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スポーツ大会 五


 指示がありレーン内に入る。

 クラウチングスタートだ。大丈夫、何かあってもあの三人ならばカバーしてくれる。

「位置について、よーい」

 パンっとピストルが鳴った。

 始めは二番目と男子が多い中でも好調だった。

 しかし体力に差があるのは明らかですぐに後ろから迫って来た。

 抜かされる、というところで誰かに背中を押された気がした。

 体が傾き倒れていく中、後ろに居た二人が抜かして行くのが見え、前から芝に叩きつけられた。

「っつ」

 痛い。きっとまた葵に怪我をしないようにと心配されるのだろう。

 しかし今はとにかくゴールしなくてはならない。

 急いで立ち上がり再び走り出す。

 一歩前へ足を出す度に足が痛む。もはやどこが痛いのかも分からない。

「村雨さん!」

 井上くんの姿が見えたところでそう声をかけられた。

「井上くん、ごめんなさい」

「大丈夫。任せて」

 右手にあったバトンが井上くんの左手へと移った。

 そして勢いが落ちることなく、走り始めた。

 井上くんの左手には青のバトン、そして左手首には淡い空色のリボンが靡いていた。

「あれって私の……?」

 どうして付けているのだろうか。

「陽夜ちゃん、白って誰が走ってるの?」

 去年は仲良くしていたものの今年別クラスになり疎遠になっていた子が話しかけて来た。

「今?今は井上くんだよ」

「井上くん凄いね、もう二位にいる」

 そう言われてきちんと応援していなかったことに気が付いた。

 私が最下位で渡したバトンは井上くんの手によって一位の人と接戦になっていた。

「凄い……井上くん、頑張って!」

 聞こえる訳が無いと分かりつつも声を上げる。すると一周して姿がハッキリと見えるようになった時、順位を上げた。

「凄い……」

 任せて、という言葉は嘘でなかった。まさかここまで順位を上げるなんて誰が想像しただろうか。

 そして流れるように葵にバトンが移った。

 他のチームも女の子が多いからか徐々に差をつけて行った。

 そして四分の一周ほど差をつけてアンカーである四宮くんにバトンが渡された。

 四宮くんも凄かった。他のチームがアンカーにバトンが移るまでの間に半周の差をつけた。

「陽夜、お疲れ様」

「葵もお疲れ!」

 丁度走り終わった葵が隣に来て一緒に応援しだした。

 葵と話す為に視線を逸らしたほんの少しの時間で既に先程とはかけ離れた場所を走っていた。

 二位以降が後を追い、スピードを上げるも差はより離れていく。

 そしてそのまま大差をつけてゴールした。




──陽夜の自室にて


「スポーツ大会楽しかったな」

 学校から帰り自室でぐっと背伸びをする。

 普段体を動かす機会があまりないからか思っていたよりもハードだったけれど、十分に楽しめた。

 結局あの後は優勝クラスの発表があり解散だった。勿論結果は優勝。リレーで一位を取れなければ危なかったものの、二位に差をつけての勝利となった。

 去年までとは違い井上くんや四宮くんも居たからか葵も楽しそうだった。

 葵は今までは他の人とは一線を置いており、どこか高校生らしくない雰囲気を出していたが今日は可愛い女子高生だった。

「私も恋人が欲しいな……」

 思わずそう呟き鏡を見る。

 自分で言うのもだが、顔立ちは悪くない方だ。スタイルも気を付けているから葵ほどでは無いが良いはず。

 性格もそう酷くはないはずだ。

「だとしたら問題は私が告白を断ってしまっていることにあるのかな」

 告白されることは少なくない。

 朝登校すれば机の中に手紙が入っていたり、休み時間には呼び出されることがよくある。

 好きな人は居ることが多く、恋バナも好きだ。現に蒼井くんに恋している。

 しかし未だに一度も誰かと付き合ったことはない。

 勿論好きな人から呼び出されたことはあるが、そういう場合は大抵葵のことが好きで「きっかけを作って欲しい」「呼んできて欲しい」と言われる。

「葵は綺麗だからね」

 仕方がない。私でも葵を選ぶ。納得はしているが、やっぱり寂しく感じる。

 しかし今回は蒼井くんと葵が付き合う可能性は無い。

 葵は今四宮くんと付き合っている。

 学校で一番人気と言っても過言でない人と付き合うのは流石だなと思うが、葵が四宮くんのことを容姿で選んだ訳では無いことくらいは分かる。

 たまに四宮くんとのことを聞くと何事も無いかのように惚気けてくるが気付いているだろうか。葵は四宮くんのことを話す時はいつものキリッとした顔とは違い、優しい顔になる。

 そんな葵を見てると自分も恋人が欲しいと思ってしまう。

 私は『家』のことを考えると誰とも付き合うことは出来ない。でも高校生の時のちょっとした恋愛くらいなら許されるのではないかとも思う。

 だからこれが最初で最後のチャンス。

 近いうちに蒼井くんに告白する。

 流石の蒼井くんもほとんど話したことがない人から告白されたら戸惑うだろうから、一度一緒に話す時間が取れてから告白すると決めた。

 私が『家』の教育で施された全ての技術を使って蒼井くんを落とす。

「待っててね、蒼井くん」


最後まで読んでいただきありがとうございました。

今回で『スポーツ大会編』は終わり、次回からは陽夜の『おうちデート編』です。

また書き終わり次第投稿となります。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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