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出会い

 

 放課後、先生から呼び出され帰りが遅くなってしまった。教室にはもう誰も居ないかと思っていたがまだ数人残っていた。

 朝のようなトラブルにならなければ良いと思っていたが案の定、話しかけられてしまった。

「余計なことしないでくれる?」

「なんのことでしょうか」

「朝のことだよ」

 とぼけても無駄だったようだ。

「机が汚れていたから拭いていただけですが」

「だからそのことだよ。余計なことはしないでくれない?迷惑なんだけど」

 この人にとって迷惑だろうと私には関係ない。そもそもイジメをする方が悪い。

 表情も変えず主犯らしき人をじっと見つめると「次やったらあんたを虐めるから」という捨て台詞を吐いて去って行った。

 主に一人が虐めようと言い、きっとその周りの人たちは断れなかったのだろう。

 今までの性格からも今の様子からもそう読み取れた。

 息をつき周囲を見渡して異変を探す。物が隠されてしまったりしているならば見つけておいてあげたい。

 今朝、机が汚されていた子の机を見ると今度は彫られていた。落書きと違って削られてしまったものを戻すことは出来ない。

 机の中身をそっと取り出し脇に寄せ、使われていない机と交換する。

 ほとんど使われていないからかとても状態が良く、いま自分が使っているものよりも綺麗だ。

 他におかしなところが無いかを確認して教室を出た。




 下校後は久しぶりに仕事が休みだった。

 いつものように図書館で本を借り、帰宅している途中、背後から声をかけられた。


「四宮さん、一緒に歩いても大丈夫?」


 そう声をかけてきた彼の名は四宮 葵。共に話したことは数える程しかないが、同じ高校に通うクラスメイトだ。

 普段は学年、学校一のイケメンだと噂され、『王子』とも呼ばれている。

 顔が良いというだけでなく、高身長で頭も良く運動神経も良い彼は多くの女子生徒の心を掴んでいる。

 しかし、私は特別に好印象を抱いているということもなく、寧ろ積極的に関わりたいとは思っていなかった。

 別に過去に彼といざこざがあったわけでは無い。

 ただ私の名前も、『四宮 葵』であるというだけだ。

 同姓同名ではなく異性同名。

 そして私も彼と同様に通り名のようなものが付けられていた。

 〈光の王子〉と〈氷のクイーン〉。

 名前が同じというだけで対に扱うのもいかがなものかと思うが、この通り名にもそれなりの由来があるらしい。



 以前、陽夜に通り名について尋ねてみたことがある。

 彼の〈光の王子〉は太陽のように明るい性格に、王子のような品のある振る舞いでそう呼ばれるようになったらしい。

 ちなみに私の〈氷のクイーン〉は冷静沈着であり、同い年とは思えない空気を纏っているように周りからは見えるからだという。

 実際、落ち着いて見られることは多いがそれは人見知りをしているだけだ。

 あまり親しくない人に話しかけられるたびに焦ってしまい、愛想笑いすら出来なくなってしまう。きっと親しい人以外に笑顔を見せないのでクールだと捉えられてしまったのだろう。

 しかしそれにしても面と向かって言われることは少ないとはいえ、〈氷のクイーン〉というのは恥ずかしい。彼の〈光の王子〉と対になっていることを考えると余計に顔が熱くなってしまう。学年一のイケメンとささやかれる彼と対というのは、陰で女子に何を言われているのかは、想像がつかない程酷いものなのだろう。



 別に自分のことを悪く言われるのは構わないが、その影響で主である陽夜まで悪く言われるのは許せない。




 その私の主であり親友の陽夜との出会いは少し複雑だった。



 私が五歳になった誕生日の日のこと。その時初めて陽夜と出会った。

 これから村雨家に雇っていただくにあたり、主人との顔合わせは必須だからだ。しかし幼かった私と陽夜は主従の関係を築くというよりは新しい友達を紹介されているような気持ちだった。

 わずか四歳で養子に出された私にとって陽夜は家族も同然だった。


 陽夜との顔合わせが行われた後、私の生活は一変した。料理に裁縫、護身術やピアノ、学問など様々な事を学ばせてくれた。

 そして、初等科に入る六歳の年、改めて私は陽夜の専属のメイド(従者)として付くことになった。

 家では『お嬢様』と呼び、同じ学校に通い始め護衛として学友として学校では『陽夜』と呼び慕っていた。

 現在の十六歳までの十年間、陽夜の事を嫌いになったことは無かった。また、私と一緒に村雨家で働いている執事さんやメイドさん、義父母陽夜の両親のことも嫌いにはならなかった。感謝さえも感じている。

 私がここで働いて来れたのも優しい義父母陽夜の両親のおかげである。

 勿論、仕事を辞めるわけにいかなかったという理由もあるが、この仕事環境に満足している。

 私の仕えるお嬢様陽夜は優しく人当たりが良いので、男女関係なく好かれている。たまに居る何故か一緒に居ると心地よいと感じさせるタイプの人だ。

 優しいのは使用人に対しても同じで、使用人のことをよく見て声をかけてくれる。

 それに陽夜は他の友達と同じように接してくれ、決して人のことを悪く言わない。

 そんなお嬢様だから私は仕え続けることが出来る。



「ごめん、今忙しかった?」

「いえ、大丈夫です」

 話したことはほとんど無いが何の用事だろうか。思い当たるとすれば明日の学校での予定を尋ねてくることくらいだろうか。

「一緒に歩いてもいい?」

「別に構いませんが……」

 少しの間沈黙が続いた。

 人と話すことに慣れてないのでどんな話題を提供すれば良いのか分からない。

「四宮さんはどうしてここに?」

「図書館に行っていて……四宮くんは?」

「少しコンビニにね。それより四宮さんが名前を覚えてくれていて嬉しい」

「流石にクラスメイトの名前くらいは分かりますよ」

 別にクラスメイト出なくても学年全員の名前くらいは言える。

 陽夜がこの学校に入学するにあたって全て調べたからだ。このことを言っても良いが出来るだけ陽夜のところで働いていることはバレたく無い。そもそもうちの学校はバイトが禁止されているので学校側に見つかると何かと大変だ。

「それに四宮くんとは漢字まで名前が一緒なので入学当時から知ってました」

「同じく。入学式の時にあれ、って思ったのと、入試以来学年一位を取り続けていて有名だから知ってたかな」

「そんなに有名ですかね……それでも四宮くんもずっと学年二位を取っていますよね」

 嫌味のようになってしまった気がする。口に出してしまってから気が付いた。

「ごめんなさい。嫌味を言ったつもりは無くて、ただ事実を述べただけなのですが、そうではなく……凄いなって……ってこれも嫌味に捉えられてしまいますよね」

 頑張ってフォローしようとしたが上手くいかなかった。やはり咄嗟の行動は苦手だ。それにしても『事実を述べただけ』も『凄い』ももっと別の言い方があった気がする。

 考えれば考える程別の案が浮かび上がってくる。

「ふっ……大丈夫。四宮さんが嫌味を言うはずがないということは知ってるから」

 短く吹き出すように笑った。いつも学校で見ている王子という名に相応しい笑顔とは違う。こちらが素なのだろうか。

「ありがとうございます」

 何て返せば良いのか分からず、とりあえずお礼を伝えた。

 俯きがちになってしまったのは人と話すことに慣れていないだけで、よく話す陽夜とはきちんと視線を合わせて話すことが出来る。

 四宮くんに緊張してしまうのは異性だから、ということもあるからだろうか。

「綺麗……ってごめん。四宮さんって笑う時凄い柔らかく笑うんだね」

「笑ってました?」

「うん」

「そうですか……」

 いつ笑ったのだろうか。自分でも知らないうちに頬が緩んでいたのだろう。

「不快にさせてしまったならすみません」

「不快じゃない。珍しいな、と思っただけで……」

 少し間を開けて続けた。

「四宮さん。また話しかけても良いかな」

 今では目立つ人物とは関わりたくないと思っていたが、何故か今はもっと四宮くんについて知りたいと思ってしまう。

 少し話しただけなのに一緒にいて心地よかった。陽夜と似た人間。こういう人だからこそ多くの人に好かれるのだろう。

「良いですよ」

「あと、そろそろタメ口で話してくれると嬉しい。その方が話しやすい気がするから」

「うん、分かった」

 新たに友人が出来るのは嬉しい。

 また一人、学校で話せる人が増えた。

 ふと視線を上げると住ませていただいている『村雨』家の御屋敷が見えた。

「じゃあこの辺で。送ってくれてありがとう」

「こちらこそ、一緒に居させてくれてありがとう」

「また明日、四宮くん」

「またね」

 軽く頭を下げてから立ち去る。

 四宮くんのおかげで今回の休日はいつも以上に充実したものになった。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

思っていたより遅くなってしまいました。

次回も数日後の予定ですが、また前後するかもしれません。

次回も是非読んでいただけると嬉しいです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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