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オレは女子高生・ソフトバージョン  作者: AT
第2章

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61/61

第61話 祭の後 男のオレ、女のオレ    初出09.5.24

 「・・有希・・大丈夫・・・?」

長谷川が上から心配そうに、オレをのぞき込んでいる・・・

「・・・うん・・・・」

意識がはっきりしてきて、オレにもだんだん今の状況はわかってきたけど・・・情けなくてまともに長谷川の顔を見ることが出来なかった・・・


 オレは小屋の裏手の長椅子の上に寝かされていた・・・少し離れたところから見世物小屋のスピーカーの音が聞こえている・・・

「・・幽霊の人が運んでくれたのよ・・・有希ったら平気なんじゃなかったの?」

「・・・ご・・ごめん・・・長谷川さん・・・」

長谷川がお化けとか苦手と知って、イジワル心で無理矢理誘っておいて・・・オレの方が気を失うなんて・・・

「苦手なのに何で入ろうって言ったのよ。」

「・・・お化けは・・平気なんだけど・・・お化け屋敷にイモムシなんて・・・反則だよ・・・」

「・・有希イモムシが苦手だったんだ・・でもあれってゴムのやつよ。」

「・・知ってるけど・・・でもダメ・・・」

生理的なイヤさって理屈じゃないのだ・・・



 オレだって少しは男らしいとこ見せようと思ったのに、これじゃまったく逆効果だ・・・せっかく今日は男の子でいいって言ってくれたのに・・・そういえばかあさんにも、優しくしてほしかったら自分から優しくしなさいって言われてたのに・・・イジワルされたから仕返ししようなんて・・・オレって最低だ・・・・


 それにひきかえ長谷川は、あんなに怖がっていたのに、さっきオレの様子を見に来た幽霊の人と平気で話してたみたいだ・・・

「・・・長谷川さんこそ・・幽霊とか怖いんじゃなかったの・・・?」

「あ、さっきの幽霊役の人? お化け屋敷ってああいう場所が怖いんじゃない、こんな明るいところじゃ怖くないわよ。」

「・・・そうなの?」

オレは今でも、もしイモムシを見せられたら悲鳴をあげてしまいそうなのに・・・なんか長谷川さんって逞(たく)ましい・・・



 「起きれる?」

「・・う・・うん・・・」

オレはゆっくりと、寝かされていた長椅子から起き上がりながら、こっそりお尻の下の方をさわってみた・・・大丈夫みたいだ・・・

 実は腰が抜けたようになった時、少しだけオシッコをちびってしまったのだ・・・でも、今日は浴衣だし、トイレもすぐに無いかもしれないと思って、多い日の夜用を忍ばせていたから助かった・・・多くても横や後ろに漏れないような、早い話がオムツのようなやつだ・・・おかげでしばらくこのままでも問題なさそうな感じ・・・少し重くてゴワゴワするけど、長谷川に漏らしてしまったことを告白するよりはずっとマシだ・・・


「あっ!君もう大丈夫なの?」

急に幽霊の人が現れたので、オレは慌てて浴衣の裾の乱れを直した・・・

「・・は・・はぃ・・・あ・・ありがとうございました・・・もうだいじょうぶです・・・」

オレはペコリとお辞儀をした・・・つい女の子っぽい仕草をしてしまう自分が恥ずかしい・・・となりで長谷川が見てるのに・・・でもオレが男だと思われるよりは、か弱い女の子だと思われる方がずっとマシだ・・・だって・・男がお化け屋敷で気絶したなんて情けなさすぎる・・・



‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥



 参道に戻って歩き出してからも、なかなか長谷川と目を合わすことが出来なかった・・・オレ・・軽蔑されてしまっただろうか・・・


 すると長谷川がいきなりオレの手をとって言った・・・

「そんなに落ち込まなくて良いじゃない!もう忘れましょう? まだとうもろこしも食べてないし、金魚だってすくってないんだから! それに肝心の東京ケーキだって。」

「・・うん・・・」

「ほら、元気出しなさいよ!」

長谷川に肩を抱き寄せられると、なんだかその気持ちが嬉しくて泣きたくなってきた・・・


「・・長谷川さん・・・」

「ん?」

「・・ごめんね・・・せっかく言ってくれたけど・・わたし・・もう男の子には戻れないみたい・・・」

「有希そんなこと気にしてたの? いいわよ、有希はそのままでいいのよ。」

「え? このまま?」

「そう。言ったでしょう?男の子でも女の子でも有希は有希なんだから。」

「・・うん・・・」

なんかすごく嬉しい・・・こんなこと言ってくれるのは長谷川だけだ・・・

「わたし・・・長谷川さんのこと好きよ・・・もちろん女の子どうしとしてだけど・・・」

「わたしだって有希のこと好きよ。もちろん女の子として!」

「うん・・」

そうだ・・・オレたちは女の子どうしなのだ・・・男の子としてとか、女の子としてとか、変な気負いなど元々必要なかったのだ・・・そう思うとなんだか肩の荷がおりたような気がした・・・



 それからのオレは素直にお祭りを楽しめるようになった。

ヨーヨーを釣ったり、ビー玉を落として大きなカルメラ焼きをゲットしたり、とうもろこしを半分づつ食べたり・・・まるで子供のころに戻ったように楽しんだ・・・



 「あっ! あれじゃない?東京ケーキって!」

おじさんが穴があいた鉄板の上で小さなタコ焼きのようなものを焼いている・・・しかしソースとは違う甘い匂いが漂っている!

 オレたちが走り寄ると、おばさんが焼き上がったやつを、ひとつづつ爪楊枝にさしてくれた。それは4cmくらいの丸さで半分が焼けて茶色くて、半分は鉄板で焼けてないから黄色い色をしている。タコ焼きみたいにまん丸じゃなく平たい。


 食べてみるとホットケーキのような食感で、それをもっと甘くしたような感じだった。なんだか素朴な味だ・・・オレはこんなの嫌いじゃない・・・

「おいしいね、長谷川さん!」

「うん。」

オレたちは顔を見合わせて微笑んでいた。なんだか思わず笑顔になってしまう味だ・・・


 結局、長谷川さんは2人分、オレはかあさんと、とうさんと、麻衣と食べるために3人分買った。5人分はけっこうな量だ・・・やっぱり大きいバッグを持ってきて良かった。長谷川が持ってくれているカゴバッグに包みを入れた・・・

「長谷川さん、わたしが持つわよ。重いでしょう?」

「まだいいわよ。有希はまだやることがあるでしょう?」

「?・・・あっ、金魚すくい?」

そういえばもう陽も西に傾いている・・・あたりも少し暗くなりはじめていた・・・

「そうね、もう帰らなきゃいけないもんね・・・」

いざ帰るとなると急になごり惜しくなってくる・・・なんで楽しい時間ってすぐに終っちゃうんだろう・・・


 オレたちは駅に近い参道の出口のところで金魚すくいをすることにした。

「有希、元気がいいのをとってよ。」

「・・うん・・・」

でも、だいたい元気がいいのはとりにくいものだ・・・モナカはふやけてくるし・・・水に浸けたら小さいヤツがモナカをつつきにくる・・・やっと元気なヤツに狙いをつけてすくおうとしたら、モナカが針金から外れてしまった・・・

「あぁ・・・」

オレが落胆してると、長谷川がお金をはらって新しいやつをオレに手渡した・・・・2回分もあったらもっと良い金魚が買えたのに・・・でももったいないから今度こそ頑張らなきゃ・・・

 ジャマな浴衣の袖のたもとを脇にはさんで腕をまくった。もう選り好みなんてしてられない・・・オレはとりやすそうなのからとっていき、結局小さいヤツを3匹だけすくうことができた・・・


 「ごめんね、小さいのしかすくえなくて。」

「いいわよ。それにけっこう元気そうよ。」

金魚が入ったビニール袋を見ながら嬉しそうな長谷川を見てると、オレもなんだか嬉しくなってくる・・・



 「長谷川さん・・今日は連れてきてくれてありがとう。」

「ううん、ついてきてもらったのはわたしの方だし、それに今日はいっぱい有希の笑顔が見れから嬉しかったよ・・・」

「え? わたしそんなに笑ってた?」

「うん。有希ってなかなか4人組でいるときみたいな笑顔、わたしに見せてくれないじゃない? でも今日の笑顔はあの3人もたぶん見たことないと思う・・・有希ほんと楽しそうだった!」

そんなふうに言われると、なんか恥ずかしくなっちゃう・・・

「だって・・長谷川さんは誰とも違うんだもん・・・」

長谷川はオレにとって誰にも代えられない特別な存在なのだ・・・

「わたし、長谷川さんのこと好きだから・・・」

だからもっと優しくしてほしい・・・


「なによ・・なんか今日の有希いつもより女の子じゃない?」

「・・そ・・そうかな・・・?」

でもオレも本当はわかってる・・・長谷川の優しさはそんなんじゃないんだ・・・長谷川はオレが困ったときにスッと助けてくれる・・・そんな・・どこかお姉さんみたいな優しさなのだ・・・


 そんな長谷川にオレも優しく接したい・・・でもどういうのがオレの優しさなのか・・・笑顔なんかじゃない・・・長谷川にオレは何をしてあげればいいのか・・・オレにもまだわからなかった・・・



‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥



 「有希ちゃんお帰りなさい、放生会楽しかった?」

「はい!」

長谷川のお母さんに迎えられてオレは元気に返事をした。だって今日は本当に楽しかったから。

「あ、そうだ・・・」

オレは肩に掛けたバッグから東京ケーキの包みをふたつ取り出して、まだ温かい包みを長谷川に手渡した。長谷川はそれをお母さんに何も言わずに渡した・・・

「なに? おみやげ?!」

お母さんはちょっと驚いたように包みを見た。

「あら? 懐かしい・・これ東京ケーキじゃない!」

お母さん嬉しそう・・・でもちょっと変じゃない? だって長谷川はお母さんに頼まれて買いに行ったハズなのに・・・


 そうか! きっと長谷川は、お母さんが懐かしがるのがわかってて、わざと黙って買ってきたのではないだろうか・・・だからお母さん、こんなに喜んでるんだ・・・


 なんかいつも文句ばかり言ってるのに、本当はお母さん想いなところをかいま見れて、オレもなんだか嬉しかった・・・それに協力できたのも、また嬉しい・・・




 オレはすごくあったかい気持ちになって家路についた・・・オレも早く帰って家族の笑顔が見たくなった。





‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥



おまけのあとがき


今回ちょっと短かったのでおまけです。

「放生会編」のテーマは何も起きない話でした。まあ、実際にはそこそこ起きてますけど、事件を起こすのが目的の話ではないという意味です。しかし何も起きない話は難しいです。普通、話を作る時は書くべき目的があってそこに行かすのですが、今回はまず放生会に行かせてみて、そこで起きたことを書いてみました。とはいえ、お化け屋敷の話は前にも一度書こうと思ったことがありまして(スペースワールドで麻衣と入る予定だった)でも書いてみると展開が変わってしまったので止めていたのが、ここでより最適な形でやれて、そして最後は有希の笑顔につなげられて良かったと思います。前に笑顔の有希が見たいと言って下さった方がいたのが気になってたので、どこかで有希の本当の笑顔を描きたいと思っていたのです。


今回、唯一のキーワードだった“東京ケーキ”は、有希は長谷川がサプライズ的なものを狙ってお母さんにプレゼントしたと思っているようですが、本当はお母さんがテレビのニュースで放生会の様子を見てポロッと言ったのを聞いて、それを有希を誘うために利用しただけなんです。実はこの話ではこういう有希の勘違いがけっこう沢山あります。とはいえ、そういう部分は、有希のやつ勘違いしてるんじゃないの?なんて深読みしていただいても、そのまま読んでいただいてもかまいません。この話では伏線などバレてもバレなくても良いように書いていますので。


なにも起きない話なんてのが書けるのはネット小説でなければまず無理だと思うので、これからも時々やれたら良いなぁと思います。難しいですけど(笑)



それと先日、評価・感想のところで東京ケーキを「なんで親は知ってて子が知らないんでしょうか」という質問に答えたので、同じ疑問を持ってる方もいるかもしれないので転載しておきます。


東京ケーキをなんで子供は知らないのかというと、どちらかといえば質素で、子供が食べたがるようなお菓子ではないからです。昔のあまり美味しいお菓子がない時代に、有希たちのおばあさんの世代が食べたがったお菓子なので、お母さんたちは、そのお母さんに買ってもらったから知っているけど、お母さんはあえて長谷川さんたちには買い与えなかったのだと思います。有希はそもそもあまり連れていってもらったこともないので当然知りません。お母さんたちも子供のころはそれほどでなくても、今になって懐かしくなったのではないでしょうか。


みなさん疑問に思ったことがあったら、遠慮なさらずどんどん聞いて下さって結構ですのでよろしくお願いします。



09.9.20

『オレは女子高生』支援ページを作ってみました。


東京ケーキについてはココで紹介しています。

http://www5c.biglobe.ne.jp/~at-sige/orejyo/080623-00.html








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