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お出かけ

「ごめん、一番最後になってしまったようだね。早めに出てきたつもりだったんだけど……」

 四宮くんはそう申し訳なさそうに言うが実のところ私と陽夜が45分前には居ただけだ。

「「「………」」」

「四宮くん、葵のことをそんなに見つめてどうしたの?」

 陽夜にしては珍しく少しからかうような口調だった。

「いや、そんなつもりではなくて……髪、結んでいるんだね、似合うね」

「えっ、ありがとう……」

 予想もしていなかった言葉をかけられ、ありがとう、としか言えなかった。

 しかし、三つ編みにしたりと時間はかけたので似合うと言ってもらえたのは嬉しく思い、また顔が熱を持っているのも分かる。

「私は?私も今日はいつもと違って髪を巻いているんだけどな」

「村雨さんも似合っているよ」

「ふふ、ありがとう」

 さっき私に言った時のような焦りは四宮くんにはすでになかった。代わりにいつものさわやかな笑顔で答えていた。

 やっぱり四宮くんも陽夜の前だと自然と笑顔になる。どの男子でもそうだ。私もつい顔が緩んでしまう。

「じゃあ、まずは布を買いに行こう!」

 そう言って陽夜は少し前に出て歩き始めた。

「手芸屋さんで何買うの?」

「布の他にも剣とか、雑貨も買えたら良いなとは思っているよ」

「そっかー、あれ?四宮くんも裁縫出来るんだっけ?」

「うん、覚える機会があってそれで出来るようにはなったかな」

 すごい、四宮くんに出来ない事はないのでは無いかと思ってしまう。

 男子でも裁縫が出来る、とはっきりと言い切れる人はなかなかいないと思う。

「すごいね、二人とも……私、居てもよくわからないと思うから雑貨とか見てても良い?その方が時間の短縮が出来るかなと思ったんだけど……」

「私は大丈夫だよ」

 陽夜の提案はよっぽどの事がなければ断るつもりはない。ただ四宮くんが良ければだけど……

「大丈夫だよ、むしろその方が効率よく見れるかもしれないね。布の方が決まり次第合流という形で大丈夫かな」

「ありがとう、じゃあ見てくるね!」

 そう言って歩いて行ってしまった。

「私達もそろそろ見ようか」

 陽夜の方よりこちらの方が時間がかかりそうだ。陽夜をなるべく一人にさせないようにしなくてはならない。

 何かあってからでは遅くなってしまうからだ。そう思い四宮くんより少し前に出て歩き出した。


「やっぱりシンデレラのドレスはこっちの布の方が広がって見えるんじゃない?」

「確かにそっちの方が見た目は良いけど、値段と縫いやすさはこっちの方が良いんだけど……」

 今、私の着るシンデレラのドレスの布選びをしている。四宮くんと意見が分かれてしまい中々決まらない。見た目か機能性、どちらを取るべきか……。

「じゃあこれは?少し縫いにくいかもしれないけど、四宮さんにはこの淡い水色が似合うと思う」

 四宮くんが勧めたのは淡い水色の布だ。私が選んだものよりは少し縫いにくそうだが、肌触りも良く着やすそうな素材だ。

「四宮くんがせっかく言ってくれてるならこれにしようかな?……四宮くんはどうする?イメージは白のパンツと紺の上着に銀の刺繍を入れようかなと思っているんだけど……」

 本来ならば、銀色の刺繍糸を使うよりも金色のものの方が映えて綺麗に見えるだろう。しかし、四宮くんが着るなら別だ。少し爽やかな印象を残しつつ華やかに見せなくてはならない。

「四宮さんが選んでくれるならどれでも大丈夫だよ」

 そう言うと、何かふわっと軽いものが顔に触れた。そして目の前が薄い水色に覆われたと思ったが、またすぐに視界が明るくなった。

「結婚式のベールみたいだね、劇にもこういうシーンがあったよね」

 そう言って笑った四宮くんの耳はほんのり赤く染まっていた。

「……あのーお二人さん。私の方は終わったけど、もうすぐ終わる?」

「うん……さすが陽夜!そのレース綺麗だね」

「でしょ!葵に似合いそうだな、と思って」

「本当だ、四宮さんに似合いそうなものだね」

「葵は可愛いから似合いそう」

 陽夜の方が、と言うたびに陽夜に否定されてしまう。

「ありがとう……でもそれより早く買って出よう」

 あまり褒めなれていないからか顔が熱くなっていくのが分かる。それに周りの人の視線が少し気になる。


「良いのが買えて良かったね!」

「今回欲しいものはだいたい揃ったかな」

 来る前に必要なものを書いたメモを見ても書い忘れは無さそう。

「この後行きたいところがあるんだけど良いかな?」

 私は大丈夫だけど、と思いながら四宮くんを見てみると同じような反応をしていて目が合ってしまった。

「わ、私は大丈夫だよ!」

「まだまだ時間はあるから平気だけど、村雨さんはどこに行きたいの?」

「『メイドカフェ』だよ」

「メイドカフェ?」

「やっぱりやるなら一回は行った方が良いかな、と思って」

 陽夜のことを断るつもりは無いが『メイドカフェ』は意外だった。

 ただ陽夜の言うように実際に見てみた方が良いかもしれない。きっと普段私がして居るような方法とは勝手が違うだろうし……

「確かこの辺りだったと思うんだけど……ここだね!」

 そこは想像以上にピンク色の世界だった。

「外見も撮っておいた方が良いよね。一応許可を取りに行こうか」

 そう聞いてみるとすぐさま否定された。

「あっ、それなら大丈夫だよ。事前に連絡したらどこでも撮って大丈夫だって!それに体験させてくれるらしいから葵、頑張ってね!」

 それは聞いてませんよ陽夜さん……

「四宮くんが撮ってくれたみたいだから入ろう」

 陽夜に押されて中に入ってみると。

「おかえりなさいませ、ご主人様♡」

 これだけの言葉なのにハートが飛び交っているように見えるのは気のせいだろうか……

「連絡していた四宮です」

 今さらっと嘘をついたような?

「ではこちらでお待ちください!」

「陽夜、どうして名前を?」

「お父さんとかにバレちゃうと何か言われちゃうかなと思って」

「旦那様に見つかったら私が怒られちゃいますよ」

 小声で訴えるも陽夜には伝わらないのか満面の笑みで返された。

「まあまあ、四宮くんも居るからね」

 そうだった……今は友人として遊びに来ているだけ……それでも、見つかったらと思うとドキドキする。

「村雨さん、四宮さんも何かあった?」

「えっと……凄く参考になるなって」

 我ながら苦しい言い訳にしか思えない。

「お待たせしました、今回担当させていただきます。桜です!お願いします」

 ところどころ語尾が伸びるのは癖だろか。

「始めはどんなメニューがあるのか見させていただいても良いですか?」

「大丈夫です、ではこちらも普通の接客をさせていただきますね」

 そう言うと桜さんは手にしていたメニューを取り出し広げた。

「おかえりなさいませ、ご主人様!本日のオススメは桜特性のふわふわオムレツです」

「ではそれをいただけますか?」

「分かりました、桜特性のふわふわオムレツですね」

「あっ、はい」

 そう言うと桜さんは戻ってしまった。

「陽夜、本当にこれを目指すの?」

 そう言うと少し困った顔をして口を開いた。

「お手本にはするかな。せっかく四宮くんが動画撮ってくれたし」

「そうだったんだ。ありがとう」

「大丈夫だよ」

 四宮くんはニコッとして答えた。

 なんとなくは分かった。四宮くんが人気の理由ってこの辺りなんだろうな、などと考えながらカフェの装飾で気がついたことやマネ出来そうなメニューをメモしていく。

「葵ってこういうのをきちんとやるから凄いと思う」

「ありがとう。でも陽夜だって連絡してくれてたから凄く助かるよ?」

「ふふ、ありがとう」

 そう言うと陽夜もまた、ニコッと笑った。そしてまた人気はこの辺りなんだろうなと思った。

 きっと私が男だったら陽夜に恋してそうだな、などと考えていると桜さんがオムレツを持って戻ってきた。

「お待たせしました。桜特性のふわふわオムレツです!ケチャップで何とお書きしますか?」

「四宮くん、何が良い?」

「えっと、二人は何が良いの?」

 話題を振られると思っていなかったのか困った顔をして言った。

「そこはゆういつの男子である四宮くんに決めて貰わないとね」

 そう言い陽夜は私の方に目線を動かした。それに応えるように小さく頷いた。

「四宮くんは何て頼むのか気になるな」

 それを聞いた瞬間、四宮くん目線をキョロキョロと動かしていた。

「じゃあ……おまかせでお願いします」

「分かりました!ハートですね!」

 桜さんはそう言うと器用にハートを書いていく。

「凄い、綺麗ですね!」

「入りたての時練習したんですよ!では、客足も少なくなって来たので簡単にお仕事についてお話しさせていただきますね」

 そう言うと桜さんは一つ一つ丁寧に教えてくれた。


「じゃあ最後にどなたか一人に実際に体験していただきましょう!」

「じゃあ葵、よろしくね!」

 そう言い向けられた笑顔に私は敵うわけもなかった。

「じゃあ私にさせていただけますか?」

「大丈夫ですよ、お名前って聞いても大丈夫ですか?」

「四宮です。お願いします」

 そう言い頭を下げ、歩き出した桜さんの後を追った。少し振り返って見ると陽夜も四宮くんも楽しそうに笑っていた。

 ここは私が腹をくくるしかなさそうだ。




最後まで読んでいただきありがとうございます。

今回は四宮君と葵の親密度が少し高まるような回となりました。

これからもそんな二人を見守っていただけると幸いです。


最後まで読んでいただきありがとうございました。


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