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迷ったら月に聞け 3~叛乱  作者:
月の真実
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溶け合う記憶

維月は十六夜に口付けて、心をつないだ。

その時に見た、記憶を失ってからの十六夜の気持ちに、維月は心臓を掴まれたように感じた。十六夜は苦しんで苦しんで、月に帰って独り閉じこもっていた。荒れ果てた心を分け入って行くと、そこには維月への愛情しかなかった。維月は、十六夜を置いて行けないと、心底思った。維心様が逝く時、私も逝く。その時は、十六夜も共に連れていかなければ、と。

維月は、十六夜からもらった十六夜の記憶を丁寧に十六夜の心へと浸透させて行った。十六夜の心は、消された記憶の所に到達するたび、震えた。一つずつ、何かを確認するように、そうだ、そうだと呟くのがわかった。

終わりの方へ差し掛かる頃、十六夜は維月を、寝ている下から抱きしめた。そして、その記憶を全て渡し終わった時、口唇を離した維月を見て、開口一番、言った。

「…ああ、オレも逝く。」十六夜が記憶を見たのだと維月は思った。「お前が逝くなら、止めねぇ。だが、オレも一緒に逝く。置いて逝くな。」

維月は微笑んだ。それを見た十六夜は愛おしそうにまた維月を抱きしめ、口付けた。そして、傍に黙って立っている、維心を見上げた。

「…維心。オレはなんだってお前を忘れちまってたんだろうな。一番忘れられそうにないヤツだってのによ。思い出したが、地のヤツは蒼のことも持って行こうとしてたんだ。オレはそれには必死で抵抗した…そしたらあいつは、それは取って行けなかった。維月は元より取れなかった。お前だけ、取られたんだよ。」

維心は少し憮然としていた。

「ふん、普段から邪魔だ邪魔だと思っておるからよ。」と維月を抱く十六夜の腕をちらりと見た。「…そろそろ離さぬか。いつまで我の寝台でそうしておるつもりだ。」

十六夜は苦笑した。

「おいおい、散々オレに見せびらかして置いて、自分は嫌なんだな。が、オレはどこまでも維月と一緒に行くぞ。10年後だって?」維心のびっくりした表情を見て、笑った。「言っとくが、オレも逝く。オレから離れたければ、維月を諦めな。」

維心は、心をつないだ時に見える全ての記憶というのを、この時は呪った。しかし、頷いた。

「…仕方がない。三人で道への空間を歩こうぞ。だが」と表情を引き締めた。「それまでにやらねばならぬことがある。」

十六夜は頷いた。

「地か。オレの母親のことも、維月から見た。陽蘭と言ったか?」維月が頷いた。「あいつからも聞かなきゃならんだろう。オレには、地が自分の片割れを、取り返そうとしているように思えてならねぇ…。」

維心が驚いたように顔を上げた。

「取り返す?」

十六夜は、維月をそっと離すと、身を起こした。

「そうだ。記憶を取るために、オレの記憶に入り込みやがった時、オレにもヤツの記憶が見えたんでな。それを整理する間もなかったが、今自分の記憶を整理したから、思い出したんだよ。維月にも見えたな?」

維月は頷いた。

「…なんだか、地の気持ちがわかったような…そんな気がしたわ。」

維心は維月に歩み寄った。

「その記憶、我にも見えるか?」

維月は頷いて維心と心をつなごうと、口付けようとした。それを十六夜が引っ張って止めた。

「十六夜?」

維月が不思議そうな顔をして、こちらを向く。十六夜はニッと笑った。

「そんな表情するなよ、維心。何もお前の邪魔しようってんじゃねぇ。それもあるが」と蒼を振り返った。「蒼にも、見せてやらなきゃならねぇ。居間へ行って、皆に見えるように、映し出そうや。出来るはずだ。心をつないだら全部見えちまうが、映し出すなら地の記憶だけ選んで出せる。効率的だろうが。」

維心は不満なようだったが、十六夜の言うことはもっともなので、頷いた。それでも、腕は維月を掴んだままだった。十六夜は苦笑した。

「お前はほんとに、オレとおんなじだなあ…。」そう言って寝台から降りると、維月の開いてるほうの手を掴んだ。「さ、居間へ行こうぜ。」

維月は両脇を挟まれて、身動き取れないまま引っ張られて行った。蒼はまた元に戻った…と、ホッとしたのが半分、疲れたのが半分で、居間へと付いて出た。

結局、三人並んでいつもの維心の定位置に腰を掛けると、十六夜は前の入り口横の大きな白い壁に向けて、自分の額から光を出して、何かの映像を映し出した。維心が片手を軽く上げると、部屋の照明が落ちて暗くなる。まるで映画みたいだ、と思いながら、蒼はその映像を見た。音は、心の中に直接響いて来るかのようだった…。


地は、気が付くとそこにいた。

自分の後ろにも、同じような命がいるのはわかったが、よくわからない。呼びかけたくても、どう表現すればいいのかもわからない。

それでも、自分が何かと一緒に居るというのは、地を安心させた。

しばらく過ごしているうちに、自分の表面にはたくさんの小さな生命が乗っているのを感じた。自分はそれを育んでいる…よくわからないが、自分が活動を止めると、その生命は潰えてしまうようだ。一度気を抜いたら、地表に居たほとんどの生命が居なくなってしまった。これはなんとも寂しいことで、地は、一生懸命見守って、繁栄させて行けるように考えた。

そのうちに、背後の相手とも意思を通じ合えるようになった。自分が生命を育むのを手伝い、また元気づけてくれて、地は感謝していた。まだまだ表現は稚拙だったが、それでも感謝の気持ちを伝えることは出来るようになった。気持ちが暖かくなった。

そんな毎日の中で、地上には、二種類の考える生命が居るのがわかった。それはそれぞれに、「人」と「神」と呼んでいた。人は多く、神は少なかった。人から神は見えないようで、たまに見えている者も居たが、とくにいざこざも無く暮らしていたので、好きにさせていた。

だが、人の数が増えて行くに従い、変なものが現れた。とても黒い嫌な気だった。それは人から出て人に憑き、更にその数を増やして行った。

地は見守っていた。神が人より優れた能力を持っているので、淘汰するかと期待した。が、神にはどうにも出来ず、封じるだけでその数は増え、そして神自身にも影響が出始めたのを見た時、このままでは人も神もとんでもないことになってしまうと、地は背後のものに話し掛けた。

《どうしたものだろう。このままでは、あれらは滅んでしまうかもしれない。》

背後のものは、相談されて驚いたようだったが、言った。

《何か、あれを消してしまう力を持つものを、世に出せばどうだろうか…》

地は困った。新しい生命を生み出すとは、どうすれば良いのだろう。自分たちは気が付けばここに居た。人や神とは違うのに…でも、我らは二人。これはもしかして、人や神の男女、陰陽ではないのか。

《人や神と同じようにすれば、生命を生み出せると、主は思うか?》

相手は黙った。わからないのだ。自分たちは明らかに人や神とは違う。そもそもどうやればよいのかわからないではないか。

《地上へ出てみよう》地は言った。《己の気を地上へ向け、そこへあれらと同じ型の体を作ろう。》

相手の気は、震えた。そんなことはしたことがない。出来るのかもわからない。不安だったのだ。

《大丈夫だ》地は、勇気づけた。《我を心を合わせ、同じようにしてみよ。》

迷っていたような相手の気が、決心して自分に寄り添って来たのがわかった。地は期待半分、不安半分で、地上に向けて気を放った。

気が付くと、地上に立っていた。空気というものを感じる。視野の狭い視界、しかし色も形もはっきり見えた。ふと見ると、前に赤い髪の人型が倒れていた。地は慌ててそれを抱き起した…手足の感覚が、また初めてだったが、自分がそれを使えているのに驚いた。

相手に触れた途端、これは背後の地、自分の片割れだと直感した。伝わって来るその気は、間違いなく長く共に居たそれだったからだ。

地は、声を出そうと呼吸した。空気とは、清々しいものなのだと思った。いざ、口に出そうとすると、言語に困った。今までは、念で話していたので、そんなものは必要なかったからだ。それで、地は、この地の神が使っている言葉を口にした。

「目を開け。どうしたのだ…主、どこか傷を付けたか?」

相手はその声に目を開いた。そして理解すると、同じ言語を使って答えた。

「どうなったのか?我は…何か空気が冷たくて、この身が動かないのだ。」

そういえば、と地は思った。人や神は、何かまとっている。地は急いで念じて相手を、人や神が来ている布で覆うと、自分もそうした。

「これでどうか?」

相手は考え込むようが仕草をすると、頷いた。

「いくらかよい。」そして、相手は地を見た。そして驚いたような顔をした。「なんと、とても美しい色だこと…髪も、瞳も澄んだ青よ。」

地はなぜかうれしく思った。そして相手を立たせながら、言った。

「主こそ、なんと美しいことよ。赤い髪に、金色の瞳である。そして、人や神でいう、主は女であるな。」

相手は驚いたように自分の身を見た。

「正に女よ。そして、やはり主は男であるのだな。」

地は頷いた。

「そうだ。我らは対を成している。そうやって作られたのよ。」

相手は真剣な目でこちらを見つめながら、言った。

「では、子を成せるのか?地上を平定させるにふさわしい力を持つ…。」

地は、確かなことはわからなかった。しかし頷いた。

「きっと成せる。試してみようぞ。」

しかし相手は、眉を寄せた。

「主にはわかるか?我にはどうすればよいのかわからぬ。」

地は少し自信がなかった。

「…そうだな。もう一度、人と神を観察してみるので、待ってくれぬか。この体、どう使えば良いのかも、まだわからぬのだ。」

相手も頷いた。

「では、共に学ぼうぞ。」

二人はいい具合に傍にあった、人が昔使っていたらしい小さな家に、人のマネをして暮らしてみることにした。

昼間は二人で人里へ飛んで行ってその暮らしをつぶさに観察し、帰ってそれをまねてみる、と言った具合だった。そうしなければ、子を成す体にならぬと思ったのだ。

赤い髪の地は、女がやっているので飯を作り、そして青い髪の地は、それを共に食した。二人とも味がわからないので、それがうまいのかまずいのかわからなかったが、とりあえずそれでよしとした。

青い髪の地が、思い切ったように言った。

「では、夜の人を観察に参ろう。きっと、もう子を成せるはずぞ。主はどう思う?」

相手は頷いた。

「きっと大丈夫だ。こうやって飯も食し、共に寝起きというものもした。後は人や神がやっておる、あれは…ええっと、なんであるのか?」

青い髪の地も苦笑した。

「よくわからぬが、あれはよく夜に行っておるし、きっとどこかの人か神は行っているはずぞ。」

赤い髪の地は立ち上がった。

「よし!行こうぞ!あとはあれだけぞ!」

相手がぐいぐいと手を引いて引っ張るので、青い髪の地は引っ張られるまま、二人で飛んで人里へ降りた。

「あの、家がどうもそんな気がする…」

赤い髪の地が指差した。青い髪の地も頷いた。

「確かに、あの気はきっとそうだ。入ってみようぞ。」

二人は、人に姿が見えないのをいい事に、その家に入って行った。そしてそこでは、確かに二人が知りたかった行為が行われていた。

二人は念で話した。

《なんだ?良く見えぬぞ。》

と、赤い髪の地が念を飛ばす。青い髪の地が回り込んだ。

《いや、こちらからなら見える。お?あれはどうなっておる。》

赤い髪の地がちょっと不機嫌に言った。

《う~む、どう見てもこれは主の仕事ぞ。我は寝ておれば良いだけではないか。》

《そんなことを申すな。我一人では難しいようではないか。》

責任がのしかかっているようで、青い髪の地は少し焦った。そんなこんなでそれを見届けた後、あと二、三件回り、二人は自分達の家へ帰って来た。

二人で寝台に乗ると、赤い髪の地が言った。

「つまりは、ほとんどが主の仕事であるのよ。」きっと恥じらいなどという言葉はないのだろう。服を脱ぎながら言った。「さあ、やってみよ。」

あまり自信はなかったが、青い髪の地は相手を抱きしめて、寝台へ倒れ込んだ。


案外にそれはうまく行ったように思った。

赤い髪の地も、あれは気に入ったと言った。しかし、一向に子が出来る気配はない。そしてまた二人で人里へ出掛けた結果、あれは継続せねばならない事実を知った。

一度で出来るなどとは都合の良いことであったのだ。

「どれぐらい続ければ出来るのであろうな?」

青い髪の地は言った。相手はもぞもぞと横で身を動かしながら言った。

「さあな…だが、我はこの暮らし、好きになって来た。退屈せずに済んで良いわ。そうは思わぬか?」

青い髪の地は苦笑した。確かにそうなのだが、地を守らねばならぬゆえ。それには、早く子が生まれねばどうにもならぬ…。

そうこうしてそれから一か月が過ぎた頃、赤い髪の地が、具合が悪いと言い出した。

「何か別の気が腹に居る…きっと、そのせいでこのように…」

本当につらそうに床に臥せっているので、青い髪の地は、ずっと赤い髪の地に付き添っていた。子を成すとは、これほどに大変なことだったのか。人や神を思う、地の気持ちが少し変化した時期であった。

そして、見る見る大きくなる腹を見ながら、生むにはどうすればよいのだろうと思っていた矢先、赤い髪の地が腹を押さえてうずくまった。

「きっと、これが生まれるのであろう…どうしたらいいのだ?我には何も分からぬのに。」

青い髪の地は叫んだ。

「待っておれ!」

そして人里へ飛んだ。

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