理由
〈四宮 葵(女)目線〉
四宮くんの衣装のサイズ合わせをしているとクラスの子が入って来て私を呼びに来た。
廊下は走るなって言われるかもしれないけど、隣の教室なので許してください。
教室に着き陽夜を見つけ近寄った。
「陽夜、どうしたの?」
「雨に濡れちゃって」
そう言う陽夜は全身濡れていて床にも水が垂れてしまっていた。
「とりあえずこのタオル使って」
そう言いフェイスタオルとバスタオルを渡す。
「ありがとう」
バスタオルを肩からかけ、軽く顔や手を拭きながらそう言った。
いじめでなければ良いけど、そう思い陽夜に事情を説明してもらった。
いじめと疑ってごめんなさい、クラスの人達……
要約するとこだわって作った西洋風の剣が完成し、男子がふざけていたところ開いていた窓から外へ。
そしてドアの近くにいた陽夜が外へ取りに行ったら雨で濡れたらしい。
ここが一階だから良かったけど、下手したら西洋風の剣もさよならだったということを分かっているのかな。男子達は陽夜に謝っているからまだ良いかな……陽夜が震えている気がする。
「陽夜、おでこに手を当てるよ」
そう言い手を当てると熱くなっていた。これって旦那様とかに怒られるやつかな。体調管理も仕事のうちと。
「陽夜、今立っているのもきついよね?」
そういうと小さく頷いた。保健室に連れて行ってそのまま迎えかな。迎えはいつもいるけど。
「陽夜を保健室に連れて行くので四宮くん、クラスの方をお願いします。あと保健室に荷物を持って来て欲しいです」
そう言い自分の荷物を取り陽夜を抱きかかえる。お姫様抱っこと言われる形で。おんぶや抱っこよりは良いと思うけど、後から何か言われるかもしれない。別に陽夜の方が大事だけど。
でも身体が弱いのに無理をするからだよ。話をさせてしまった私もだけど。
保健室には誰も居なかった。椅子に座らせ、鞄からジャージとタオル、カイロを出す。
「着替えられる?着替えられたら熱も測って欲しい」
そう言うと頷き、着替え始めた。陽夜が着替えいる間に電話をかけておく。この時間なら同じく陽夜の専属のメイド、水谷さんなら繋がるだろう。
陽夜の側にいてお茶出しをしたりするのが表、部屋を整えたり側にいないで世話をするのが裏。表と裏、二人一組で行動している。
普段は私が表、水谷さんが裏だ。蒼井さんの仕事も補っていた時は水谷さんが表で裏の仕事も手伝ってくれていた。
「四宮です。水谷さん、お嬢様が体調不良になられてしまったため、お迎えを早めにお願いしたいのですが」
「分かりました、旦那様にも伝えておきます」
「先日、仕事のフォローをしていただいたばかりなのに申し訳ありません」
そう言うとしばらく間があってから返事があった。
「大丈夫だよ、葵ちゃん。お嬢様をよろしくね。じゃあ正門の前に待機させるからそこまで連れて来てね。着いたらまた電話するから」
そう言うと電話が切れた。水谷さんに気を使わせてしまった。きちんとした言葉遣い、礼儀がなってないと他の人から注意を受けてしまう。何度も注意を受けると減給だ。流石にそこまでいった人はいないらしい。
「陽夜、着替え終わったかな」
「葵、ごめんね。迷惑かけて」
「大丈夫だよ、迎えが来たらまた起こすから。それまではゆっくり寝てな」
そう言うと目を閉じて眠ってしまった。
きっと責任感の強い陽夜は、ふざけていたのを止められなくて取りに行ったのもあるのだろう。責任感があるのは良いけどありすぎも困ったものだ。せめて傘をさしてくれれば体調不良にはならなかっただろう。呑気に四宮くんと話してないで早く戻っていれば良かったのかな。
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〈四宮 葵(男)目線〉
葵さんに言われたように、みんなが作業を再開したのを確認してから村雨さんの荷物を持って保健室に向かった。
ドアを開けようとすると中から葵さんの声が聞こえてきた。
「一人に、しないで……」
その声は弱々しかった。
そっと中に入ると葵さんは振り返った。目には涙ぎ溜まっていて一滴、涙が頬を伝った。
「葵さん……」
そう言うと涙を拭い何もなかったかのように笑顔で言った。
「荷物、持ってきてくれてありがとう」
何もなかったかのように振舞っているが今にもまた泣き出しそうだ。
「葵さん、どうしたの?話くらいなら聞けるよ」
そう言うと静かに話し出した。
「私の両親、小さい頃に亡くなっているの。ちょうど今日みたいな天気の日に交通事故で。病院に行くと二人とも冷たくなってた。話しかけても返してくれない。手も握り返してくれない。あの時は何日も泣いてやっと落ち着いたのが泣き疲れて眠った時だったかな」
そう話す葵さんの瞼には深い哀愁がこもっていた。
「……ってごめんね、暗い話をして。四歳の時とかだから立ち直ってはいるんだけど、あまりにも状況が似ていて」
交通事故じゃなくて風邪だけどね、そう呟くと手に持っていた荷物を受け取った。
何と言葉をかけたら良いのか分からずしばらく沈黙が続いた。
そこで葵さんの携帯が鳴った。
「陽夜の迎えが来たみたい。荷物、ありがとう」
そう言うと村雨さんを起こし保健室を出ていった。
いつまで考えても何と声をかけたら良かったのか思いつかなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回は四宮 葵(女)の両親のことにも触れさせていただきました。
これからも読んでいただけると光栄です。
最後まで読んでいただきありがとうございました。