社長と秘書
「葵!ぼーっとしてどうしたの?」
今は劇が終わりまたメイド喫茶の仕事をしている。しかし劇のときに四宮くん言われた「好きだ」の言葉が頭から離れず、全くと言っても良いほど集中出来ていなかった。
陽夜に心配させてしまったからには一度忘れて、集中して仕事をしなくてはならない。
「何でもないよ」
「大丈夫そうに見えないけど……劇が終わった辺りからなんかおかしいし」
「本当に大丈夫だよ」
「ならいいけど……体調が悪いなら言ってね、休んでても良いから」
陽夜はそう言ってくれたがお客さんが増えてきて、人が足らない状況の今、休むわけにもいかない。
「陽夜ちゃん、これ出来たから運んで」
「はーい!……言いたくなかったら良いけど、悩んでたりするなら話くらいは聞けるからね」
そう言いすぐに行ってしまった。
陽夜はみんなからとても人気だ。お客さん一人に付き一回投票出来る『メイド喫茶 MVP調査』(うちのクラス独自のもの)では現在のところ一位だ。何故か陽夜と僅差で二位が私だ。きっと担当したお客さんたちが入れてくれたのだろう。シフトを入れている時間が長いので担当したお客さんも多いからだと思う。
「葵さん、こっちもお願いします」
「はい」
普段の仕事のようにお金は貰えないが、普通の高校生のようで楽しい。二十四時間仕事というのはブラックなのだろう。もちろんその分給料は高い。今までの分の貯金で仕事を辞めても何年かは遊んで暮らせるだろう。
そもそも普通の高校生はこんなに働かないと思う。両親も亡くなり常に働いている私が唯一普通の生活が出来る時間が学校だ。まあ今も陽夜の護衛として働いているのだけど……
仕事は嫌いではないのでそこまで苦ではない。強いて言えば抜き打ちの護身術のテストとたまにされる旦那様などからの無茶振りだ。旦那様からと言っても伝えてくるのは鈴木さんなのだが。
無茶振りは無茶振りとしか言いようがない。例を挙げると学年の人全員について調べ、陽夜に害のありそうな人をリストアップすることだろうか。まだまだこれは軽い方で陽夜が部活に入れば学校の人全員について調べなくてはいけないだろう。
陽夜が可愛いのは分かるが、過保護過ぎな気もする。私は言われたことを実行するだけだが。
「葵さん三番テーブルのお客さんのとこ行って」
「はい」
「お待たせして申し訳ありません、ご主人様。来店ありがとうこざいます…………旦那様……」
「娘たちの姿を見にきただけだよ」
娘たちとは……?
「お嬢様と変わりましょうか」
「いや、良いんだよ。四宮さんのことも見に来たから。それに四宮さんは実の娘のように思ってるからね。お父さんと呼んでくれても良いんだよ」
「それはなりません。私は一介の使用人でございます。実の娘のよう思っていただけるのは大変光栄でございますが、身の程はわきまえております。それに、旦那様には拾っていただいたご恩は忘れません」
「そんなきっちりしなくても良いんだけど……そろそろ注文を取らないと時間がかかり過ぎだと言われてしまうんじゃない?」
「申し訳ありません……ご注文はいかがなさいますでしょうか」
「コーヒーを一つ」
「かしこまりました、御前を失礼します」
そう裏方担当の人たちのところへ行き注文内容を伝える。
ちょうど陽夜もいたので陽夜にも伝えておく。
「陽夜、だんじゃなくてお父さんが来てたよ。陽夜がコーヒーを持ってってあげたら?」
「来てたんだ!……今日は仕事と言っていた気がしたんだけどなー」
「近くに秘書さんもいるから多分大丈夫だと思うよ」
きっと娘の姿を見たいからと無理矢理抜け出してきたわけではないと思う。大企業の社長さんがそんなことはしないはず。ただ社長秘書さんが旦那様のことを軽く睨んでいるのが気になるが……
「葵さん、コーヒー入ったよ」
「ありがとう」
そう言い受け取りそのまま陽夜へ渡す。
「陽夜、行ってらっしゃい」
「親の前であれをしないといけないの?」
「最近お父さんと話す時間が無かったでしょ。少し話してくれば?そのまま抜けてもフォローはするから」
「分かった」
覚悟を決めたらしく旦那様のところに向かってった。
「陽夜ちゃん……あれ?いないか。じゃあ葵さん、これ。陽夜ちゃんがさっき注文を取ったところ」
「はい」
確か陽夜は隣の四番テーブルの注文を取っていたと思う。違っていたら謝るだけだ。
「お待たせいたしました、ミルクティーです」
「あら、ありがとう。貴女は……お屋敷のメイドさんの四宮さんだったかしら」
社長秘書さん。名前は分からないがよくお屋敷に来る。別人レベルで声のトーンなどを変えているのにもかかわらず、同一人物とバレてしまうとは秘書の方たちはみんなそうなのか。
「学校には内緒なので今はメイド喫茶の店員なので……」
「そうだったのね、ごめんなさいね」
「お気遣いいただきありがとうございます」
「礼儀正しいのね」
「私などまだまだです」
「そんなことはないと思うけど……頑張ってね」
「はい、失礼します」
そう言い裏方へ戻る。秘書さんと話していると気が抜けない。社長秘書になるくらいなのだからやはり凄い人なのだろう。出来る女性という感じでカッコよく、緊張はするが人としては好きだ。
陽夜も戻ってきた。
「葵!お父様仕事抜け出して来たんだって、良いのに……」
文句を言ってはいるがどこか顔の表情が柔らかくなっていた。
「来てくれて嬉しかったんだね」
「でも仕事を抜け出すのは……」
「一日、仕事抜け出しただけでダメになってしまう会社ではないのは陽夜が一番分かっているんじゃない?」
「もちろん!」
「じゃあ素直に喜んだら?学校の参観日とか来てくれなくて悲しんでたじゃん」
「いつの話を持ち出してるの!もう……でもありがとう。気が楽になったよ!」
始めから素直に喜べば良いのに、会社のことまで心配してしまう優しい子だから仕方がないのかもしれない。
最後まで読んでいただきありがとうこざいます。
次回は『美男美女コンテスト』が中心の話にできたらなと思っています。
次回もまた読んでいただけると光栄です。
最後まで読んでいただきありがとうこざいました。




