名
大量の『封印の波動』によって、『大監獄・デスタード』は土煙と暴音と共に倒壊した。
元々地震の影響で脆くなっていたのも、倒壊の原因となるだろう。
しばらくすると、何人かが瓦礫の山から這い出てきた。
「まぁまぁいるね。予測はしてたけど…」
這い出て来たのは全員が囚人。もれなく『魔封じの腕輪』が外れた状態で。因みに、この監獄に居る囚人は全員が人間ランク黒であるため、瓦礫の底から現れた者達もそうである。
「右から順に、農村を幾つも燃やし尽くした『青い炎』。数千人単位の殺人鬼兄弟『狂弟』。元レースティリ王国の兵士でありながら、王国の兵士達を惨殺した『緑雷』。そして小国を大量に破壊した『重王』。
全員が騎士団団長クラスの実力を持ってる。特に『重王』は、歴史上最悪と呼ばれる犯罪者だ」
そんな事を話していると、もう1人這い出て来た。筋肉質な男で、頭には髪が一切なかった。
「あれは『マックスパワー』。その身1つで、『大国』の兵力と同等とまで呼ばれてたらしい。まぁ、他の奴らに比べたらそんなに強くはないんだけど…」
『青い炎』は長身の女性で、青いロングヘアーだ。『狂弟』は、背の低い弟と背の高い兄。『緑雷』は緑の髪をした、表情が歪んでいるがクールなイケメンだ。『重王』は冷静かつ情熱的なおじ様、みたいな感じだ。
容姿に関して言えば、全員俳優や女優になれるレベルだ。考え方や行動は狂っているが。
「お前達に宣言する!彼女に服従しろ!反論は許さない!」
隣にいる彼女を見ながら、彼等に宣言した。
「おいおい!調子に乗ってんじゃねえぞ!」
発言して来たのは、案の定『マックスパワー』だ。絶対言ってくると思った。
「反論は許さないと言ったんだけど…」
「何故この俺が、お前達の下に付かなければならない!」
そう言いながら、『マックスパワー』は彼女に向かって跳躍して来た。右腕を構え、殴りかかろうとする。
「馬鹿が…」
小さく呟いた。自分でも驚くほど冷たい声だった。
「オラァァァァァァ!!!」
そして、その拳が彼女の胸あたりに触れた瞬間、『マックスパワー』は血飛沫と骨の欠けらとなって、拳の衝撃とは逆方向に飛び散った。
「「「「「っ!!」」」」」
それを見た5人の犯罪者達は悟った。自分達がいつでも殺される可能性がある、という事を。
瞬間、彼等が一斉に遠距離攻撃を仕掛けた。『青い炎』は青炎を放ち、『狂弟』は手刀による斬撃、『緑雷』は緑雷を放ち、『重王』は魔力で出来た半透明な球体を放った。
だが、それらは全て彼女に触れる前に消滅した。
そして、これで分かっただろう。彼等は絶対に、彼女には勝てないという事を。
「跪け」
彼女の声は、どこまでも凍りついた様な声だった。人間が発しているとは思えない様な声に、5人は一瞬たじろぐ。だが、既に自分達の立場は理解していた様で、全員直ぐに跪いた。
久しぶりに聞いた彼女の声は、やはり簡単に慣れるものではない。人間の声には聞こえないし、なによりも以前の明るすぎる声とは、対称的過ぎるからだ。
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こうしているとあの日を、あの時の星空を思い出す。
自らの人生で最も悔いた日であり、絶対に忘れる事が出来ない日。そして、普通である事を捨て、『異常』である事を受け入れた日。
あれから俺は、何が出来ただろうか。彼女を蘇らせようと、藁にもすがる思いで『神のゲーム』に参加したが、結局は無駄足でしかなかった。
『魔力破壊』を得る事は出来たが、結論から言えば、10年前の方が強かった。
『四獣』との戦いで少し力は戻ったが、あの頃であればここまで苦戦はしなかっただろう。斬撃と拳での攻撃だけで、全ての細胞を消滅させる事ぐらいは出来た。
分からなくなってくる。今自分が何の為に戦っているのか。そんな事すら分からない自分に、無性に憤りを感じる。
「今お前が俺を見たら、何を言うんだろうな……
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彼等の忠誠の行動を見て、彼女を見た。今彼が、今の彼女を見たらどう思うのだろう?
そう考えた。
彼女を見ていると、風で彼女のフードがめくれてその顔が見えた。黒い髪に、黒い目。一切の表情が無く、かつての彼女とは余りに違う。
優しく笑いかけながら、穏やかに言った。
「流石だね……
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………光」」
今章完結です




