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プール編 上着

雰囲気が少しアレです。(分かりにくくてすみません)

苦手な方は御遠慮ください。


「葵!遅かったけど大丈夫?何かに巻き込まれたりしたない?」

 開口一番に相手を気遣うところが陽夜らしい。

「大丈夫。遅くなってごめんなさい」

「葵だけに任せてごめんね」

「私が言い出したことだから。席取りありがとう」

 それぞれにトレーと注文の品を渡す。

「たまに忘れそうになるけど本当にメイドとして働いているんだね」

「ご縁があって長いことそうさせていただいてるかな」

 全員分を配り終え自分も座って昼食をとる。

 井上くんの先程の質問だが、細かく言えば最近は護衛の時間の方が長い。

 あまり人に言う内容でもないので訂正はしない。

「葵は結構前から居てくれてるよ。小さい頃の記憶はあまりはっきりしないけど……私が四歳くらいの時からだったかな」



 話しながら食べているとあっという間に食べ終わってしまった。

「じゃあ片付けてくるね」

 みんなの分の食器類を受け取り、持ちやすいように調整していると四宮くんが「一緒に行く」と言い立ち上がった。

「大丈夫だよ。一人で持てるから」

 正直に言えば井上くん一人で陽夜を見てもらう(守ってもらう)のは不安に感じる。

「葵、大丈夫だよ。ここから動かないから二人で行ってきたら?」

「食器の返却くらいなら私でも大丈夫だよ」

「心配だから一緒に行きたいっていうのはだめ?」

 二匹の子犬から見つめられているようで無視できなかった。

「じゃあ四宮くん、お願い出来るかな」

「うん、半分もらうね」

 そう言い半分以上の食器を持っていってくれた。

「ありがとう」

「無理を言ったのはこっちだから」

 それから少し話しているとあっという間に返却場まで着いた。

 そこに着くには一本奥に入らないといけないので、人目につきにくいからか昼時にもかかわらず、誰もいなかった。

 決められたところに食器を重ね軽く手を合わせる。

「ごちそう様でした」

 目の前に人がいなくてもお礼を伝える。いつからかは思い出せないが既に習慣になっている。

「ごちそう様でした」

 続けて四宮くんも言う。合わせてくれたのだろうか。

「合わせなくても良かったのに」

「お礼は大事だからね」

「じゃあそろそろ戻ろうか。あまり待たせても申し訳ないから」

 そう言い体の向きを変えると、トンと何かがぶつかった。

 しっかりとした腕が肩に当たり、首と胸の間へと回される。

 耳元で低く優しい声が自分の名前を呼ぶ。

「葵さん」

 四宮くんに抱きつかれていると気がついたのはそれからだった。

「し、四宮くん?」

 振り向こうとするも目を隠されてしまった。

「今酷い顔してると思うからだめ」

 有無を言わさない声に思わず頷いてしまった。

「あっ、はい」

「さっき一緒にいた男の人って誰?」

 そう言われて思い出すのは転びそうになったのを助けてくれた人だ。結局あの人誰だったのだろうか。

 いくら考えても誰に似ているのかが思い出せない。

「転びそうになったのを助けてくれた優しい人です」

「嘘はついてない?」

「本当のことです。それ以上でもそれ以下でもない。それより……何かあった?いつもと違う気がする」

「ごめん。勝手に思い違いをして嫉妬してた」

 嫉妬するほど想ってくれていたことがとても嬉しい。

 そっと四宮くんの手に両手を重ねる。

「勘違いしても少しずつ歩み寄っていけば良いと思うよ」

 歩み寄る間もなく別れなくてはならない日がすぐに来る。騙していることが心苦しいがもう少しこの幸せに浸っていたい。

「そうだね。ありがとう」

 回されていた腕がより強く抱きしめる。

 そうされてから気がついたが、今かなり恥ずかしいことをしている気がする。

 いつ他人が来てもおかしくないところで抱きしめられているのは恥ずかしい。

「そろそろ、戻らないと。あまりにも遅いと二人とも心配するよ?」

「もう少しこのままで良いかな」

「……他人がいるところで恥ずかしいから」

「下に水着は着ているよね?」

 頷くと首の下あたりに置かれていた手がファスナーへと移り、ゆっくりと下げていった。

 日に焼けていない白い肌が徐々に姿を現わす。

 葵くんはあまり体に触れないようにしてくれているみたいだが、身体の凹凸に合わせて手を動かすため、時々お腹に手が当たったりとくすぐったい。

 こうされるくらいなら普通に自分で脱いだ方が恥ずかしくなかった気がする。

 ファスナーを全て開けると次はそれを脱がそうと肩からずらそうとしてきた。

 手を通したまま二の腕あたりまで上着が落ちてきたところで振り向いた。

「自分でやるので、大丈夫です」

「ありがとう」

  そう笑顔で言われてしまったら敵わない。

 脱いだ上着を軽くたたみ、四宮くんの方を向く。

 こういう時は何て言えば良いのだろうか。

「どう、でしょうか……」

 そう尋ねるも反応はなく、無言のままだった。

 声も出ないくらい酷いものだっただろうか。

 上が紺のクロスワイヤー水着で、スカートは白をベースとし青系の花が散っている。

 ちなみに陽夜は明るい水色のフレアビキニに、上着は紺と白のボーダーだ。

 色が少し被っているのは偶然だが、陽夜が嬉しそうに「お揃いだね!」と言っていたので変えようとは思わなかった。

 自分の水着は確かに店員さんに勧められたものをそのまま買ったので、露出が少し高めな気もする。普段ならいくら店員さんに勧められたからといって絶対に着ないが、四宮くんが来るならばと思い買った。

「人に見せられるようなスタイルではないですよね……」

 自分では悪くはないと思っていたが他人の目から見たらそうではなかったようだ。少し凹むがもっと良いスタイルになれるよう努力すれば良いだけだ。

「そういうわけではなくて」

 片手で顔の半分を覆い視線を流して言った。

「凄く綺麗で……言葉も出なくて……」

 途切れ途切れだったとがはっきりと聞こえた。

 四宮くんの顔を見ることが出来ず軽く頭を下げてから俯いた。

「他の人に見せたくないくらいで……やっぱりあの時助けられてたら」

「いつも四宮くんは助けてくれてるよ」

 頑張ってフォローしたがあまり響かなかったようだ。

「でもあの時一緒に行ってたら」

 四宮くんの手を取りぎゅーっと握る。

 迷ったのは数秒だが行動に移すことには時間がかかってしまった。

「葵さん?」

「私は人を励ますのが苦手で感謝を伝えることしか出来ないけど、いつも葵くんに助けられてます。ありがとう」

 これが精一杯のお礼だ。

 本当はハグくらいした方が良かったのだろうが、恥ずかしさが勝ってしまい出来なかった。

「ありがとう」

 言い終わる前に抱きしめた。なぜ四宮くんは躊躇いもなくこのようなことを出来るのだろう。

「でも、他の人には見せたくないから上着は着てね」

 何と返事をして良いのか分からずとりあえずはと思い頷いた。

「もう一回名前で呼んでくれる?」

「あお——」

「あっ、すみません」

 声のした方へ振り向くと食器を返却に来たであろう人たちが去っていくところだった。

 ここまで近づかれていたにもかかわらず、気がつかなかったことに軽く落ち込むが、それよりも抱きしめられているところを見られてしまったことに対するショックの方が大きい。

「人前ですし……」

 そう言い一歩下がり急いで上着を着た。

「そろそろ戻りましょうか。二人とも待ってますから」

 返事を聞くこともなく歩き出した。

「もしかして怒ってる?」

「怒ってないです」

 四宮くんの顔を見ただけで頰が緩んでしまうのは重症だろうか。

「人前では恥ずかしいのでやめていただきたいなと思いまして」

「ごめんね」

 その一言だけで許せてしまう。けれどもう一つだけ交渉しなくてはならない。

「あと、人前では名前呼びではなく苗字で呼んで欲しいです」

「分かった。()()()()なら良いってことだね」

 反応に困るので強調しないで欲しい。

 四宮くんは困っているところを見るのが楽しいのか笑っている。

「じゃあ俺からも二つ、お願いしても良いかな」

「はい」

 どんなものをお願いされるのかとドキドキしていたが、特に変わったお願いでもなく納得がいくものだった。

「一つは敬語……今わざと使ってるよね、それを直して欲しいなって思って」

「うん……それで二つ目は?」

 敬語の方がポーカーフェイスを保ちやすいのでこのまま敬語で通したかったが、そうもいかないようだ。

「二つ目は二人の時くらいは名前で呼んで欲しいなと思って」

「じゃあ……葵くん。こんな感じで良いかな?」

「ありがとう」

 顔を見合わせ互いに笑った。ふわふわとした平和的な空気が好きだ。

 期限が決まっているからこそ大切さに気づける。それが婚約した唯一の自分にとっての利点だったのかもしれない。

「聞いて良いのか分からないけど、葵さんは腹筋が割れていたりする?」

「気がついたら縦にラインが入っていたって感じで、元々はそこまでがっつりというつもりではなかったかな」

 本当に気がついたらという感じだ。

 女性は筋肉がつきにくいと聞くので良い方なのだろうか。健康的ならば何でも良いというのも本音ではある。

「そっか。でも頑張っているんだなと思うよ」

「そうかな?確か葵くんも腹筋が割れているよね?」

「そうだけど……葵さんの前で上着脱いだかな」

 今日は四宮くんも上着を着ていた。

 上に何も着ないというのは、男性の水着からしたら日焼けして痛そうだ。

 ちなみにいつ腹筋が見えたのかというと、対戦している時に目の前でジャンプをしていたので上着が少しめくれ見えたのだ。

 イケメンは身体も鍛えるのか、大変だなと変に感心してしまった。

「バレーでジャンプしたいた時に……」

 そう言ってから気がついた。他人のことを見過ぎていたかもしれないが。

 他人からジロジロと見られて良い気がする人はなかなかいないだろう。

「ごめんなさい。その、不可抗力です。いつもそんなジロジロと見ているわけではなくて……つい目で追っちゃうことはあるかもしれないけどそういう風に見てたとかじゃなくて——」

「ふふっ……葵さんは焦ると口数が増えて早口になるんだね」

 四宮くんが楽しそうでなによりだが、自分のことで笑われていると思うと複雑だ。

「聞き取りにくいよね。気をつけるよ」

「気にしたかな。可愛いなと思っただけなんだけど」

 またさらっと『可愛い』と言った。

 流石に言われっぱなしは悔しい。

「ありがとう。葵くんはかっこいいよ……すごく」

 少しくらいは顔を赤くしてくれるかと思ったが少しもそのようなそぶりは無かった。

「ありがとう、葵さん」

 微笑みすら返せるほど余裕なのか……

 ふと視線をあげると仲良さげに話している二人の姿が目に入った。

「遅くなってごめんなさい」

 そう言い二人の横に腰を下ろす。

「大丈夫だよ。でも二人とも戻って来たしそろそろプールに入ろう!」

 それからは他愛もない話をしながらプールに流された。



最後まで読んでいただきありがとうございました。

次回の投稿ですが、また一、二週間後を予定しています。

また始まり(一話あたり)を大幅改訂する予定です。

大体の流れは変わりませんが、文章が変わるという形になります。

今後の話に出来るだけ支障が無いようにしますが、まだどうなるかは分からないといったところです。

以下、改訂部分のネタバレです。読みたくない方は飛ばしてください。






・コスプレ展開が無くなります

・四宮くんと一緒に帰っているのが原因で虐められるという展開でしたが、いじめられている人を助けたという展開に変わります


他にもいくつか変わっているところがあるかと思います。


次回もまた読んでいただけると嬉しいです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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