皇王
大分間が空きました。3連休にもう一話書こうと思います。好き勝手書いてるので読者さんはどう思っているか不安です。
知らず知らずのうちにいつのまにか人望を上げていた皇はこの捨てられた大地の長となる。と言っても皇がする事はほとんどない。いつもどおりの生活に各役職の報告と決裁が追加された位だ。だがその追加された仕事が問題だった、どれを最重要に進めるべきか、どのような効果が出るのか全く分からず、ユルグに説明を必ず受けて初めて決定を下していた。そして更に問題なのが1つある。交易が上手くいき、畑に蒔く種の種類も増えより一層畑仕事に精を出せるのだが、皇が畑仕事をしようとするとそれを見た民は、まるで奪うように皇の持っていた農具を取り競って畑仕事をしてしまうことだ。
畑仕事に参加できない者はまるで接待でもするかのように皇に気を使わせてしまう。
「自分の畑はいいのですか?」
皇がそう聞くと。
笑顔で「後で構いません、それよりも皇様に畑仕事をさせる等、恐れ多くて見ていられません」
大体皆同じ返事が返って来る。この世界では長というのはそれほど偉い立場なのかと皇はそう決断付ける。だからこそ、心中では皇ではなく別な者が長に変わってくれないかと淡い期待を抱いているが、ユルグに相談してそれが無理だと理解するしかない。ユルグの返答は本当に驚いた表情をし、そしてすごく申し訳なさそうな表情に変わり。
「なにか至らないことがあったでしょうか?」
何故、別な長に変わる話が、そうなるのか全く分からないがユルグがあまり見せない表情にさすがにそれ以上聞くことはできず、すぐに話を切り上げて逃げた事がある。そして別の者でもほとんど同じかそれ以上にひどかった。ある者は涙を流して「見捨てないでください」と懇願する始末だ。だから皇の中ではこの質問は禁句に今やなりつつある。
畑仕事に行くこと自体辟易しつつ、かといって家の中で過ごすだけにも行かず、また街を歩けば膝を付いて頭を垂れ皇に感謝の言葉を呟く。皇が長となってから余りにも周りが一変してしまった。心の安らげる場所は今やどこにもなく、ただ唯一牧畜をしているヘルゲン家だけが皇の心の拠り所だった。ヘルゲン家は皇を特別視する事なくお客の様に歓迎してくれる。又牧畜をする関係上、家は郊外にあったため人の目に触れる事もあまりなかった。ふと気になってヘルゲン・フォラーにどうして普通にしてくれるんだと聞いた事がある。返って来た答えは「そう望まれているから」と言われ、皇は感激したのは言うまでもない。
唯一の心の拠り所を頼りに何とか毎日を過ごしていたある日、来客があった。
ユルグと各重職に伴われ皇の質素な普通の家に訪ねてきたのだ。家に入って客人は驚いている様子が雰囲気でわかる。というもののフードを深く被り表情が伺えないのであくまでも雰囲気だ。普段は大きいユルグの家で会議等するのだが、これだけの大所帯が皇の家に来るのは初めてでまた狭苦しく感じるのは気のせいではないだろう。皆が各々何とか座る場所を見つけ、客人が皇の前に座る。ただ、客人が驚いてるとは別に他の者は警戒心を顕に表情が険しい。内心首を傾げながら。
「皇です。現在各街の代表の様な者をやっています」
そう挨拶をしただけのつもりだった。
反応は即座に返り、頭を深く下げ。
「も、申し訳ありません。挨拶を皇様に先にしていただくなど大罪をお許し下さい」
慌てて頭をあげるように言う、それでも頭を中々下げない客人に。
「皇様が頭を上げよと言っておるのだ、それにフードを未だに取らないのか?」
ユルグの厳しい口調が飛ぶ。
慌てて客人はフードを取り、姿を見せる。
皇の感想は赤。それほど客人が見せる髪の色は真っ赤に染まっていた。顔立ちはとても良く整っていて誰もが美しいと言うだろう。少し見とれていた皇に再度目の前の女性は頭を下げる。
「私の名はレイナ、生まれは遥か東の国コーランという国からやって来ました。噂を聞きつけ私もこの国に住む事をお許し頂きに参りました」
見とれていた皇はすぐに頭を切り替え、頷き。
「よくぞ参りました。私達は歓迎します」
そう言ってすぐに疑問が沸く。いつもなら各街の担当が手続き等をするはずだ。直々に会いに来るなんて最初の時、それも長になる前にあったきりのはず。皇の疑問を答えるかの様にユルグが口を開く。
「皇様、実は問題がありまして」
「問題?」
「はい、このレイナという女性は人ではないのです」
ユルグの発言に頭を下げていたレイナはビクッと少し肩を震わせた。
「エルフとかですか?」
「はい左様です。正確には半分人間、そして半分は竜人族なのです。それゆえ我らでは判断が付かずお手ずから皇様の言葉をいただきたく」
皇はレイナの姿を観察する。
どこからどう見ても人間だ。
「レイナさん頭を上げてください」
ゆっくりと頭を上げる。
人には有り得ないほどの美貌。
レイナの顔を観察している皇に何かを察したのか。
「わ・・・私はコーランで生まれました。しかし、竜人である父とは会った事はございません。母から父は竜人の上位に位置する者で、長くこの地に入れなかったと聞き及んでいます。その母も私が7歳の時に急逝し、初めて町に降りてみました。そこで初めて現実を知りました。私は人ではないのだと、いえ人とみてくれないのだと・・・。幸いにも私の剣の師であるフルーゲンに拾われ剣術を教わりながら、育ちました。その師も私が16歳の時に亡くなり、かつて抱いていた夢、人として暮らす道が再燃し、皇様が作られたこの地でならば人として生きられるのではないかと・・・」
そう言って、レイナは頭を伏せる。感情の波が襲ったのだろう。必死に涙を隠そうとしている。
皇は周囲は見る、相変わらず険しい表情を浮かべている。この世界ではやはりユルグに聞いたとおり中々閉鎖的なのだろう、だからこそ。
「レイナさん先程も言ったようにあなたを歓迎します」
優しく言葉を掛ける。
バッと頭を上げるレイナはやはり若干涙目になっている。そして信じられないと言うように皇を見る。周囲の者もお互いの顔を見合わせている。
「ほ、本当にいいのですか?」
皇は微笑みながらに頷く。
「皇様、レイナ殿を迎え入れるのですか?反対する訳ではござりませんが、御身に危険・・・」
皇は手で制し。
「レイナさんが駄目なら私なんかもっと駄目じゃないですか?」
皆の顔に困惑の色が浮かぶ。
「私は元々この世界の住人ですらない。その私が受け入れられ、何故この世界の住人であるレイナさんを受け入れないという事にはならないはずです。私はレイナさんを歓迎します。皆さんも受け入れてください」
皇は頭を下げる。
周囲は動揺し、すぐに賛成の意を示す。
「皇様がそこまで仰れるならば、私は賛成しますぞ」
「俺もだ!」
「皇様、皆賛成しています。どうかお顔をお上げください」
ユルグの言葉に従い皇は頭を上げる。そしてすぐにレイナと目が合う。レイナの表情は先程とは別の感情の色が濃く出ていた。
「有難うございます皇様」
真摯なレイナの言葉に少し恥ずかしくなり、顔を少し赤く染めすぐに手を振り。
「大した事してないですよ。それにレイナさんは武術の心得があるようですし、頼りにしているんです」
皇の言葉に周囲は何度も頷く。
「成程、皇様は後々の事を考えておられたのですね。確かに、そろそろ自警団では治安だけならばともかく、この地を守るには難しい、成程さすが皇様」
「そうじゃそうじゃ、竜人族との混血さらに剣の心得があると聞く。これほどふさわしい人材はおらんて」
目を白黒させている皇にユルグの追撃が来る。
「さて皆さん、皇様の提案の通りレイナ殿には軍部の最高責任者になってもらいます。反対の者はいますか?」
皆、頷き賛同する。
「レイナ殿には急で申し訳ないのだが、よろしいですかな?」
さすがに来たばかりの人に軍作ってね、そしてあなた責任者ねって言って頷く訳が・・・。そう皇が考えてレイナを見る。その目は髪の様に赤い炎が灯ってるかのが伺えた。
「拝命謹んで承ります。我が民の為にこの命尽くしてみせます」
あれ・・・と呆気に取られている皇にユルグの追撃の手は止むことがない。
「皇様!最早御身の偉大なお力でこの地は豊かになりつつあります。そして人は益々増え、今や小国の人口程になりました。今こそ、国の名乗りを上げる時かと存じ上げます」
ユルグが何を言っているのか理解できなかった。そして周囲の者も何故嬉しそうに頷いているのか理解できなかった。
「皇様の困惑よくわかります、しかしながらこの先国の名乗りを上げなければ、他国に付け入る隙を与えてしまいます。それだけは、それだけは決してあってはならない事です。皇様の地に他国の軍を入れてはならないのです。どうか、どうかお言葉を」
思考が追いつかず、ユルグの言葉が耳から耳に流れる。これって俺に王様やれってこと?何言ってるのこの人?ユルグに聞かなければ何も決断できないのにどうしてそうなるの?
もう精神的消耗が激しすぎて、皇は項垂れる。
その瞬間、部屋中に響き渡る声は皇を現実に戻す。
何が起きたのか周囲を見ると、「建国だ」「我らの国だ」「私も頑張る」と叫んでいたり大声をあげていたりする。
「皇様・・・」
声のした方を見ると、皇はぎょっとする。ユルグの頬は涙が滝の様に流れている。
「皇様、決断頂き・・・。感謝でございます。必ずや必ずや老骨の見慣れど力を尽くしますぞ」
そこで皇は気が付く、疲れきって頭を下げたのが、頷きと勘違いされた事に。一気に顔の色に血の気が失せる。
どうして、どうして、こうなるんだ。
皇の悲愴の思いがただ心の中に響き渡る。




