第57話 雑誌 とうとう発売に・・・(ソフトバージョン)初出09.5.1
初めて学校で水着になったせいか、今日はなんだか疲れてしまった・・・水着はちゃんと洗ってから長谷川に返そうと思っていたのに、長谷川は強引にそのまま持って帰ってしまうし・・・オレだって洗濯くらい出来るのに・・・それとも自分の水着をオレに洗濯されるのがイヤなのかな・・・
「ただいま・・・?」
家に帰ると郵便受けに大きな封筒が入っていた・・・
「なんだろう・・」
取り出してみると、オレ宛てのだ・・・差出人は・・・九州JINON編集部?
「編集部から連絡かなぁ・・」
でも連絡なら携帯に来るハズだし・・・わざわざ郵便で送って来るとも思えない・・・それにずいぶん分厚いし。
オレは玄関にカバンを置いて、その場で封筒を開いてみた。
「あ! JINONの新刊だ・・・」
それは九州JINONの今月発売のヤツだった。あさってが発売日の6日だから楽しみにしてたけど、まさか発売日より前に送ってくれるとは思わなかった。
「買わなくて済んで儲かっちゃった。」
オレは玄関を上がるのももどかしく、靴も脱がないまま座り込んでペラペラめくってみた・・・オレたちどんな感じに載ってるんだろうか・・・もちろん小さい写真だろうとは思うけど、それでも自分が雑誌に載るなんてワクワクする・・・
しかしオレはそのページを見たとたん、思わず雑誌を取り落としそうになった・・・
「う・・うそ・・・」
信じられない・・・
なんと1ページが丸々オレたちのページになっていた・・・しかも真ん中に大きく使われている写真はふたりで写ったのではなく、オレひとりのやつだ・・・なんで・・・?
「うわっ!」
いきなり携帯が鳴ったのでビックリした。かけてきたのは千里だった・・・
「もしもし・・」
「あ、有希? 有希のとこにも来てる?」
「・・JINON?」
「うん・・・」
「・・うん・・来たよ・・・千里のとこにも来たの?」
「うん、ビックリしちゃった。」
「わ・・わたしも・・・」
・・・もしかしたら・・オレだけ大きく載ったから怒っているかもしれない・・・
「ごめんね・・」
「? なんであやまってるの?」
「・・だって・・・ごめん・・わたしだけ大きく載っちゃって・・・」
「そんなのぜんぜん平気よ! だって有希すてきだもん!」
「・・・・・」
たしかに素敵な服だけど・・・
「それにわたしがこんなに大きく載ってたらハズカシイし・・・」
・・そんなの・・・・オレだって恥ずかしいよ・・・
「でも、どうする・・?」
千里がそう言ったがオレには何のことかわからなかった。
「どうするって?」
「だって・・これじゃすぐバレちゃうじゃない!」
「・・?・・けっこうお化粧してるからバレないんじゃないかなぁ・・・」
「有希・・それ本気で言ってる?」
「・・・うん・・」
「誰がどう見たって有希にしか見えないわよ!」
「そ・・そうかなぁ・・・」
こんなにきれいなコが、実はオレだなんて思うかな・・・
「・・・ほんと有希って変わってるわねぇ。」
「・・そ・・そう?」
オレの目には、オレも千里もぜんぜん違って見えるんだけど・・・ほんとにオレたちって判るのかな?
「でも・・・どうしようもないんじゃない?」
「それはそうだけど、有希ってほんとのんきな所あるよね。」
たしかにオレは他人にはよくのんきだと言われるけど、オレとしては、そんなにのんきに構えてるつもりはない・・・
「学校で問題になったりしたらどうする?」
「・・・どうしよう。 何か良い案ある?」
「あるわけないじゃない!」
「・・やっぱり・・・?」
オレにだって良い案なんてない・・・こんな時、相談できるのは・・・
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「ねえ、とうさん・・入っていい?」
「有希か? いいぞ。」
オレは納戸を改造した書斎の引き戸を開けて中に入った・・・もちろん息は止めている・・・
「・・マスク一枚ちょうらい・・・」
オレは貰ったマスクを着けると、やっと大きく息を吸った。
「ちょっと相談があるんだけど・・・」
オレはこれまでのいきさつをとうさんに話した。
「ほう・・なかなか美人に撮れてるじゃないか。かあさんの若いころを超えたかもしれんな・・・あ、これはかあさんには内緒だぞ。」
とうさんはオレの写真が載っているページを見ながら言った。
「・・そ・・そんなの言わないよ!」
だいたい美人に撮れてるのは、プロのメイクさんのお化粧が上手いからだし・・・
「そんなの見なくていいからさ、わたしどうしたらいいと思う?」
「そもそも、お前はどうしたいんだ?」
「え? わたし?」
「お前はモデルをやりたいと思ってるのか?」
「えっと・・・出来るのならやってみたいけど・・絶対やりたいってほどでは・・・」
「それじゃ、もし学校でダメだと言われたら、やめても良いのか?」
「・・・うん・・まあ・・・」
「だったら何も問題は無いじゃないか。」
「・・でも・・・千里が・・・」
「千里ちゃんがどうしたんだ?」
「千里はモデルやりたいんじゃないかと思うんだ・・・でも千里の両親はわたしが一緒だからモデルやることを許してくれたって言ってたし・・・」
「それじゃ、両方がモデルをやるか、両方がやめるかしか選択肢が無いって事か?」
「・・う〜ん・・・そうなのかなぁ・・・」
でもオレは・・・
「千里だけでもやらせてあげたいんだけどな・・・」
「それなら、そうちゃんと言えばいいだろう。」
「でも、千里はオレと一緒じゃなきゃいかないって・・・」
「それはおまえの問題じゃないんじゃないか?」
「?」
「千里ちゃんがご両親を説得するか、両親の言いなりにやめるかは千里ちゃんの問題だよ。お前の問題じゃない。」
「・・・そうかなぁ・・・」
理屈はそうかも知れないけど・・・でもオレたちは友達だし・・・
「だいいち学校は、お前も千里ちゃんもモデルをやることを許してくれないかも知れないじゃないか。千里ちゃんだけ許してくれる確率がどれくらいあるのかな?」
「そういえばそうか・・・」
考えてみれば、学校がモデルをやることに反対するとしても、オレが男だから反対するわけじゃないだろう・・・
「だったら・・学校がどう言うかわからなきゃ、どうしようもないじゃない・・・」
「まあ、そういう事だな。」
「・・・じゃぁ・・結局わたしはどうしたらいいの?」
「そうだな・・・おそらく雑誌が発行されたら先生たちの耳に入り、ふたりとも呼び出されるだろう。そしたら、お前は自分の気持ちを正直に言えばいい。判断するのは学校で、お前じゃない。」
「・・わたしの気持ち・・・?」
オレの気持ちは・・たとえオレがやめなきゃいけなくても、千里だけでもやらせてあげたいというのが正直な気持ちだ・・・それを言えばいいのだろうか・・・
「まあ、お前が学校を辞めてでもモデルをやりたいのなら話は別だが。」
そんなつもりはない・・・オレは白鴻女学園が好きだし、モデルといってもあくまで読者モデルで本当のモデルじゃない・・・オレはそんなもののために学校を辞めたくはない。
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次の日は体育祭の練習などであわただしく過ぎて行き、あっという間にJINONの発売日が来てしまった。
朝、オレが久留米の駅で電車を降りて、学校への道のりを登校していると、後ろからいきなり声をかけられた。
「戸田さん!JINON見たわよ!スゴイじゃない!!」
となりのクラスのそんなに知らないコに声をかけられたので驚いていると、その後も2年生やら3年生やらいろんな人に声をかけられた・・・どうやら千里が言ったとおりバレバレなようだ・・・それに・・何でみんなオレのこと知ってるんだろう・・・出来るだけ目立たずに学園生活を送って来たオレとしては、そっちの方もビックリだ・・・
校門では今日も風紀検査をやっている・・先生にはまだ知られていないようだが、まわりのコたちがオレのことをチラチラ見るから誰かが先生に言うんじゃないかとヒヤヒヤしながら通り過ぎた・・・
クラスに着いたら着いたで、みんなに取り囲まれてしまった・・・手にJINONを持っているコまでいる・・・こりゃタダでは済みそうにない・・・千里はまだ来てないみたいだけど大丈夫だろうか?
しかしオレたちだとバレたのも驚きだけど、今日発売なのにもうみんな知ってるのも驚きだ・・・雑誌なんか帰りに買えばいいものを・・・オレはいつも帰りに買っているのに・・・
「み・・みんな良くわたしだってわかったわね・・・」
「? そりゃわかるわよ、だってどう見たって戸田さんじゃない。」
「・・・・」
わからないと思ったオレの目がおかしいんだろうか・・・みんなはお化粧してるオレなんて見たことないハズなのに・・・良くわかるなあ・・・
「この写真、いつ写したの?」
「えっと・・夏休みに入ってすぐの頃だったかな・・・」
「わたし知ってる! 前に岡本さんたちと応募したんだよね。」
「え・・そうだけど・・・」
そんなことまで知ってるの?・・・岡本が言ったのかな・・・女の子って何でも話しちゃうんだなぁ・・・
「わたし戸田さんはぜったい採用されると思ってたよ。だって最初に会った時からモデルさんかと思ったもの!」
それはオレが他のコより背が高いからじゃないのかなぁ・・・?
そうこうしてるうちに千里たちも登校してきた。千里も取り囲まれてしまったが、騒いでるみんなを一緒に来た原口がおさめてくれたので助かった・・・こういうとき原口は落ちついてるから頼りになる。そんなこと思ってたら原口がオレのところにやってきて小声で言った・・・
「でも有希、どうするつもり? こんなに騒ぎになってたら先生の耳に入るのも時間の問題よ。」
「・・うっ・・うん・・・」
今年のプールの授業も終って、あとは例の簡単な手術だけだと思ってたのに・・・まさかこんな事態になるなんて・・・どうしてこんなに問題ばかり起きるんだろう・・・
始業時間になり担任の山口智佳〈やまぐち ともか〉先生が来て、やっとみんな席についた。どうやら山口先生もモデルのことは、まだ知らないみたいだ・・・まあ、先生はJINONを読むような歳でもないし・・・
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3時間目が終った中休み、急に校内放送が流れた。
“・・1年3組の戸田有希さん・・1年3組の戸田有希さん・・至急、校長室まで来てください・・・くりかえします・・・・・”
オレだけ?・・・とうさんはふたりが呼ばれるだろうって言ってたけど・・・なんでオレだけ呼ばれるんだろう・・・
放送を聞いた千里がオレのところへやってきた。
「有希・・わたしも一緒に行くから・・・」
しかし、呼ばれたのはオレだけだ・・・それに、千里や他のみんなは知らないだろうが、オレと校長は知らない仲でもない・・・オレひとりの方が、せめて千里だけでもモデルをやらせてもらえないかと頼みやすいかも知れない・・・校長も男のオレを入学させたくらいだから案外話がわかる人かもしれないし・・・
「いや・・呼ばれたのはわたしだけだから、とりあえず一人で行ってくる・・・千里は心配しなくていいから・・・ね?」
オレだって親友の千里のためなら、少しは男らしいことも出来るのだ・・・女になっておいて言うのもなんだけど・・・
校長室へ行くために廊下を歩いていくと、みんなオレのことを見ている・・・きっとモデルのことで怒られに行くと気づいているのだろう・・・1組の前を通るとき、教室の窓からのぞく長谷川と目が合った・・・なんか怒ってるみたいにニラんでる?・・・オレ何か長谷川が怒るようなことしただろうか・・・でも今はそんなことに気を使ってるヒマはない!
「失礼します・・・」
校長室に入ると、そこには校長先生と教頭先生がいた。
「戸田君、これは何だね? 君はまったく何を考えているんだね!」
「あっ・・・」
いきなり校長先生に言われて見たテーブルの上にはJINONが置いてあり、オレたちが載ってるページが広げられていた。
「・・ご・・ごめんなさい・・・」
オレは低く頭を下げた・・・
「・・やっぱり・・モデルなんかやったらダメですか・・・?」
「そんなことを言ってるんじゃないんだよ、まあそれも問題だがね。君はここを卒業したら男に戻らなきゃいけないのに、こんな事をしていたら男に戻れなくなるかも知れないよ。」
「・・あ・・・はぃ・・・」
そうか・・・校長先生はオレが女になることにしたのを知らないんだ・・・オレはてっきり白石先生から聞いて知っているとばかり思っていた・・・
「それに何だねこの・・胸は!特殊メイクか何かかね?」
「あ・・あの・・・」
どう言ったらいいのだろう・・・オレの身体がもう女の子になってきてるのを言ってしまってもいいのだろうか・・・きっとそれも校長先生は知らないのだろうし・・・
「あ・・あの・・・実はわたし・・・女になるつもりなんです・・・」
「え?!」
驚く校長先生に代わって、いままで黙っていた教頭先生が口を出してきた。
「戸田君ねぇ、君が性同一性障害だというのは、当校に入学するための口実でしょう? なぜ君が女にならなきゃいけないんですか?」
「そ・・それは・・・」
どこまで言っていいのだろう・・・校長先生と教頭先生がどこまで知っているのか良くわからないと、オレも何を話していいのかわからない・・・
「・・あの・・・入学のときはわからなかったんですけど、わたし・・どうやら本当に性同一性障害なのかも知れないんです・・・」
「なにを言ってるんですか!あのころの君は普通の男の子だったでしょう?」
「・・たしかに・・そうなんですけど・・・わたし昔の・・小さいころの記憶が無いんです・・・母の話だと、そのころのわたしは家では女の子の服を着ていたって・・・」
「・・・・・・」
「だから、わたし・・もしかしたら性同一性障害なのかも知れないな・・・って・・・」
そう話すと校長先生も教頭先生も黙ってしまった。 オレもしかしてマズイこと言ったかなぁ・・・
「・・それで・・あの・・・この胸も・・実は本物なんです・・・」
「・・・・・・」
二人は同時に雑誌の写真とオレを見比べた・・・言っちゃ悪いけど・・何だか間抜けな表情で思わず笑いそうになるのをこらえた・・・
「どういう事かね。」
「あ・・えっと・・・わたしの身体・・・ホルモン療法で、だいぶ女の子みたいになっちゃってるんです・・・」
「・・・女性ホルモンってやつかね?」
「・・・はい。」
「女性ホルモンなんか自分で飲んだのかね?」
「・・あ・・え〜っとぉ・・・白石先生に頼んで打ってもらったんです・・・」
オレは白石先生がちゃんと説明もせずに、オレに女性ホルモンを投与したことは言わなかった・・・もしかして白石先生の責任になったりしたら可哀想だし・・・あの時はオレもどうしようかと悩んだけど、今となっては、あれも運命だったのかなと思っているのだから。(17話〜19話参照)
「・・教頭先生、白石先生を呼んできなさい!」
「は、はい・・・いますぐに・・・」
教頭先生は慌てて保健室へ白石先生を呼びに行った・・・
「戸田君、そういう事は私たちにも言ってくれないと困るねえ。」
「・・はぃ・・・すみません・・・」
「本当に君は女の子になりたいと思っているのかね?」
「あ・・はい・・そのつもりです・・・もうすぐ手術もしようと思っていて・・・」
「君・・・そんな事をしたら、もう絶対に男に戻れなくなるんじゃないか? ちゃんと考えたのかね?」
「・・・はい・・・でも・・どうせもう子供は作れないみたいなんです・・・女性ホルモンをやめても・・・」
「・・・・・」
「それなら女の子になった方が良いと思って・・・このままだと、女性ホルモンをたくさん打たなきゃいけないから・・・そうすると、副作用とか出るかもしれないって・・だからもう手術しちゃった方がいいと思ったんです・・・」
「君がそのつもりなら私がとやかく言う事でもないかも知れないが・・・しかしねえ・・」
校長先生もいきなり言われたから、どう考えればいいのかわからないのかも知れない・・・だけど白石先生の前でヘンなことを言われても困ってしまう・・・そんなことをされたら、すべてが台無しだ・・・
「あのぉ・・校長先生・・・」
「何だね?」
「白石先生はわたしのことを元々、性同一性障害のコだと思ってるのをお忘れなく・・・白石先生の前で性同一性障害は入学するための口実だなんて言わないで下さいね。」
「・・・・!」
驚いてる・・・やっぱり忘れていたようだ・・・オレの大変さを少しは思い知っただろうか・・・
「教頭先生も忘れてないかしら・・・」
そう言った時、ドアが開いて教頭が白石先生を連れて戻ってきた。
「校長先生、白石を連れてきました!」
「教頭・・ちょっと・・・」
校長は慌てて教頭を引っ張って外に連れ出した・・・白石先生にマズイことを言わないように打ち合わせようというのだろう・・・そうこなくちゃ困る・・・この間に、こっちも打ち合わせておかなきゃ・・・
「白石先生、もう校長先生にはわたしが女になることも、手術のことも言いました。それと女性ホルモンは、わたしが先生に頼んで打ってもらったことにしていますから、そういうことで話を合わせてください。」
「で、でも有希ちゃん・・ホルモンを投与したのは先生の責任だわ。」
「ダメです・・もし本当のことを言って先生が辞めさせられたりしたらどうするんですか? そんなことになったらわたしが困るんです! 先生がいなくなったら、わたしどうしていいかわからない・・・」
オレは必死で目で訴えた・・・少し潤んでいるみたいだ・・・女の子になってからどういうワケか、こんな時ウルウルきちゃうのだ・・・
「・・わかったわ。有希ちゃんに話を合わせればいいのね?」
オレはコクリとうなずいた・・・これならなんとかなるかもしれない・・・だってこの場ですべてを把握しているのはオレだけだ・・・校長や教頭だって、白石先生にオレを性同一性障害だと偽って入学させたことを知られたら困るだろう・・・これをうまく利用すれば、せめて千里だけでもモデルをやることを許してもらえるかもしれない。
「あれ?これ有希ちゃんじゃない?」
「!」
白石先生がテーブルに広げられたJINONを指さして言った。そういえば白石先生はJINONのことは知らないんだっけ・・・オレもだいぶ混乱している・・・しっかりしなきゃ・・・
「あ・・あの・・わたし元々このことで呼ばれたんです・・・」
オレは簡単に、校長室に呼ばれたいきさつを白石先生に説明した。
しばらくしてから校長と教頭が戻ってきた。
「いやいや、待たせたね。」
けっこう時間がかかってくれて、こっちとしても助かった・・・
「え〜っと・・・それで戸田君が女性になりたいという件だが、戸田君が白石先生に女性ホルモンを打ってくれと頼んだと?」
「はい。」
オレはすぐに返事をした。
「君に聞いてるんじゃない、白石先生に聞いてるんだ。先生それで間違いないんだね?」
白石先生はチラッとオレを見てから答えた。
「はい。間違いありません・・・」
「あの、わたしが白石先生に嘘ついたんです! 校長先生にもわたしが女の子になること言ってるって。」
「そうなのかね?」
校長に聞かれた白石先生は「はい」と答えた。
教頭は黙って聞いている・・・とりあえず校長だけで話を進める作戦のようだ・・・
「それで? 手術までするというのは本当かね?」
「はい。今のままでは、戸田さんの身体には普通の男性と同じだけの男性ホルモンが放出され続けてしまいます。そうなると、それを打ち消すための女性ホルモンも大量に投与しなければなりません。今はまだ問題ありませんが、この状態を長く続けていると副作用が出る危険が大きいのです。」
「このことはご両親にも了解は取っているのかね。」
「はい。戸田さんのご両親も了解していますし、京都の薬科大にいるお兄さんにも賛成してもらっています。」
「そうか・・・それなら他人の私たちが口をはさむ問題ではなさそうだ。我々としても戸田君が女性になるのなら学園生活での苦労も少なくなるだろうから、反対する理由はないかも知れんな。」
「はい。」
オレと白石先生は同時に答えた。
「それで・・・睾丸を取るというのは・・手術はいつするか決まっているのかね?」
「はい。もし支障が無ければ・・といってももう予約済みなんですけど8日に入院して、その日か次の日に手術という事になると思います。体育祭をはさんで出来るだけ勉強に支障が出ないように配慮しました。」
「え? 戸田君は体育祭には出ないんですか?」
急に教頭が口をはさんできた。
「あ・・はい・・そのつもりですけど・・・」
オレは何で教頭が急に出て来たのかわからず、あいまいに答えた・・・
「それは残念ですねえ・・・」
「教頭、何が残念なのかね?」
「いやぁ・・戸田君のダンスが本番で見られないのは何とも・・・戸田君のダンスは優美というか何というか・・・」
「そ・そ・・そんなことないですよ・・・」
教頭先生がそんなこと考えながらオレのダンスを見ていたなんて・・・想像しただけでゾッとする・・・そりゃぁ、オレは三吉先生についていって、踊りのお師匠さんに少し日本舞踊の手ほどきも受けたから、多少動きは良かったのかもしれないけど・・・日本舞踊は着物を美しく着るためには知っておいた方が良いと言われたからやってみただけだ・・・
「ほう・・それは残念だねえ。今度の練習の時にでも観てみようかね。明日まだ練習するんだろう?」
「い・いえ・・いいです・・見なくて・・・」
オレは恥ずかしくて顔が真っ赤になってるに違いない・・・なんか調子が狂ってしまう・・・オレは急いで話題を変えた・・・
「あ・・あの・・それじゃわたしが女になるのは認めて下さるんですね?」
「まあ、そうだな。我々が反対する事でもなさそうだ。」
「じゃぁ・・えっと・・このことなんですけど・・・」
オレはJINONを指さして言った。
「わたしは辞めてもいいから、佐倉さんだけでもモデルを続けさせてもらえませんか?」
「あぁ、その事なんだがね、会長と協議した結果、モデルをやる事自体は認めても良いのではないかという事になったのだよ。」
「へ?!」
「いや、実は当校もここ数年、生徒数が減り続けていてねぇ、どうもお嬢様学校というお堅いイメージが敬遠されているらしくて、なんとかしなければと考えていた所なんだ。」
「・・・・・」
「聞くところによると、この雑誌は若い娘にたいそう人気があるらしいじゃないか? これはなかなかイメージアップになるのではと教頭が言い出してだね。」
「そうなのですよ戸田君! 私が進言したんです!」
「それでまあ、会長が編集部とやらに電話したところ、こちらの要望も聞いてもらえるという事だったのでね。」
「え? 要望って・・・」
「我が校としては、やはり白鴻の生徒があまり過激な服装で雑誌に出られては困るのだよ。それに髪を染められたりしても困る。そういう話をした所、向こうも君たちには清楚なままでいてもらうつもりだと言うのでね。ただ問題は君の事だったのだよ。そのぉ・・・なんだ・・・つまり君が女になるつもりだと言うのなら、もうそれも問題はない。ぜひモデルをやりたまえ。」
なんか白石先生がいるせいで話しにくそうだ・・・つまりオレが卒業して男に戻るのに支障がないか心配してくれたということなのだろう・・・
「あ、あの・・ただの読者モデルなんですけど・・・」
「読者モデル、結構じゃないかね。なあ教頭!」
「そうですよ!こうなったら戸田君たちには、どんどん当校を宣伝してもらわなければ!」
「は・・はぁ・・・」
なんかおかしなことになってきた・・・オレたちが読者モデルをやることは学校公認になったという事なのだろうか・・・まさかこんなことになるなんて・・・
「そ・・それじゃ・・よろしくお願いします・・・」
オレは頭を下げて白石先生と一緒に校長室を出た・・・
「でもスゴイじゃない、有希ちゃんがモデルなんて!」
「・・・読者モデルですよ・・・たいしたことないんです・・いっぱいいるんですから・・・」
「だけど読者モデルでも選ばれたってことは、有希ちゃんが女の子として認められたってことでしょう?」
「?!」
「それってやっぱりスゴイことじゃない? 先生うれしかったわ。」
・・・オレはそんなふうには考えたことなかった・・・選ばれたってことは、女の子として認められたってことなのだろうか・・・たしかに女の子に見えなかったら選ばれなかっただろうけど・・・なにしろ女の子の服のモデルなんだから・・・でも・・・
「なんか大変なことになっちゃったなぁ・・もし学校にバレたらやめればいいと軽く考えていたのに・・・」
「ふふっ、有希ちゃんは有希ちゃんらしくやれば良いんじゃない? 学校のことは置いといて楽しみなさいよ。綺麗だったわよ、さっきの雑誌の写真。」
「・・うぅ・・・」
そんなに言われると恥ずかしくなってしまう・・・だってあれはお化粧できれいにして貰ってるだけなのに・・・でも大好きな先生にそう言われると・・ちょっと嬉しいかも・・・
「先生も帰りに買っちゃおうかな!」
「・・!・・いいですよ・・・買わなくて・・・」
オレ・・恥ずかしくて死んじゃいそうだ・・・




