あおいの過去
少し苦手な方がいたらすみません
飛ばして読んでいただけると良いと思われます
【あおい(男)目線】
言えなかった。
自分も村雨さんの家で働かせてもらっていてことを......
村雨さんの家で働き始めたのは中学生のころ。
思い出したくもないが、自分の両親は毒親と分類されるような人たちだった。
父はギャンブルに、母は酒に溺れ、まともに育てられなかった。だからだろう。学校等の家の外で、完璧に振る舞い始めたのは。
悟られたくなかった。両親があんな人たちだなんて。
そんな家庭から抜け出させてくれたのが祖父だった。その時に初めて愛されるということを知った。
祖父は優しかった。テストで良い点を取れば褒めてくれ、食べ方に問題があれば注意し、教えてくれた。今の自分があるのは祖父のお陰だと言っても過言ではない。
しかし、悲劇は突然やってきた。
中学生のころ、祖父が亡くなった。仕事先で倒れてそのまま。
詳しくは知らされなかったが、過労ではないかと予想している。
自分を引き取らなければ、働く必要もなかったのに働き、色々と与えてくれた。
葬式は小さく行われた。
会いたくもなかった両親はお金のことにしか興味がなかった。
葬式を開くことができたのも祖父の友人のお陰だ。
祖父の遺産と手切れ金で両親と縁を切らせてくれたのも、その祖父の友人だった。
祖父の友人はそのまま自分を引き取ってくれた。
それが村雨さんだ。
村雨さんはお屋敷に着くと、選択肢を三つ出した。
一つめは養子になりここで過ごすこと。
二つめは使用人になること。
三つめは施設や別の人の養子になること。
それらを聞いたときに、まず三つめは無いなと思った。
別の人の養子や施設に行くことは、自分の中で考えられなかった。
なので実質二つから選んだ。養子になるか使用人になるか。
村雨さんが「今すぐは決めなくていい。だが、先にここにいるものの紹介くらいはしておく」と言ってくれたので決断は少し後にした。
使用人を含めたほぼ全ての人を紹介してもらった時には驚いた。
こんなにも多くの人がここで働いているのかと。そしてその全員に武術の心得があることに。
初めは場を和ませる冗談だと思った。あまり和んでいない気がしたが。
そう思ったのにも理由があった。それは、自分と同じくらいの子が使用人として働き、武術の心得があると言っていたからだ。
嘘か。そう思ったのが顔に出ていたのだろう。
村雨さんは笑い「じゃあ組み手でもしてみるか?四宮さん、頼まれてくれる?」と言った。組み手の相手は自分で、実際に感じてみろと。
自分よりも小柄で今にも折れそうな手足をしている子に負けるはずがないと思った。武術の心得はないがそのくらいは言い切れるくらいの体格差だった。
だが、結果は自分の負け。勝負にもならなかった。
向かい合った瞬間に動けなくなった。そしていつの間にか倒れていた。
周りの大人は「四宮さん、手加減したね」と笑っていた。
あれで手加減!?と思い寒気がした。
その後、村雨さんの孫というふわふわとした女の子とも勝負した。
初めの子に比べて動けなくなった訳ではなかったが、一瞬にして勝負がついてしまった。
この時、負けなくなるくらいに強くなりたいという自分のプライドが、使用人になることに決めた。
初めは何を教わるにしても村雨さん、いや、旦那様のお孫さんと同い年の使用人という四宮さんと一緒だった。
四宮さんはいつも軽々と何でもやって見せた。
勉強でも武術でも使用人の在り方としても。
しかし半年ほどすると体格差からか、武術では四宮さんに勝てるようになっていった。そして更に一ヶ月ほどすると勝負にならなくなっていった。
そこからだ。四宮さんとお孫さんに会わなくなったのは。
訓練の期間を終えると旦那様のもとへ配属された。
細かいことは鈴木さんが教えてくれた。テーブルのセッティングの仕方やコーヒーの濃さなど実践で覚えることも多かった。
とても厳しいが優しく、祖父を思い出させられるような人で、実際に祖父のように尊敬しつつ、慕っている。
鈴木さんが「葵さん」と呼んでくれる声が好きだ。名字が四宮さんと被っているので「葵」と使用人の人たちや旦那様一家には呼ばれている。
高校に入ってお嬢様の護衛を任された。
他にも護衛は居るらしいが名前は教わっていない。
男女で一緒にいると何かと噂をされそうなので、人脈を広げ情報を手に入れることにした。
補習や留年をしてお嬢様の側にいられなくならないように、全て完璧にこなした。
すると『光の王子』と呼ばれるようになった。
嬉しいことに一目惚れした女の子と対で呼ばれるようになった。
一目惚れした女の子の名前は『四宮 葵』さん。
同じ使用人の名前を連想させられたが、比べ物にならないほど綺麗だった。
所作が美しかったり、顔の作りが綺麗なのは共通しているが、髪型や声は違った。お嬢様と幼なじみだという四宮 葵さんはきっと良家のお嬢様なのだろう。そうでないとお嬢様と釣り合わないとして側にいられないだろう。
休憩時間によく話す鈴木さんに一目惚れをしたという話をすると、決まって笑い「頑張れ」と頭を撫でてくれた。
その四宮さんが今日、同じ使用人の四宮さんと同一人物ということを知った。
驚き、また嬉しく、戸惑いもした。
所作がとても美しい理由に納得がいった。そして、大柄の男子を何名も地に付させた体育館倉庫での事件。
それが四宮さんと知り、今、四宮さん相手に武術を使っても負けるのではと思いもした。
あの時に久しぶりに実践で武術を使った。
しばらくは蹴りをいれた感覚が残っていたが、後悔はしていない。
そこからお嬢様も含めた三人で買い出しに行ったり、文化祭で劇や喫茶店をしたり。
劇での四宮さんは美しく、メイド喫茶では可愛かった。メイド喫茶でとても様になっていたのは、現役のメイドだったからだと今なら納得がいく。
その後の打ち上げ。うさ耳、とても可愛かった。
いつもはしない化粧をして、少しスカートを短くして。細くて綺麗な手足をしているので、短いスカートの方がよく似合っていた。
そして今日の水族館。反応がどれをとっても可愛く、改めて好きだなと思った。好きだと思ったと同時に危機感も感じた。
頭の中で十二時を告げる鐘のように何かが鳴り響いた。
時間がない、急げと言っているようだったが、何に対して、何故時間がないのかも分からなかった。
そして今日、四宮さんから事実を告げられ、お屋敷に戻った。
戻ってから鈴木さんに事実確認をした。
「鈴木さん、学校の葵さんとここの四宮さん。同じ人だったのですね」
「聞いたんだね」
「ええ」
「どう思う?それを聞いてもなお付き合いたいと思うか?」
「まあ、もちろんですが」
「分かった」
鈴木さんはそう言い、部屋を出ていった。音もなく、一歩一歩が綺麗な動作で。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回は過去の出来事でした。
次回は現在に戻るつもりです。
また次回も読んでいただけると光栄です。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




