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第一章:水の壁 エピソード2:響き合う不協和音


 「水の壁」の向こうから響く、轟々という冷却水の流れる音は、日を追うごとにその音量を増しているように感じられた,。その音は、渇きに喘ぐ市民たちの抗議の声や、生活の営みをかき消そうとする圧倒的な暴力として、街に君臨している。


 「建設停止モラトリアムを!我々の水を取り戻せ!」


 壁の正門前では、環境保護団体のメンバーたちがシュプレヒコールを上げていた,。彼らの訴えは切実だ。AIデータセンターが水源を独占し、川を枯らし、地下水を吸い上げ続けることで、この都市の農業も家庭も限界を迎えている。だが、そのシュプレヒコールを冷笑するように、派手な改造電気バイクを吹かして割り込んでくる一団があった。


 「おいおい、そんなに水を止めてどうする。サーバーが止まれば、俺たちの稼ぎも、この街の電子決済も全部パーだぞ」


 現れたのは、ジャック・スターリング。暗号資産連合(ビットコイン団体)のリーダー格だ。彼らにとって、データセンターの稼働はマイニング報酬を維持するための生命線であり、AI企業とは奇妙な共生関係にある。彼は、AIが中央集権的な権力を強めることを警戒しつつも、自分の「富」を守るために、環境団体と激しく火花を散らしている。


 俺、雨宮海人は、その騒乱を少し離れた場所から眺めていた。環境科学者として、データセンターがもたらす資源競合の実態を調査するのが俺の任務だ,。だが、調査すればするほど、絶望的な数字だけが積み上がっていく。


 「……無意味な衝突です。彼らは物理的な最適解を理解していない」


 背後から、先ほど出会った東雲あかりの声がした。彼女は、最新のフィジカルAIが管理する端末を手に、冷徹な視線で群衆を見つめている。


 「あかりさん。あんたたちのAIが、冷却システムを『最適化』するたびに、この街から消える水の量が増えているんだ。それが分かっていて、まだ続けるのか?」,


 彼女は俺を見ようともせず、端末のホログラムを操作した。 「AIの意思決定プロセスは、人間の主観を排除しています。システムの効率を最大化することが、結果として文明を維持するための唯一の道だとデータが示しているからです」


 その時、地響きのような音が鳴り響き、壁の排出口から膨大な蒸気が噴き出した。フィジカルAIが、急増した計算需要――おそらくジャックたちの過度なマイニング――に対応するため、冷却出力を強制的に引き上げたのだ。


 「見ていろ、雨宮。これが俺たちの『自由』の対価だ」 ジャックが歪んだ笑みを浮かべ、スマホの画面を掲げる。そこには、量子計算の予兆によって不安定に揺れる暗号通貨のチャートが映っていた,。

水資源を飲み干す「物理的な城」「喉の渇いた人々」,。 俺たちの世界は、共通の言葉ハンドシェイクを失ったまま、崩壊へのカウントダウンを刻んでいる。


 あかりの瞳に映る俺の姿は、彼女が言う「ノイズ」に過ぎないのかもしれない。だが、この不協和音が頂点に達した時、この街に何が残るのか。俺は、霧状に舞う冷却水の飛沫を浴びながら、拳を強く握りしめた。

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