天文17年尾張国那古屋
早朝から城を抜け出して、土手の下に寝転び流れる雲を見ながら考える
70年前の京での大乱から一族や国を二分にして争いが始まり 全国へと波及した
幕府・守護の権威は衰え 在地実力者が土地を押さえ周辺を支配して勢力を拡大
主君から実権を奪い傀儡や追放する下剋上がはじまる
隣国美濃は大乱の前から守護代の斎藤氏が守護土岐氏を傀儡としたが、一族内で主導権を争って衰退 庶流長井氏の家臣が守護次男頼芸を担いで守護就任に成功し実権を握る
関東では、幕臣伊勢宗瑞が北条性を名乗り、関東管領上杉一族を圧倒して伊豆・相模で一大勢力を築く
西国だと、京極氏出身の出雲守護代尼子が名門山名氏、赤松氏、大内氏の名門らを相手どり巨大な勢力を作り上げた
加賀では、一向宗門徒含む国衆一揆が守護富樫氏を傀儡とし、「百姓のもちたる国」と呼ばれる
織田と同じ斯波氏重臣であった朝倉は大乱の際に幕府との裏取引で越前を手にした
力さえあれば血筋に関係なく成り上がっていく時代だ
それは織田弾正忠家も同じであるな
主君である斯波氏が尾張守護職に任じられ、織田一族は越前から尾張に移る
宗家当主が守護代に任じられるが、主君補佐として在京するため、尾張の経営は一族庶流が各地に配された。弾正忠家もその一つで又守護代に任じられる家格があった
先の大乱で織田一族も分裂した。
弾正忠家は東軍方斯波義敏公・義寛公を擁する清州方につき 西軍方の宗家岩倉方と争う
京での大乱が細川氏と山名氏との和議により一応の決着となり
幕名によって、それぞれが半国守護代に任じられ、岩倉が義敏公に頭下げ再属 義寛公のもと一応まとまった
して、弾正忠家は丹羽郡の北部犬山周辺を所領としていたが、清州家と岩倉家の勢力争いは水面下で続き、祖父信貞が清州方として岩倉方勢力範囲である中島郡南方に侵入し 寺社領を押領して 土地を実際に耕作している者らを家臣にして勢力を増やす
さらに南へ進んで海部郡東部にも勢力を拡げ、商業都市津島湊を掌握して勝幡城を築城し本拠を移す
津島湊は伊勢湾と木曽三川とを結ぶ濃尾の物資集散地であり、そこで動く銭の量は膨大であり 土地や兵の数とは別の力「銭」を手にした
京の公家らが朝廷方から「銭」の寄進や便宜を求められ 弾正忠家は大名としてみられだす
木曽川沿いの河内には一向宗の勢力がはいりこみ一揆を形成され、侵入をあきらめる
銭と物資を有効活用し婚姻政策に転じて、尾張の中はもちろん 東美濃遠山氏や西三河安城松平氏と縁組し影響力を拡げる
岩倉家当主に妹婿の信安叔父貴を擁立に成功 祖父が隠居した丹羽木ノ下に信康叔父貴を入れて後見させ影響化においた
守護代清州家は弾正忠家の伸長を脅威に感じ 親父への代替わり際に押領地の返還を求めてきたために争いになる。 これは守護斯波氏が仲介に入り和解に至る
これ以降、斯波家から直に命をうけるようになり 外交の一端として本願寺との交渉を任され 清州陣営から半ば独立した立場となる
斯波氏は本拠越前を朝倉に奪われ 残る所領を保持するために尾張に下向したのだが、駿河今川によって遠江が奪われる。奪還を目指し吉良領浜名荘をめぐって今川と長らく攻防が続くが籠城戦で水の手を絶たれ、前当主義達公が捕虜となったうえに直轄軍が壊滅するという大敗北を喫し 守護の権威は失墜して以降尾張の経営は織田一族が主導となる
そして隣国三河をめぐり争いが、弾正家がさらなる躍進するきっかけになった
三河はもともと守護の権限が弱く 国衆は各地に独自の勢力を張っていた
そのなかで幕臣伊勢氏被官の松平氏が婚姻政策や各地に庶流を分出させ勢力を増していたが、
遠江奪取した今川が勢いのまま三河に侵入し宗家を滅ぼして松平氏の一部を支配下に置く
斯波・織田は対抗のため、矢作川西岸に残る松平一族を支援し西進を防ぐ
斯波氏の荘園碧海荘や隣接する山田郡ほか国境沿いの代官として一族やその家臣らに与え抵抗させた
三河は双方の本拠から離れ、傘下国衆が代理で争わせ その裏で調略戦を展開していたらしい
俺が生まれる前 松平氏から清康という傑物が現れ 瞬く間に一族をまとめて 周辺国衆を攻めて傘下とし三河をまとめる だが一族重鎮叔父信定と対立 信定城代の守山城を目指し突如尾張に侵入 が、陣中で家臣により弑されるという不可解な結末となる
清康は戦に強く人を引き付ける半面、暴君気質で家臣らの意見を聞かず、面前で罵倒するなど恨みもかっていたらしいが・・・
突如の当主不在で岡崎は混乱 事態を収拾のため信定が入るが、清康嫡男広忠は家臣につれだされており一時行方が分からくなる
数年後今川家新当主義元支援により岡崎に帰還してくるので、裏で関与を疑うよな~
今川派家臣により信定が追われ 清康弟信孝に後事に託し安城城に移る
ここで清州達勝公は三河の対処を信定と姻戚関係にある親父に一任した
信定嫡男清定の室に叔母 叔父信光室に清定妹との姻戚を重ねる関係であった
親父はこの機会を最大限利用した
今川の楔の那古野城を調略によって落として入城する
熱田社家千秋氏や愛知郡御器所村の佐久間一族ら有力国衆を被官に組み入れ戦力を増やす
信定後任守山城に信光叔父貴を入れ、信康叔父貴は犬山城を新たに築城し東への脅威を増す
信貞が亡くなり、後見人信孝が今川方家臣によって追放となって親父に救けを求め信孝手引きにより三河に侵入し安城城を奪うことに成功し
矢作川を境にして岡崎・今川勢と対峙する戦略をとる
今川は傘下の東三河国衆を動員し援軍を派遣してくるが 岡崎の南の小豆坂で迎撃に成功
義元は仇敵の甲斐武田から正室を迎え同盟締結も成功するも 縁戚である後北条氏との仲がこじれ東駿を占拠され、三河に介入できる状況ではなかったようだ
親父は今川の動きを注視しながら岡崎攻めと三河国衆への調略を進め広忠を圧迫
ここで、美濃で守護代蝮と守護土岐頼芸が武力衝突がはじまり、義統公と清州達勝公が頼芸支援を決め、尾張国中に動員令を発して総大将に親父が任じられる
親父以外に国衆をまとめる者がいないとの判断だったらしい
前守護の嫡男頼純を保護する越前朝倉と連携し 西美濃大垣城占拠して 稲葉山も包囲し
頼芸と頼純を美濃入りさせて交渉する
頼芸の守護復帰と後継を頼純とすることと大垣城に織田軍駐留を条件に和議をまとめる
この成果により、親父は「器用の仁」と呼ばれ尾張一の大名とみなされる
関東の扇谷上杉を滅ぼした北条が今川と和解したとの報が入る
義元が三河介入を本格化させると予想し 先んじて岡崎への圧力強め広忠を降伏させると、今川方であった東三河国衆が服属を申し込んでくる
が、ここで蝮が大垣城を囲むとの報せが入る
急遽親父が国衆を動員し救援に向かい 大垣城の包囲を破り、稲葉山城を包囲に成功するが その際中に清州家当主達勝が死去する
清州家宰坂井大膳ら重臣は、因幡家出身の彦五郎を後継に据え実権を握るとすかさず古渡を襲撃し城下に放火 俺を含め周辺の城から救援に向かうも逃げられ清州と交戦状態になる
親父は信康叔父貴に殿に任せて撤退する 直属ともに木曽川わたったところで稲葉城から蝮が打って出て殿を強襲 総崩れとなり木曽川まで追い詰められ 犬山城信康叔父貴 因幡守家当主織田達弘 大垣城代織田信辰ら大将格が討死し、美濃侵攻軍は瓦解するという大敗を喫する
今川が大原雪斎を総大将として大軍を発し、弾正家に降った渥美郡戸田氏を滅ぼし さらに進んで岡崎の南の小豆坂で再び対決となる
前年の敗戦により決定力が足りず安城城まで撤退 今川軍はそのまま岡崎城に入城する
当主を失った犬山家臣団が嫡男信清を担ぎ反抗するも鎮圧に成功
主導者として楽田城織田寛貞を追放、信清の家督相続を認め 姉貴と婚姻させることで和議する こんどは岩倉家臣団が距離をとりはじめるように・・・
一連の動きの裏に義元の影がちらつくな
国内に問題を抱えたままで2国相手に戦うすべはなく、清州に和議を申し出るも坂井大膳は応じず 平手の爺の意見で美濃国主となった蝮と交渉をすることになった
美濃を手にした蝮ではあるが度重なる争いで国衆から心服されておらず、国内の安定が優先するため交渉に応じてくる
蝮と交渉していることは知ってはいたが、突如親父に呼び出されてみれば婚姻の話であった
和議がまとまり対等の同盟を締結することとなり、その証として双方と婚姻を結ぶことになっ
既に2年前に元服し那古野城を譲られ初陣もすませており 室を持つのもやぶさかでない それが政略というものだろう
さて、親父は今後どうするのだ?
蝮がこちら側についたため、清州も停戦に応じるしかないだろうが 坂井大膳が裏で義元つながっているのは確定だろう。
三河で戦いなればまた邪魔をしてくるはず
一時的に泥をかぶることになるが 清州を倒してしまい、今川に集中するべきだろうが・・・
土手の上から声がかかる
「三郎さま ここにいたんですね?」
犬に見つかってしまったか、
「平手様が怒っております 早く城に戻ってください」
まだまだ余裕があるだろうが
受け入れの準備は爺がすでに済ませてある
俺が朝から着替えて待っている必要はない
「わかった 城に戻る」
返事を返して起き上がり ゆっくり土手を登る
「「三郎様!!」」
五郎佐と勝三郎が走って向ってくる
五郎佐が
「まだそんな恰好をして、相手はすぐにでも到着しますよ」
勝三郎らはまたかというあきれた顔をしている
「わかった、すぐに戻るよ」
城に向かって歩き 三人がついてくる。
勝三郎が
「平手様 林様 カンカンでした!!」
「いつものことである、大丈夫だ!!」
親父がつけた家臣の中で平手の爺だけが俺を認め後継者として扱うが
林は認めずに 礼儀正しい弟信行を親父に押してると聞こえている
礼儀なんてもの、この乱世 使う場がない
舐めてくるなら舐めさせればいいだけ
油断してくれればもっけのもん
権威が通じなくなってから久しく いまは実力をつけるほうが重要
「ああ~、めんどうだな~、」
「何を言っているのですか!
本日はあなた様が主役です
はやくしてくだい‼(怒)」
「「そうだ‼、そうだ‼」」
五郎佐が言い 勝三郎と犬が囃し立てる
内蔵助がこっちに向って走ってくる
「どこにいっていたのですか 相手はもうそろそろ着きますよ!!」
遠くに行列が進んでいる
中に立派な駕籠があるのが見えた
すぐにでも着くようだが 余裕がはまだある 急ぐとしよう
遅れても 爺がどうにか応対してくれるはず
「裏から入り準備して部屋でまっていた体にすれば 小言をいわれないです済む」
と、いそいで裏門に廻る
五郎佐に命じ 爺に伝えさせ、水場に回り 顔を洗い 汗を拭く
部屋で用意してあった正装に着替え 勝三郎に確認させて 謁見の間に向う
家老林をはじめとする家臣達が左右に座し 迎える準備ができている
林が何か言いたげだったが無視 どうどうと上座に向かい座る
そこに汗を拭きながら爺がやってきた
俺が上座にいることに気づき安堵し後ろの者を案内する
美濃の者が部屋の入口で膝をつく
その後ろから白無垢のおなごが進み出て挨拶してくる
今日 俺の妻になる美濃の蝮こと国主斉藤利政の娘である
織田と美濃の停戦と同盟の証として婚姻であり 本日祝言を迎える
爺が紹介し 俺の前まで進みきて目の前で座る
「尾張国織田弾正忠信秀が嫡男 那古屋城主 織田三郎信長である」
「美濃国守護代斉藤利政が娘 帰蝶と申します。
不束者ですか、これからよろしくお願いたします」
花嫁衣装で顔が隠れてわからん~
まっいいや 決まったこと 覚悟をきめる
内に不安を抱えたまま 二正面作戦を続ける愚はおかせない
今川が戦力を集中させて来るのは明らかで 対応せねばならない
この祝言で美濃との不戦同盟が成立し 援軍も頼める
弾正家嫡男として正室は自由に選べないことはわかっていたことだ
利があり受けるしかないだろう
末森城から親父や母上 重臣らがやってきて 祝言がはつつがなく終える