嘘の支配
「ゲームオーバーだ。ソフィア・アルナラ」
その言葉が聞こえると同時に、両手足に激痛が走る。赤い血が流れ、壁に体を固定された。その事実を完全に理解し切る前に、涙と声が漏れた。
「いっぐ…アアァァ!!!…ひっぐ…うぐ…」
精一杯の力を振り絞って、ナイフで壁に固定された右掌を強引に引き千切る。切れ込みが入り、痛みが走るが、今はそんな事に構っている場合では無い。
自由となった右手で両足の甲と左掌のナイフを引き抜き、服に刺さったナイフは、強引に引っ張って服の方を破いた。勢いで、前のめりに倒れ、四つん這いの体勢になる。
直ぐに立とうとしたが、力が入らず、そこから体を一切動かせなかった。ただただ、自分の目から流れる涙と辺りに撒き散らされている自分の血液を眺めていた。
だけど不思議な事に、妙に頭が回った。体を動かさないからか、痛みでおかしくなったのかは分からないが、とにかく頭が回った。
「何を…何をするんですかっ!!一体私が何をしたと言うのですか!!どんな罪を犯したと言うのですか!!」
今はこれが最善。この演技を突き通す。
「どんな罪?それは、どの罪の事だ?」
帰って来た声は余りに冷たく、感情が見えなかった。
今まで会って来た人間はその声を聞くだけで、どんな感情を抱いているのか、断片的にだが理解出来た。それは、あの魔王も例外では無かった。
だがこの声は、一切感情が見えなかった。
と同時に思い知った。自分の計画は、全て知られてしまっている事に。そして、今まで自分がやって来たことすら、知られているのでは無いか?とまで考えていた。
そしてその考えは、事実当たっていた。
「諸外国の重鎮達を操っている事か?それとも、自分の利のために多くの人間達を殺してきたことか?魔人族の『死神』に国内の邪魔な存在を皆殺しにさせた事か?『大国会談』が迫った大国を潰すために軍を送った事か?」
全て、当たっている。今回の計画だけでなく、今まで自分がやって来たことすら。全てバレている。
こうなったら、『死神』は演技の事も知っているだろう。ならば、もう隠す必要も無い。
そう考えて、演技は放棄した。それよりも、現状の理解とこの状況の打破の為に頭がさを回す事にした。
まずは、会話から情報を引き出す。
「アハハァァァ!!知っておられたのですねぇ!」
そう言いながら、四つん這いから体勢を変え、座り込んだ。
そして、本来の表情を見せた。包み隠さず、ありのままを曝け出した。
他人に見せた事はないが、この現状の打破には、そんな事に構っている場合では無い。
「では、教えてもらえませんかぁ?ぜ・ん・ぶ!」
「…まぁ、良いだろう。これが最後になるからな」
(…最後?)
その言葉には疑問しかなかった。だが、『死神』の言葉を聞き流すわけにはいかない。彼女、いや、彼の話に聞き入る事にした。
「…まず、俺はそもそもお前を利用して帝国を変えようとしていた。『大国会談』に向け、不安要素は全て排除すべきだと考えていたからだ。
帝国には悪い噂しか無いからな。1つずつ直していくのも面倒だと思ったから、一気に全て変えさせようとしていた。
詰まる話、俺は元々お前にクーデターをさせようと思っていた。
そう考えていた矢先に、お前が俺の目の前に現れたからな、流石に驚いた」
元々クーデターさせようとしていた。それはつまり、国を変えさせようとしていたと云う事。
『大国会談』、つまりは世界の均衡を保つ為にそうしようとしていたと云う事は、この男の目的は世界平和なのか?
いや、それは関係ない。今重要なのは、彼は私と会うまでは、私の計画を知らなかったのだ。
私は彼よりも遥かに早く計画を立てていた。てっきり、もっと早く計画を立てられていて、最初から仕組まれていたと思っていたが、そうではないらしい。
「けど、それは一瞬で終わった。次の一瞬には、色んな考えが浮かんだ。何故お前がここにいるのか?何故沙霧と接触しているのか?
だが、それはお前と沙霧の会話を聞いていて直ぐに終わった」
「…どう云う事ですかぁ?」
どうやら、本当に私の方が先に計画を立てていたようだ。だが、理解出来ない。今の今まで、私の計画は計画通りに運んでいた。何故失敗したかも分からない状況だ。
「簡単だ。嘘を付いていた。ずっとな」
「…何故嘘を付いていると?」
「…『嘘の支配』。相手の血液の流れ、心拍、体温や呼吸、目の動きや意識の先を知る事で、相手のあらゆる『嘘』を看破し、自らのあらゆる『嘘』が悟られなくなる。
結論を言えば、俺に一切の嘘は通じないと云う事だ」
「なっ…」
「この能力により、俺はお前が嘘を付いている事を知った。この時点で、俺にはある結論が出た。
それは、俺を利用しようとしていると云う事だ。話を聞いていくと、クーデターをしたいって事だった。
だが、俺はお前の嘘を付くタイミング、つまりはどれが本音が嘘かを判断した」
「…」
無言を貫いた。いや、声を出せなかった。あまりにも、次元が違う。
「そして、お前は態とクーデターを諦めるそぶりを見せた。だが、それは『嘘』だと分かっていた。相手の感情を揺さぶり、自分を助けさせるように仕向ける為に。
そして、俺はあえて乗った。何故か分かるか?」
「…私の計画を……利用する為…」
「その通りだ。お前はクーデターそのものに興味はない。それは分かっていた。なら、国を変える以外でそれによってもたらされるものに、お前は興味を持っている筈。
なら、答えは自ずと出る。お前は邪魔な父親と兄を消したかったんだろ?その為に強者を自分に協力させる必要があった。
だが、強者は名が知られており、自分の事がバレる危険性が含まれていた。
なら強者でありながら、他人とあまり関わらず、知られても問題のない存在」
自分とは、違いすぎる。
「魔人族を利用しようとした。目をつけたのは『死神』。その情報を集める為に、俺に『魅了』を使おうとしていた。だが、お前は俺が魔人族と交流があると知れば、『死神』と接触する為、俺を利用する為に自由にさせておくと踏んでいた。
そして、お前が俺に『魅了』を使うとすれば、『死神』として俺を利用し終わった後だと分かる。
だから、俺はお前に騙されたフリをしていた。ただ、利用されているフリをし続けた」
全部、全部バレていた。そして、利用されていた。『死神』は私の計画を利用して、自分の目的を達成させた。
完全な敗北。こんなものを味わうのは、生まれて初めてだ。
今この瞬間に、頭脳で初めて負けた。いや、もっと前に負けていた。そう、全ては、
―彼の手を握ったあの時から―
決まっていた。
文字通り、次元が違う。私は今まで、頭脳では誰にも負けていないと思っていた。武力で勝つことは出来ないが、知力なら、と。
だが、彼は違う。この皇帝城にいる全ての人間を暗殺した『死神』であり、私を弄ぶ程の頭脳を持つ。
勝てない。彼には何においても。
絶対に。
次回も、このテンションでいきます




