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初めてのデート 中

 

 開演の時間になり入場すると想像とは違った形で驚いた。

「もっと映画館みたいな感じかと思ってた……」

「今日はゆっくり見られるようにと思って横になって見られる席にしたけど、嫌だった?」

「そんなことないよ。凄く嬉しい」

「喜んで貰えたようで良かった」

 席の番号を確認し大きなクッションのような席に触れると手が沈んだ。

 とてもふわふわとしており、カバーも柔らかく寝心地が良さそうだった。

 そっと腰を下ろすと全身が雲に包まれているかのような錯覚に陥った。

「すごい、体が沈む……」

 頬が緩み、足を少し伸ばしたところで四宮くんが楽しそうに笑っている姿が目に入った。

「葵くん?」

「はしゃいでる姿も可愛いなって思って」

 四宮くんがいることを忘れて一人で楽しんでしまった。

「ごめん、はしたなかったね。少し落ち着くね」

 少し鎖が長めのネックレスを服の上から触れ、いつものように軽く深呼吸をすればすぐに落ち着く。

 無意識に閉じていた目を開けると四宮くんがこちらに手を伸ばしていた。

「葵、くん?」

「あっ、ごめん……その、切り替えが早いね、葵さんは」

 褒められているのだろうか。取り繕っている感が否めないが、褒められているならば感謝を伝えなくてはならない。

「ありがとう」

 その言葉に何か思うところがあったのか表情を曇らせた。

「やっぱり誤魔化すのは嫌だね……切り替えが早くて凄いなと思ったのは事実だけど、手を伸ばしたのは首元に何かあるのかなと思って」

「もしかしてネックレスのことかな」

 服の合間からそっと鎖を持ち上げ四宮くんにも見えるようにする。

「これは私にとって大切なものだから」

 何にも変えられないくらい大切なもの。このネックレスに触れるだけで気持ちは落ち着き、その時の最適解が見えてくる。

 プールの時は失くしたくないので外したが、それ以外の学校はやこうして出かける時は必ず身に付けている。勿論、仕事の時も同様だ。

「そうなんだね。ちなみに葵さんは装飾品の中ではネックレスが好きなの?」

 凄く大切にしてるみたいだけど、そう尋ねながら横に腰を下ろした。

 同じクッションに座っていることもありいつも以上に近い。

 鼓動が早くなるのを抑えつつ質問の解を考えた。

「特にどの装飾品が好きとかはないかな。このネックレスは思い入れがあるから大切にしてるけど」

 そこまで答えたところでアナウンスが入った。

 そろそろ始まるようだ。

 初めてのプラネタリウムにわくわくして少しの間四宮くんの存在を忘れていた。

 星々を眺め解説に耳を傾けていると手に何かが触れた。それは指を一本ずつ絡ませ、少し動いてから落ち着いた。

 横目で四宮くんを見ると何事もなかったかのように空を見つめていた。

 存在を忘れるな、ということだろうか。

 やはり四宮くんのことはよく分からない。

 人の心でも読めるのだろうか。

 そこまで考えてから考えることをやめた。

 そしてもう見ることが出来ないであろう人工的な星々に集中した。



「葵さん、初めてのプラネタリウムはどうだった?」

「すごく綺麗で、今まで知識でしかなかったことが繋がった気がする」

 夜に自分の部屋の窓から星を見ることはあるが、人工とはいえ数が違った。

 やはり都心部では見える数も限られる。

 いつだったか思い出せないがかつて屋根に登って星を見たことがある。

 それは美しく、見ているだけで心が洗われ無心になれたのを覚えている。

 背に当たるゴツゴツとした感触、空に伸ばした手に通るひんやりとした風、そして下を見れば吸い込まれそうになった。

 そこまで覚えていてもいつのことかが全く思い出せない。

「知識ということはよく星とか宇宙とかの勉強をしてるの?」

「よくするとまでは言えないけど、星に関連する本は結構読んでるかもしれない」

 図書館の星に関する本はここ十年くらいで読み尽くした。

 読むのが楽しくて気が付いたらまだ読んでいない本が無くなっていた。読み尽くしてからは新刊が入っては読んでということを繰り返し、星以外にもその派生として天文学関連の本は読み尽くした。



「あっ、ここかな」

 そう言い止まった場所はとある喫茶店の前だった。

 焦げ茶の木目と白を基調としたお洒落な外観だ。

「ここがもう一つの来たかった場所?」

「そうだよ。ぜひ葵さんに来て欲しいと思って」

 四宮くんがそう言うからには何かあるのだろう。中の様子を見ようにも窓はカーテンで閉め切られていて窺えない。

 エスコートされてお店の中に入ると夢のような世界が広がっていた。

 暗い室内に淡く照明がともされ、壁には白と青の光で星座が描かれている。外観と同じで木目を基調としており、落ち着いた雰囲気が心地良い。

「葵さん、何頼む?」

 広げられたメニュー表には星空を連想させるようなメニューが写真と共に記されていた。

『満月のパンケーキ、夜空のソーダ、餅つきうさぎのラテ、花と宇宙(そら)の紅茶』

 どれも綺麗で目移りしてしまう。

 宇宙がテーマにされているからか、全てのものが関連されたものになっている。

 長く迷った末に『花と宇宙(そら)の紅茶』と『星空のクッキー』を頼んだ。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

次回の更新も二、三日後の予定です。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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