修学旅行 奥の手
少し残酷な描写が含まれます。
苦手な方はお気を付けてください。
「蒼井くん?」
「遅くなってしまい申し訳ございません」
蒼井くんの顔を見たら安心して涙が溢れそうになった。
しかしその雰囲気を壊したのは山中だった。
「来るのが早いね、流石だよ」
「来るのは早くないですよ。そろそろ十一時間ほど経ちますから」
部屋の奥にいた何人かの男のうちの一人が山中にそう言った。
どこかで見たような顔だ。護衛以外の場所で……
「一人で勝てると思ってるのかな」
「勿論」
蒼井くんがそう言うと、次々に男たちは蒼井くんに飛びかかった。
一人一人着実に倒していく。
蒼井くんが来てくれたことを嬉しく思いつつも、普段、人が傷つけ合うようなところを見ないので少し気持ちが悪くなってきた。
自分のことだからこそしっかりと見なくてはいけないとは分かりつつもつい目を逸らしてしまう。
何度も見ては目を逸らしを繰り返し、再び蒼井くんを見ると背後に金属のようなものを持った男がそれを振り下ろそうとしていた。
蒼井くんは気がついていないのか目の前の人に蹴りを入れてる。
——蒼井くん!!
叫ぼうとしても緊張と焦りからか声が出ない。
蒼井くんに当たってしまうというところで急に振り下ろす軌道が変わった。
金属固有の光りが下に向かう。そして床に当たる音が聞こえたと思うと蒼井くんの周囲にいた三、四人の男たちが次々に倒れた。
何が起こったのかは分からない。
ただ黒い影がとても早く動いていたことだけは分かる。
「蒼井さん、背後には気をつけて」
「すみません、四宮さん」
現れたのは葵だった。
蒼井くんと葵。二人は互いに背を預けており、それはカッコよく、私にはとても眩しく見えた。
〈四宮 葵目線〉
ようやく陽夜がいると思われる場所の特定が出来た時にはもう夜の十二時を回っていた。
井上くんが手配してくれた運転手さんとは五時間以上前に別れた。あまりにも長く付き合ってもらうのは申し訳なく、それに危険だからだ。
あらかた範囲が絞れてからはしらみつぶしで探した。
まさかマンホールの中だとは思わなかったが。
近くに大きな公園があるその場所は、周囲に木がたくさんあり見渡しづらい。
人の姿をきちんと確認出来ないので陽夜を連れて行きやすかっただろう。
すぐにマンホールのふたを外し中に入っても良いが、一応持ち物などを確認しておく。
いつも水谷さんと一緒に何かについて調べる時はマスクをして顔を隠している。今日は必要だろうか、少し悩んでからやはり付けることに決めた。
こちらが不利になった時に使えそうなものを確認してからマンホールを開ける。
階段を降り、床に足を下ろす。
そこは下水道があるのではなく一本道があり突き当たりに部屋がありそうだった。
気配、足音を無くしてそっと部屋に入る。
陽夜の姿は確認できた。手や足を拘束していることに苛立ちを感じつつもどの人からなら崩しやすそうか考える。
すると目の前に動きが見えた。
陽夜に注目していたので気がつかなかったが、一人の人に何人もの人が倒されていく。姿をよく見ると知っている人物だった。
蒼井 俊さんだ。どうしてここに、と疑問に思うが今はそれどころではない。加勢しなくてはならない。どのタイミングが良いか見ていると蒼井くんの背後に隙が出来た。一瞬だったが相手は見逃さなかったようで金属の棒を振り下ろそうとした。
陽夜の前でこの姿を見せたくはなかったが仕方がない。
素早く金属の棒を振り下ろそうとしている人の背後に行き睡眠針を首元に刺す。ついでに近くの人にも刺す。
続けて三人程の首に刺したので警戒されることなくすることが出来た。
一息つくために蒼井さんの真後ろに立つ。
「蒼井さん、背後には気をつけて」
「すみません、四宮さん」
ねんのため忠告すると意外にも素直に返事が返ってきた。
「ここは何とかしますのでお嬢様を連れて逃げられますか?」
「この人数を一人では厳しいと思いますが」
「お嬢様の安全が第一です」
「すみません、無理そうです。お嬢様の手足のを外して逃げさせてくれるほど楽な相手には思えません」
「分かりました。ではとりあえずはここをこの状態から抜けてからですね」
小さな声で蒼井くんとそう話しこれからどうするかを決めた。
話している間に囲まれてしまったようで全方位から狙われている。
正面からよりも気づかれていないうちに背後から倒す方が得意なので流石にこの状況は骨が折れそうだ。
いつ動き出すか分からず緊張が抜けない中、一人の男が動いた。
その男が合図となり他も一斉に動き出す。
一人、二人、三人、四人と出来るだけ短い時間で終わらせる。体育館倉庫で囲まれた時よりも護衛をしていたくらいなので強い。そして身のこなし方がとても上手い。
なるべく一人一人の癖を見つけ、その癖によって出来てしまう隙を見て仕掛ける。
山中以外全員が地面に伏したところで山中の方を向く。
「もうあなたは終わりです。お嬢様を解放してください」
「どうしようかね」
気味が悪い笑いにゾッとしていると後ろに微かに気配を感じた。
蒼井さんは左隣におり、陽夜は目の前にいる。
それならばと思い少し後ろを向いた。
するとそこには鉄パイプを振り下ろそうとしている男がいた。
分かりやすい動作に思い切り蹴りを入れるとうずくまった。
よく男の顔を見ると先程睡眠針を刺したはずの人だった。
この睡眠針は刺されると少なくとも半日は眠ってしまうものなのだが、何故動けるのだろう。
「私が平気なのと同じか……」
思わずそう呟いてしまった。きっとこの男たちは私と同じで多少の睡眠針や毒ならば平気なように訓練されているのだろう。
厄介だ。
手に持っていた睡眠針をしまい、別のものを取り出す。
「蒼井さん、お嬢様を連れ出せませんか?」
「厳しいですね」
勇逸の出入り口を見ると起きた男たちによってふさがれてしまっていた。
それならば仕方がない。
「お嬢様、目をつぶっていてくださいね。後出来れば耳も塞いでください」
そう言うと陽夜は驚いた顔を見していた。
本当ならば見せたくなかった。使いたくなかった。
それでもやらなくてはいけない。
「蒼井さん、気配が消えても驚かないでくださいね」
蒼井さんならば驚く必要はないと思いつつも一応言っておく。
一度息を落ち着かせ気持ちを切り替える。
強い麻痺毒のついた針を両手に握り、起き上がってきた男たちの方へ向かう。
これから出来上がるのは地獄絵図だ。
強烈な毒に苦しみ叫び声をあげる人、声も出せなくなりとにかく苦しむ人。
そして最後にはみんなこのまま死ぬんだと絶望し、いっそのこと早く死んでしまいたいと思う。
しかし、この毒では死ぬことは出来ない。死ぬ寸前で苦しむだけ。
まともな神経をしていたら出来ないだろう。
だからこそ自分の感情を無くしてからする。
本当に陽夜には見せたくなかった。
苦しむ人たちもそれに何とも思わず次々と絶望に陥れてく自分の姿も——
最後まで読んでいただきありがとうございます。
先日10,000PVに届きました!ありがとうございます。
次回でシリアスなシーン(そう書けていなかったらすみません)もひと段落つきます。
また次回も読んでいただからと光栄です。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




