お家デート編 本戦
村雨 陽夜目線から始まります。
──当日
用意は揃った。
髪は三つ編みのハーフアップにし、緩く巻いた。香水や服装もなるべく好みに近づけた。
あとは実力で落とす。本当に好きな人にそれをするのもどうかとは思うが、使えるものは全て使う。
気持ちを落ち着ける為に待ち合わせ場所の図書室近くの廊下で窓を眺めていた。
すると少しして蒼井くんがやって来た。
「遅くなりました」
普段と変わらない髪型に眼鏡姿のはずなのに何故かかっこよく見える。執事服では無いからだろうか。
思わず見惚れてしまっていた。
カタンッと遠くで小さく音がし、今の状況に気が付いた。
今私がするべきことは見惚れていることでは無い。どうやって蒼井くんを落とすかだ。
「蒼井くん、今日はよろしくね」
「あっ、はい。こちらこそよろしくお願いします」
少し堅いだろうか。この前の方がまだ打ち解けられていた気がする。
けど今日はまだ時間がある。お昼過ぎの待ち合わせにしたとはいえ、一人落とすのには充分な時間だ。
今日でだめなら諦めるくらいの気持ちでしよう。
そう自分に言い聞かせて会話を振った。
「今日って蒼井くんが勉強を見てくれるので良いの?」
「はい。分からないところが合ったらご遠慮なくお申し付けください」
「ありがとう。凄いね、蒼井くんは勉強が出来るんだ」
「それなりには」
「凄いね……蒼井くんに教えて貰えるのは嬉しい」
さり気なく相手を褒める。『凄い』『嬉しい』そういった言葉も有効だ。相手の名前を呼ぶとなお良い。
「ありがとうございます」
これだけでは流石に落ちない。これだけで落ちてしまっては手応えが無く面白くない。
面白いのはこれからだ。
図書室に着いてからは向かいの席に座り各々の勉強を始めた。
分からない所を教えてもらおうと思っていたが、そもそも分からないところはほとんど無かった。
先に参考書を読んで来たからだろうか。
このままでは終われない。そう思い少し複雑な応用問題で躓いてみることにした。
「蒼井くん、ここって分かる?」
「どれでしょう?」
「ここの大問三の二のところで……」
「少しだけ見させてください」
参考書の向きを蒼井くんが見やすいように回転させる。すると少し読んだだけでまた口を開いた。
「ここはですね……」
元々理解はしている問題ではあったが、分かりやすいの一言だった。少しボヤけていた端の方までくっきりと見えるようになった感じだ。
「凄い分かりやすい。蒼井くん才能あるよ。人に教えたり人の上に立つ才能が」
「……ありがとうございます」
ぽかんとした蒼井くんを見て気が付いた。
今何も気にせず口にしてしまっていた。こういう時は一言でも気を許せないというのに。
「少し休憩にしない?そろそろ一、二時間経つし」
「そうしましょうか」
ここで切り替えなくては……
流石に図書室であまり話すことは出来ないため、図書室横の談話室に移動する。こちらの歩幅に合わせてくれているようだ。
あまり女性の影は見えないが、さぞかしモテるのだろう。私も葵くらい容姿が良ければもっと自信を持てたのだろうか。
そんな考えが頭を過ぎった。
大丈夫。今葵は関係ない。葵だって蒼井くんとのことを応援してくれている。
「葵と一緒にいちご大福を作ったんだけど、蒼井くんはいちご大福は嫌いじゃない?」
「四宮さんと……!?」
様子がおかしい。何か話さなくてはと焦ってはいたがそこまで変なことを話した覚えはない。
「蒼井くん、どうしたの?」
「四宮さんと作られたのですね」
「そう!葵は凄いよ」
予め用意していた緑茶といちご大福を並べる。
「そうですね……本当に四宮さんのことを尊敬します」
「葵は何でも軽々とこなすからね。でも……今他の女の人の事を褒めるのは嫌だな」
少しだけむっとした声で言う。勿論冗談だと分かるように可愛さを残して。
「その通りですね。すみません」
「大丈夫!……あと敬語じゃなくてタメ口で話して欲しいな、なんて言ったら困るかな?」
少しでも近づく為にまずは口調を変えてもらいたい。
「そこは難しいです」
「じゃあせめて『お嬢様』じゃなくて『陽夜』って呼んで欲しいな」
「今だけでしたら……陽夜さん」
その声を聞き満足そうに笑う。心から嬉しそうに。
「ありがとう!お茶も冷めちゃうからそろそろ食べよう! 」
抹茶を点てる蒼井くんは和菓子が好きだろうという勝手な想像でおやつをいちご大福にしてしまった。
食べている様子を見るもおかしいところは別に無さそうだ。口に合っただろうか。
「とても美味しいです」
「それなら良かった……そう言えば蒼井くんってどうして抹茶を点てられるの?」
少しでも長く話せるよう探した話題。少しずつ踏み込んだ話題を話したい。
「鈴木さんが何か一つ特技を持っておくと良い、と教えてくださったからですかね」
「そうなんだ!でも鈴木さんは一つじゃなくて何でもそつなくこなしているイメージがある」
「本当に鈴木さんは凄い方です。先日ですね、私が──」
そう言うと楽しそうに話し始めた。この話題は当たりだったようだ。
そこからは話が盛り上がり、すっかり勉強の休憩だったことは忘れてしまっていた。
そして気が付けは夕方になっていた。
「申し訳ありません。こんな時間まで」
「大丈夫!楽しかったし、私も気が付かなかったから」
楽しかったのは本音だが、正直なところ焦っていた。まだ蒼井くんを落とせていない。
会話の途中もかなり意識をして話していた。
しかし、どうやっても落ちたという確信を持てなかった。
やり直しは効かない。今日で終わらせると決めたのだ。
「部屋まで送らせてください」
「ありがとう」
どうしよう。もう終わってしまう。
焦りから気が付けばを名前を呼んでいた。
「蒼井くん!」
「はい」
とても柔らかくて聞きやすい声。いつまでも聞いていたくなってしまう。
それにロケーションも悪くない。夕日が射し込む窓の下。かなり理想的ではないだろうか。
どちらにしてもここまで来ては引き返せない。
「蒼井くん。一つ聞いて欲しいことがあります」
言葉を続けるために一度深く息を吸う。
大丈夫。蒼井くんも待ってくれている。
「蒼井くん……ずっと好きでした。立場上難しいのも分かってます……『家』々の令嬢には幼い頃から許嫁がいるのが当たり前で、私みたいに居ないのは本当に奇跡のようなことだと思ってます。多分、そのうち私にも婚約者が現れて、今までのように自由に過ごすことは出来なくなります」
自分でも何を言っているのか分からない。ただ気持ちのままに言葉を紡ぐ。
「短い間かもしれないけれど、一生自分を誤魔化せるように夢をくれませんか。こんな私ですが……付き合って欲しいです」
本音と建前が入り交じり矛盾している。既に私の存在が矛盾だらけなのかもしれない。
きちんと言葉は考えてあったにも関わらず、ほとんど言うことが出来なかった。
反応が怖くて目を見ることが出来ない。恐る恐る蒼井くんに視線を戻すと思ってもいなかった言葉が聞こえてきた。
「お嬢様は……私の名前をご存知ですか」
「蒼井くん。蒼井 駿くんだよね?」
今更なんのことだろうか。もしかしてかなり鈍感で告白したことに気が付いて居ない……?
「だから、なんですね。葵は私の下の名前です」
嫌な予感がする。その後の言葉を聞くのが怖い。
「私の苗字は──」
聞きたくない。嫌だ。やめて……
「──四宮です」
「っ……」
ずっと感じていた違和感はこれだったのだ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回は来週金曜日の18:00更新となります。
そのうちタイトルと名前を変更します。
タイトル「好きになってはいけない君に恋をした」
名前「伊月 紗良」
ご迷惑をおかけすることもあるかと思いますが、ご了承ください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




