の友達を選ぶならば学友としての私は必要無い。

 そう理解してからは陽夜に話しかけることはなく、ただ何かあった時の為に備えていた。



 そして気が付けば近づくことも許してくれなくなってしまっていた。

 勿論無理矢理気配を消して近づくことは出来るものの、流石にそこまですることは出来なかった。

 私と陽夜との関係はそんな簡単に崩れない。そう信じていたからこそ陽夜から何か言い出してくれるのをずっと待っていた。


 しかし期限は刻一刻と迫り、気が付けば京都へ向かう日となってしまった。


 元々柳田さんの元へ向かう日は『村雨』家の方々や使用人よ人達、そして四宮くんに別れを告げる日にすると決めていた。

 まず始めに旦那様夫妻に挨拶に向かった。前々から挨拶に向かうことを伝えていたおかげですぐに通された。

「失礼致します。四宮です。挨拶に伺いました」

「四宮さん、本当にいいんだね?」

 旦那様は未だに柳田さんの元へ嫁ぐことに後悔が無いか尋ねて下さる。けれど何度聞かれても決意は変わらない。

 後悔が無いと言ったら嘘になるが、それが私に出来る最大のお礼だ。

「はい」

「そうなのか……長い間ありがとう」

「こちらこそ、このような私を置いて下さりありがとうございました」

 身元もはっきりしない怪しい存在。たまたま身寄りのない私を旦那様が引き取ってくださっただけ。それにも関わらず仕事を与え、ここまで置いてくださったことに感謝している。

「四宮さん……本当にいいの?陽夜の代わりになんて無理しなくてもいいのよ」

「奥様。お気遣いありがとうございます。ですが私にとってお嬢様は、身を捧げても足りない存在でございます。そんなお嬢様の代わりになれることを幸せに感じております。ですので私のことを想ってくださるのであれば、そのようなことはおっしゃらないでください」

「四宮さん……」

 いつも優しくて微笑んでくれる奥様が好きだった。

 優しくてあたたかい──本当に陽夜とそっくりだ。

「何があったのかは分からないけど、頑固な陽夜のことだから最後まで四宮さんと話そうとしないと思うの。だから良かったら手紙でも書いてあげてくれない?いつか……気が付いた時に読めるように」

 最後の言葉の意図は分からないもの、手紙を書くことには賛成だ。陽夜は素直に見えて実はかなり頑固である。芯が通っているのは良い事だが、このままではきっと何も告げられない。せめて手紙で事情を説明しておきたい。

「かしこまりました」

「四宮さんに……いや、なんでもない。長い間ありがとう。またどこかで会える日を楽しみにしているよ」

「はい。旦那様、奥様、今まで大変お世話になりました。お体にお気をつけて」

 今出来る最も美しい礼をしてその場を去ろうと扉に手をかけた。

 その瞬間後ろから誰かに抱きつかれた。

「ごめんね……葵ちゃん」

「奥さ、ま?」

 とても懐かしい匂いがする。どこで嗅いだのだろうか。

「ずっと娘のように思ってました……ありがとう」

 普通の人ならば涙ぐむのだろう。けれど感情の起伏がそれほど激しくない為、何も感じない。

「奥様、私の方こそありがとうございました」

 そう言って微笑む。心優しい義理の娘に見えるように。

「これ以上は別れが辛くなってしまいますので失礼致します」

「そうだね、今までありがとう」

「元気でね」

「はい。それでは失礼致します」

 扉を閉めてから軽く息を吐く。 一回一回時間をかける訳にはいかない。

 次は水谷さんに別れを告げよう。

 そう決めて早足で水谷さんの元へ向かった。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

次回は来週金曜日の18:00更新となります。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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