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暗闇

今回はいじめが中心の話となっています。

苦手な方はこの回を飛ばし、次回からまた読んでいただけると嬉しいです。

 

 翌日。陽夜の体調は良くならず、今日も一人での登校だった。本当ならば看病の為に休みたかったが、陽夜がそれを許さなかった。

 陽夜の居ない学校に用はない。

 しかし昨日机に落書きをされていた子がどうなったかは気になる。

 何もされてなければ良いがそうもいかないのだろう。

 教室の戸を開けると視線が集まった。

 同情するような視線、戸惑いながらこちらを気にする視線、嘲笑うような視線、中にはすぐに目を逸らしてきた人もいた。

 気にせず自分の席に向かうと昨日の放課後に話しかけてきた人たちが近づいてきた。

 そして「約束通り虐める」といった内容のこと。それと昨日四宮くんと一緒に帰っていた所を見られていたようで、そのことについても言い去って行った。

 それから一日は『イジメ』と考えたら思い浮かぶもの全てを実行してきた。

 しかし体育着が隠されてもすぐに自力で見つけ出せたり、制服が濡らされても着替えを持っていたりとあまり困ることは無かった。

 よくこんなに思いつくな、と逆に感心出来るくらいには余裕があった。

 堪える様子が全くなく、どうしようか悩んだのだろう。

 放課後には体育倉庫に呼び出してきた。

 行く必要はないが今日中に片付けなくては、明日から陽夜が安心して通えない。

 そのことを考えると向こうから呼び出してきたのはこちらにとっても都合が良かった。





「やっと来たね……遅かったじゃん……」

 そう言って現れたの今回の主犯格で周りに命令を出していたと思われる人物だった。

 相手の名前は覚えているが、陽夜に危害を加える可能性のある人物の名前は心の中でさえ呼びたくない。直属の上司である水谷さんとの仕事の時は必要に応じて変えるが、今はAと呼んでおけば良いだろう。

「やっと来たも何も、同じクラスなのでホームルームが終わる時間は一緒だと思いますが」

 Aは私より早く到着したかったのか、ホームルームが終わると同時に教室を出て行った。額に薄っすら汗をかいているのが見え、息を切らしているようだが大丈夫だろうか。

「それに、息を切らしているようですが大丈夫ですか?」

「余計なお世話だ」

 苛立っているのかこちらを睨んできたがこの程度で臆するほど弱くない。

「どうしてあんたなんかが、四宮様と一緒にいたわけ?そもそも『四宮 葵』という素晴らしい響きの名前と同じ時点で怪しいと思ってたんだよ!」

 随分と早口だ。きっと感情に任せて話しているのだろう。余計に息が切れてしまいそうだ。

「名前はどうしようもないですよ」

 そうは言ったものの名前を褒められるのは嬉しい。相手が罵っていようと『素晴らしい響き』と言ってくれたのは事実だ。


「いいから黙ってくれない?約束通り酷い目に遭わせてあげる。……じゃあ後はよろしくね〜」

 痛い目に遭わせる……逃げられるので何があろうと構わないが、誰によろしくなのだろう。

「ったく……人使いが荒いんだからよ」

 そう言って出てきたのはガタイの良い男達だ。不良と捉えられそうな人もいる。


 陽夜のメイドとして護衛としてそれなりに鍛えてきたので実力はあるはずだが、学校でこのことは言っていない。


「流石に女子一人に15人も集めなくて良いのに……」と、思わず呟いてしまった。

 ただのか弱い女子一人に対して過剰戦力だ。

「だよな。俺らもそう思う」

 特別ガタイの良い男がすぐに賛同した。

「まあ念のためね。しばらく学校に来れないくらいでよろしく」

 Aはそのまま扉の外へ出て扉を閉めた後すぐに鍵を閉めた音がした。

 この学校の体育館倉庫はとても古く立て付けが悪いので外から鍵を締められると内側から開ける手段は無い。



 暗さに少し目が慣れてきたとはいえ、窓もない体育倉庫。扉も閉められ、光が全くと言って良いほど入ってこない。

 そこまで苦戦するような相手では無さそうだが、向こうが全滅しても外に出る手段が無いというのが厄介だ。

 携帯を持ってはいるものの、今日は唯一連絡出来る陽夜は休みだ。

 その辺りは夜に見回りしている用務員さんが何とかしてくれるだろう。

 それまで私が耐えるか向こうを全滅させれば私の勝ち。私が動けなくなったら負け。勝負事ではないが分かりやすい。



 それに空気孔が付いているとはいえ、狭い体育倉庫に大勢の人がいるので息苦しく感じる。

 しかしそれは私だけでなく向こうも同じ条件なので平等だ。早く終わらせて仕事に戻りたいのが正直なところ。

「女子一人に時間なんかかけてられるかよ」

 先に仕掛けたのはガタイの良い男だ。こちらから手を出す訳にはいかなかったので有り難い。あくまで『急に閉じ込められ、殴りかかってきたのを避けようとしたら、いつの間にか誰も起き上がらなくなっていた』だけだ。そういう筋書きだ。

 男が手にしているのは旗などで使われる棒だ。鉄ではなく、プラスチックにしてくれたのは手加減だろうか。

「声出したら丸分かりですよ」

 手に持っていたものを押さえ、軽く蹴りをお腹に入れるとその場にうずくまってしまった。しかし、息はしているようなので大丈夫だろう。きちんと手加減出来ている。

 そこからは飛びかかってきた人を順番に床へ寝かせていった。みんな眠たいようでもう一度起きて来る人はいなかった。



 そしてあと二人となった。

 残り三人となった時にバランスを崩したせいで打ってしまった手が痛む。

 左手に痛みがあるが利き手ではないので大丈夫だろう、と無視していたら段々痛みが増してきた。痛みのせいで集中力が切れやすくなっている。

 一度体制を立て直そうと相手を位置を把握した途端、二人同時に動き出した。一人で仕掛けるより同時の方が良いと思ったのだろう。

 確かにその方が良いと思うが、何故始めに全員で襲いかかってかかってこなかったのかが不思議だ。

 一人がこちらに向かって走ってきた。もう一人の攻撃を避けつつ足を引っ掛け転ばせることで時間を稼ぐ。案の定、転んでくれたが気がついた時には遅かった。隅に追いやられ、右手を掴まれてしまった。

 そしてもう片方の手で近くにあった紐を掴み手を後ろで結んだ。先程打ってしまった左手が縛られたことによって痛みが増した。

「解いてくれませんか」

 まるで聞こえなかったかのように男の手は動いている。その男の手が襟に触れた瞬間、光が差し込んだ。

 思わず目を細めると影が揺らいだ。

「ごめん……お取り込み中だったみたいだね。失礼し──」

「助けて!」

 気がついた時には叫んでいた。普段ならば助けを求めることはしない。

 それでも求めてしまうくらい自分でも気がつかないうちに追い込められていた。

「分かった。ちょっと待ってて」

 そう言い扉を開けた男は残っていた男たちを床へ薙ぎ倒していく。

 その華麗な姿にただ呆気にとられていた。

 そしていつの間にか他に立ち上がっている男は居なくなり、結ばれていた紐も解かれていた。

「大丈夫……では無さそうだけど、怪我は無い?」

 そう言い微笑んむ姿は不覚にも『王子』という名に相応しいと思ってしまった。

 文武両道で性格も良く、学年一のイケメンだと騒がれる彼──四宮 葵 は確かにかっこよかった。


「大丈夫です。助けてくれてありがとうございます」

 お礼を伝え立ち去ろうとすると視界が真っ白になり、揺らいだ。

 気持ちの切り替えが中途半端だったからか思考も定まらない。



 ──そしてそのまま意識を失った。




最後まで読んでいただきありがとうございます。

予定よりも遅れての投稿となってしまいました。

次回も数日後を予定しています。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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