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19:怪奇! ホロハニエの円柱男!


 奇襲であっても相手は非戦闘員。こちらは元でも兵士。

 そのようなこと、羽衣という反則の前ではまったく無意味な要素である。ああ無情。百年前と現代で変わらぬ味わいパワーバランス。


「ぺぺ、ぺ、ペンタさん!? え!?」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ! まだでしたよね、私たちの……書いている記事の方針について!」


 焦るシャフトの腹の上で、はぁはぁと息荒くペンタが言葉を吐き出す。


「竜殻奇譚は、竜殻で起こる様々な不可思議現象を追い求め蒐集し、独自の見解を加えて世間に発信する業務を行っておりましてぇぇ……その中でも、最近話題で熱烈に調査中だったのが——【怪奇! ホロハニエの円柱男!】なのですよぉぉぉ……!」


 目が怖い。

 頬が紅潮している。

 上半身を倒して身体が密着して顔が近い。


「都市部の様々なスポットで神出鬼没に姿を現し、何事かを書き記している怪人……果たしてその正体は!? 目的は!? これを今、ホロハニエのみならず、外の怪奇不思議愛好家の読者たちも気になりまくりの極み……うふっ、うふふふふふ!」


 体内で荒れ狂う興奮に合わせ、ペンタはぐねぐねと奇っ怪に身をよじる。


「信っじられません! こんなラッキーありますか!? 探索が空振りすぎてめそめそしてた公園で、話題のご本人を偶然直接大発見! 来ました! これ来ましたよぉ! さぁ、観念しておとなしく……竜殻奇譚編集部の独占インタビューに応じてくださぁいっ!」


 策略にて捕縛した取材対象に迫る、正体を表せし頭桃色取材記者。

 果たして、現在捕縛中の円柱頭からは、こんな言葉が漏れ出した。


「…………すね」

「にゃ?」

「嘘、だったんですね。僕の、絵とか、文を……褒めてくれて。記者に、誘ってくれたの」

「ひぅ!?」


 円柱頭に顔色は無くとも、人としての声色はある。

 シャフトの本気の落胆と悲しみが、スクープを前に興奮の絶頂にあったペンタを押し止め、身体を起こしてのけぞらせた。


「嬉しかったん、だけどな。やれることが、見つかったと思って」

「い、いいいいえいえあのあのそのですね、こういうことになったのはまぎれもない事実なんですけど、それは単に優先順位といいますか、そっちにも確かに偽りはなくって……!」


 馬乗りになりながらもあたふた釈明するペンタ。

 そんな奇妙な構図に突如、水洗トイレを流す音が割り込んだ。

 二人の視線が同時に向き、トイレの戸が開いて、髭面の男が腹をさすりながら出てきた。


「あー、くっそ、腹いてぇ……隠され過ぎで悪くなってたな、あの菓子。罠だ罠。いいもん見つけたってぬか喜びさせやがって、帰ってきたらあの野郎——」

「あっ! か、カゴーさぁん!」


 激闘を戦っていた人物……カゴーと呼ばれた髭面が、シャフトたちへ向いた。

 着ているのは、何日着替えていないのかという有様の皺の入ったシャツとズボン。刈り上げた髪で、眉を顰めた表情が、いかつい人相を更にふてぶてしく際立たせている。その背には枝がなく、どうやらシャフトと同じ精錬人らしい。


「見てください! 【怪奇! ホロハニエの円柱男】……さん、捕獲しましたぁ! これ! これってスクープですよね!? ね!? 私、間違ってないですよねーっ!?」


 髭面はまずペンタの顔へ、それからシャフトの円柱に視線を動かす。主観として目が合い、シャフトはとりあえず、頷くように頭を下げる。


「……どうも。ペンタさんには、一緒に仕事をしたい、って誘われて来たんですが……」

 髭面は、返事をしない。

 ふいっと目を逸らし自分のものらしき机に行くと、くしゃくしゃの箱から煙草を取り出し、ゆっくりと一服し、まだ長いそれを山盛りの灰皿に突っ込んだ。 


「ペン公アホンダラがテメコラァァァッ! 今すぐやめろそいつ放せボゲッ!」

「ぴぃぃぃぃぃぃっ!?」


 本体に危険が及んだ際、羽衣人には自分を守る為に羽衣を身体に寄せる反射がある。怒声を浴びたペンタが小鳥めいた悲鳴をあげて羽衣を戻し、シャフトは拘束から解き放たれた。


「ふ、ふぅぅぅ……助かりました、ありが」

「この怪人、常識持ってて警備局に被害訴えられるタイプじゃねえか! そんなん白昼堂々編集部まで誘き出して拘束しくさりやがって、連れ込むとこの目撃者も出てんだろ絶対よぉ! 訴えられたら負けて賠償請求される記事なんぞ出せるか、竜殻奇譚の心得は!?」

「はははは、【発表できない記事に価値なし】ぃぃぃぃっ!」


 ペンタは半泣きで絶叫し、シャフトは言いかけた礼を引っ込めて呆気に取られる。

 そして、カゴーはつかつかやってくると円柱頭の前にガラ悪くしゃがみこんだ。


「よお。つうわけでよ、お上に駆け込むのは勘弁してくれや。この通り。な。謝っから。こっちもさ、リキ入れて追ってた企画が潰れたってことで、痛み分け。この件終わり。でよ」


 物騒な面相の髭面は顎髭を撫でさすり、円柱を品定めするように眺めて、言った。


「記者やれんだって? ちょうどウチよ、やる気ある人手が欲しかったとこなんだわ。面接なんてかったりぃことしねぇから、いきなり研修な。特別だぞ、嬉しいだろ。オレぁ竜殻奇譚編集部の編集長やってるカゴー・リトプシスだ。よろしくな」

「————すみません。その前に一本だけ、連絡入れていいですか?」



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