打ち上げ IV うさ耳
「葵、付けないの?」
「待って……」
大きく息を吸いゆっくりと吐く。
そして頭の上に付けていたティアラを取り、代わりにうさ耳を付ける。
視線が自分に集まっているのが分かり耳まで赤くなっていく。
「可愛い!似合ってる」
既にネコ耳を付けた陽夜がそう言った。
手を丸めて顔に寄せ、にゃん♪と言い出しそうだった。
「可愛い……すごい似合ってる。陽夜のためにあるみたい」
「ありがとう、だニャン」
ニャンのところでパチリとウインクをした。
あざといと世間では呼ばれてしまうかもしれないが、騙されても良い、と心から思ってしまったのは私だけでないはずだ。
現に男子の大半ががぼーっと陽夜を見つめていたり、可愛すぎる……なんだあの生物は……と呟いたりしていた。
四宮くんや井上くんもその通りのようで陽夜に声をかけたりしていた。もちろん、可愛い、と言ったのも聴き漏らさなかった。
「陽夜、もう一回やって!」
思わずそう声をかけてしまった。心の声が駄々漏れになっているが、今は気にしないで陽夜の返事を待つ。
「え〜」
否定する声ではなく、葵は見たいの?(笑)と聞こえてきそうな言い方だった。
これ貸して、と女子からふわふわとしたものを受け取り、取り引きをしてきた。
「葵が……これを付けてくれるなら良いよ。もちろん、葵も語尾に『ぴょん』を付けてね」
両手で包み、差し出してきたのはうさ耳とセットで購入したであろううさぎのしっぽだった。
さっきまで陽夜の「ニャン」を聞きキャーと叫んだ後、女子たちは何を思ったのか私にうさぎの尻尾をずっと勧めてきていたのだ。聞こえていないフリをしていたが直接言われては、無視もできない。
尻尾には安全ピンが付いており、簡単に付けられるようだ。耳と同じで綺麗なピンク色をしており、ふわふわの丸い尻尾だった。
確かうさぎの本当の尻尾はもう少し細長い形だったような……と現実逃避をしていたが、それもいきなり切られてしまった。
「葵、王様の命令は?」
「……絶対……」
「王様さん、葵がうさぎの尻尾を付けた姿を見たいですよね!」
「はい!」
陽夜に話しかけられて興奮しているのか、今なら陽夜が何を言っても「はい!」と言い出しそうだった。
「ということで葵、逃げないでね」
「陽夜は付けな──」
「王様の命令は?」
「「「絶対!!!」」」
なぜこんな時だけ団結をするのだろう、うちのクラスは……
久しぶりに陽夜が怖いと思ってしまった。にこやかに「王様の命令は?」と言うなんて……
普段から命令されれば従うが、周りを味方につけるのは反則だ。
陽夜の笑顔一つで許してしまう私も私なのだが。
「分かったから、ね言ってね」
忘れていそうなので念を押しておく。
付けたら陽夜の「ニャン」が見れると思えばなんとかなりそうだった。
「葵さん、私が付けるから後ろ向いてくれる?」
言われた通りに後ろを向くと器用に付けてくれた。しかしそれだけで終わらなかった。
「う〜ん」
少し悩み別の子と相談したら答えが出たようで、もう一度顔を合わせた時にはとても良い笑顔だった。
「葵さん、ちょっとだけ良い?」
「何でしょうか」
「お父さん、少し奥に行く。入って来ないでね」
この子の家だったようだ。確か名前は小林さん。とても優しい子だ。確か一人っ子で両親は彼女に甘い。だからこそ今回、使うことを許してくれたのだろう。
ずっと手を引っ張られて連れて行かれるが、掴んだ手は全くと言っても良いほど力が入っていなかった。
何をされるのだろう、と思いつつ流れに身を任せることにした。
しばらくして戻って来ると再び視線がこちらに向いたのが分かった。ゲームはまだ再開していないようで割り箸が確自の席に置かれたままだった。
「葵、お帰り。珍しいね、葵がスカートの裾を折るなんて」
陽夜にも言われたように初めてスカートの裾を折った。正しくは小林さんと数名の女子によって折られたの方が正しいが今は置いておこう。
きっとスカートを折った女子の感想は「可愛く見えるかな」「短くし過ぎたかな」「結構、涼しいかも」などが多いだろう。
しかし私が初めに思ったのは「回し蹴りしやすそう」だった。
こんな女子は中々いないだろう。こう思ったのは陽夜にも言えない。
まあ、次に思ったのは「足技かけやすそう」だったが。
スカートの他には少し前に流行った「うさぎメイク」を女子たちによって施された。
言ってくれれば自分で出来る自信はあったが、「目をつぶって座ってて」と言われてしまい大人しく着せ替え人形のようになっていた。あれはくすぐったいのでもう出来るだけしたくない。
「葵、ほら手もつけて言って!!」
急かされて命令を思い出す。
余計なことを考えないうちに勢いで言おうと考え、一つ深呼吸をしてから言った。
「───────────────ぴょん」
何と言ったかはご相談にお任せするが、良い終わった後に顔を真っ赤にし、もう二度と言わないと葵が言って陽夜の後ろに隠れたのが事実だ。
それを見た一部の人は顔を真っ赤にし、また一部は「可愛過ぎない?」と目を合わせ、また一部は悶えていた。
ちなみに四宮くんは井上くんに「可愛すぎるんだけど……ってか他のやつに見せなくない」と言い口を緩ませたままだった。
そして井上くんに「分かるけどキャラが崩れそうだし、付き合ってもないのに独占欲を出し過ぎだ」と注意されていた。しかしそれでも葵のことを見つめたままだった。
四宮くんがそんな独占欲を出して見つめているとも知らず、葵は「もうやらない」と言い続けていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回かその次くらいで王様ゲームは終わらせたいと思っています。
また次回も読んでいただけると光栄です。
最後まで読んでいただきありがとうございました。