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07:敵か味方か銀鉄巨人


 判断は瞬間で、また正確。

 ベルスーチャは一時シャフトを拘束していた帯を解き、荷台から箱ごと札をぶっ飛ばす。


 だが、その最中。

 空を飛び、座標をずらされながらも、札の魔法は発動した。

 空間に、【門】が開く。

 渦を巻く亜空間から巨大な腕が出てきて、束の間、誰のものでもなくなっていたシャフトを、その指の間に挟み込むようにして奪取する。


「うわわわわっ!?」


 かたや、走るトラック。かたや、荷台から飛ばされた箱。彼我の距離はあっという間に離れていき……だから、ベルスーチャがしたこんな呟きも、彼の元へは届かない。


「——さて。帰るべきものが、帰るべきところに戻りますか。この先の図柄は未だ、未確定のままですが……少なくとも、何が出来るかを見るのは、楽しみ、楽しみ」


 そうして。

 遠ざかるトラック上の少女——獲物を奪われた神秘盗賊ベルスーチャが、何故か、小気味よい笑みを浮かべているのを、シャフトは見た。


「巡り合い、確かに成りましたっ! わたくし、あなたの紡ぐ物語を追っておりますからね、おタカラさーーーーん! また、厄介な時に会いましょーーーーっ!」


 ベルスーチャは運転席の上から手振り帯振り、意味はわからないがとにかく熱意は感じられる執着ラヴコールを光苔の地下道に響かせながら、あっという間に逃走した。

 それも、実に合理的で納得のゆく判断であった。

 シャフトを掴んだ腕は、今やその全貌を門の向こうから出現させている。


 亜空間からやってきたのは、身の丈5メートルはあろうかという銀に輝く騎士甲冑の巨人。

 獲物をめぐって真正面から殴りあうのは、帯一枚ではきつかろう。下手をすれば、逃走の足たるトラックまで失いかねない。


 ……なお。

 シャフトにとっては、やはり再び、状況は何も好転していない。

 正体不明の銀巨人は、物言わず、シャフトの拘束を続けている。その頭部は雄々しき威容と緊迫感を伴いながら、奇怪なる円柱頭を観察しているようだった。


「救援、感謝いたします。友軍の方」


 刺すような沈黙は、シャフトから破られた。


「このような兵器、噂にすら知りませんでしたが……気高き銀の輝き、巧みなる錬成の品、我らが帝国の品に相違ない。その事実に、信を捧げましょう。……内部に搭乗する銀巨人兵器の構想も、元・工廠勤めであった仲間から聞き及んだことがありますので」


 自由だった右腕を使い、横にした手を首元に添える帝国式の敬礼を構える。自分は、自らの頭がすげ変わろうと、精神は変わらず誇りある兵だと示す。


「自分は銀鉄帝国竜殻行動特別部隊【栄光の王冠】所属、シャフト・エーギリー特技兵です。本来であれば、様々な聴取などへの協力が義務とされる立場ですが……今は、先を急がねばなりません」


 少し力を込められただけで握り潰される状況下でありながら、シャフトは朗々と、臆すところ微塵もなく述べあげる。


「レキーナ・シェス・クォス・ミッセ・ガロバウゾ第十三皇女殿下の元へ。あの方の輝きを記し伝える一本の筆であることが、自分の役割であります」


 果たして。

 ちっぽけな一兵卒の言葉に、銀巨人はこのようにリアクションした。

 ……指につまんだシャフトを、肩に乗せたのだ。


「……あ、あの、これは?」

『なに。簡単だよ』


 初めて発された、兜の口部より聞こえたその“声”は、何らかの装置を通しているためか、年齢も性別も曖昧なものとして変換されていた。


『人にこちらの意思を、誠意を伝えたい時、言葉は元より、行動こそが肝要だからね』


 不意に、仕舞われていた記憶が走り込んでくる。

 シャフトの脳裏に、鮮烈な少女の笑顔と……共に挑む初任務直前の言葉が浮かび上がった。


『ええ、諸君の疑念、まことにもっとも! 無能不要の小娘が、ド底辺に落ち切った士気を上げるために適当な甘言をほざいているな、と思われるのも当然! しからば功績にて示そう! 【栄光の王冠】記念すべき初任務、華々しき散り様を期待された絶望の緒戦、脱落者ゼロで切り抜けて見せる! 信頼とはいつだって、行動の先払いで獲得するものなのだから!』


 レキーナは果たして、齢十二の少女とは思えぬ指揮で、あらゆる指揮官が投げた無理難題をこなしてみせた。慾帯種族軍、包囲網からの脱出……並びに、撤退中の友軍まで救援した。


 それはまだ、王冠に、全ての欠片が在った頃。

 シャフトが沈黙した空隙に、銀巨人の中にいる誰かが言葉を差し込む。


『——なんて。彼女だったら、こんなふうにして、自分は敵ではないと示したかな?』

「……あなたは。レキーナを、知ってるんですか?」


 質問への返答は、踏み出す足で。

 銀巨人が歩行を始める。先程走り去ったトラックが作っていた轍を辿って歩き出す。


『まず、安心してほしい。私は君を保護しに迎えにきた、警備局という組織のものだ。出口まではしばらく遠い。道すがら話をしよう。君が眠りについてから起きるまでに、世界に何があり、そして、これからどうすべきなのかもね。……ああ、そうそう』


 甲冑肩部、シャフトの座る横がぱかりと開き、その中には、綺麗に畳まれた服があった。


『着ておくといい、シャフト・エーギリー。はだかんぼうで外をうろつけるほどには、世界も君も変わってはいないからね』


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