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風邪

 

 〈四宮 葵(女)目線〉


  迎えの車に乗り御屋敷に到着すると玄関で水谷さんが待っていた。

「お帰りなさいませ」

 そう言い礼をすると私に支えられている陽夜を抱き抱え、奥に行ってしまった。

 私も急いで着替え陽夜の部屋に行くとちょうど水谷さんが出てきたところだった。

「お嬢様はちょうど眠られたところです。ご夫妻は戻られるのが遅くなるそうなので側にいて何かあったら知らせてください」

「分かりました、申し訳ありませんでした」

 陽夜が身体が弱いのは前からだが、雨の中、傘もささずに外へ出たのは自業自得でもあり、きちんと見ていなかった私のせいでもある。基本的に学校で何かあると私が対応しなくてはならない。

「顔を上げてください、お嬢様が『葵を注意しないで』とおっしゃっていたので今回は注意のみです」

 矛盾している気がするが気にしてはいけなのだろう。

「それに今日は……親御さんの命日でしたよね。さっきはああ言いましたがもう上がっても大丈夫ですし、本来なら仕事をしないで一日休みでも良かったのですが……」

 両親のことを言われるとは思ってもいなかったので黙り込んでしまった。

「四宮さん?」

「あっ……すみません。でも大丈夫です。今日はお嬢様の側にいて何かあったらお知らせします。それでは失礼します」

 そう言い軽く礼をして陽夜の部屋に入る。見慣れた部屋だ。カーテンは閉まっているもののうっすらと光が差し込みとても過ごしやすい空間となっていた。



 私は決して裕福な生まれではない。しかし、毎日の生活に不自由していた訳でもない。あの交通事故が起きるまでは家族三人で割と仲良く暮らしていたと思う。

 住んでいた家から持ち出せたのは両親の遺影、そして二人の形見の指輪。私の持ち物少しと思い出の品が少し。

 形見の指輪は両親が亡くなった時にも付けていた結婚指輪だ。今は首から提げて片時も離さず過ごしている。

 幼い頃から年齢よりも上に見られることが多いくらい落ち着いていた私が新しい家族としてではなく、使用人として養子に迎えられたのは自然な流れだと思う。

 私は陽夜のことを家族のように大切に思っているし、他の使用人の人も私のことを可愛がってくれる。

 そんな現状に私は満足している。

 しかし、今も両親が生きていたらどんな風に過ごしていたのだろうと考えてしまうことも多い。両親と喧嘩したり母親と料理を作ったり、家族で旅行に行ったりといった()()の日常が送れたのかなと思ってしまう。

 私にとっての普通は毎日仕事をして寝るの繰り返し。仕事は好きだがたまに窮屈に思う。でも陽夜やご夫妻が望んでくれる限りはここまで育ててくれた恩返しをしたい。それだけが私に出来ること。



「……葵?」

「お嬢様、体調はいかがですか」

「だいぶ楽になったよ」

 陽夜の目が覚めたようなので手をおでこに当て、熱を測る。

「まだ熱いじゃないですか、もう少し寝ていてください。あと何か食べたいものはありますか?」

「食べたいもの?」

「冷たいものとか、食べられそうならお粥とかも用意しますが」

「じゃあ何か冷たいものがいいな」

「わかりました、戻るまではお休み下さい。ここは代わりに水谷が来ますので何かあればお申し付け下さい」

「やっぱり葵は頼りになるな、ありがとう」

 そういうとまた眠ってしまった。こう言ってくれるから仕事は辞められない。まあ独り立ち出来るまでは辞めたくても辞められないの方が正しいのだけれど。布団をかけ直してから部屋を出る。

 部屋を出ると水谷さんがいた。

「外に買いに出るので代わりにお嬢様を見ていただきたいのですが」

「分かりました」

 そう言うと気配を感じないくらい音もなく部屋に入っていった。幼い頃から教わったことによって、使用人の中でも模範的な動きが出来るようになり、気配に敏感な私でも、意識しなくては気づくこともできない。本当に尊敬する。コツを聞いても経験ですとしか返ってこないので練習するしかない。



 いつのまにかぼーっとしていて、そもそもの目的を忘れてしまっていた。早めに言われたものを買いに行かなければならない。

 流石にメイド服で外に出るわけにはいかないので私服に着替えから出る。

 雨は小雨になり風もあまり吹いていなかった。近くのお店で買い物済ませお店を出ると四宮くんが目の前を歩いていた。

 前に送ってくれた時に家が近くだと言っていたのを思い出した。この髪型とメガネをつけている状態で知人に会ったことはない。私だと分からないとは思うが念のため人に会うのは避けたい。

 しかしそう思った時には遅く四宮くんと目があってしまった。

「四宮……さん?」

 バレるわけがないと思っていたが一目で分かるほどにバレバレだろうか。

「四宮くん……最後までお仕事ありがとう。それじゃあ急いでるから、また明日」

 見抜かれてしまったことに驚いて話を切り上げてきてしまったが良かったのだろうか。

 どちらにしても、もう過ぎた話だ。早く戻らないといけない。仕事中に寄り道など何を言われてしまうことか……


最後まで読んでいただきありがとうございます。

今回は四宮 葵(女)の家の事情なども明らかになりました。

また次回も読んでいただけると幸いです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。


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