↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
理想郷  作者: かきね
PR
6/27

指導者

 この世界に来た異世界からの人、異世界人には元々住んでいる人にはない力が与えられる。奇跡を起こすこの力は当初、初めての異世界人がやってきた時、とても珍重された。だがそれも、時代の流れとともに、薄らいでいく。当時そして今必要とされているのは武力。戦う力を欲している。それ以外の力ははっきりいって、わざわざ大事にすることもないのだ。魔国との戦争が激化する程、それが顕著になり、いつしか異世界人を重宝しなくなる。その理由はあまりにも簡単だった。力というものは、戦う力だけを指すわけではないからだ。植物の生育を助ける力、交渉が上手くいく力等千差万別、それも異世界人の生き方に由来する力が多かった。逆に戦う力を持つ者はまずその中の1%程。米粒の中からそれを探り当てる労力を国々はすることをやめる。だから、現在の異世界人の立場は珍しいが持て囃される存在ではないのが現状。


 皇はユルグから異世界人の在り方を教えてもらった。その力にあった生き方をする者が多く、各々の分野では有名ではあるが、国で大事にすることをしていない。だがそれには疑問に思う。いくら戦争をしていても国の隆盛はとても大事だ。国が弱ければ戦争すらおぼつかなくなる。しかし、その縁の下の力を底上げできるのが戦う力を持たない他の異世界人のはずだ。だがこの世界ではそれを重要視してない様に思える。それもユルグから聞いた話で納得できる。あっちの世界でも権力争いはあるが、こっちではその比ではない。貴族の誰かがそれに気がつき、自分の領土を豊かにすれば他の貴族が妬み恨み、豊かになった貴族を追い落とそうとするし、異世界人を表立って重要視すればあまり良く思われない。それもこれも異世界人はよそ者という理由だ。唯一、国を挙げて異世界人を重宝する国があるとすれば、魔法王国だけだと言う。魔法王国は知識の探求に重きを置き、異世界人の知り得た知識すら大事にする。その魔法王国ですら、異世界人が重職に就くことは稀だそうだ。


 そして自分の持つ力、ユルグから聞き得た情報では何かしらの力があるのだろう。だから今は日々、その実験の真っ最中。その実験もほぼ終わりだ。どうやら俺の力は、想像する事で現実に実現できる力があるみたいだ。それも具体的に想像しなければならない。問題なのは使用回数が一日1度だけ、それ以上はいくら具体的に想像しても使うことはできない。面白いのは力で創り出したものをさらに力で変化させる事も可能、つまりは修正も可能という事だ。だからといって、バンバン力を使うことはしない。この力をもってしてもあっちには帰ることはできない、だからここで生活する為には目立つ行為は避けなければならない。しかし、初めからそれを失敗したと言わざるを得ない。実験の初めに深く考えずに、この地に緑がゆっくりと確実に増える様に想像してしまった。考えてみれば、不毛な地に緑が少しずつではあるが、増えてくることはとても異常なのだ。さらにもう一つ、その翌日に異常に気がつかずやってしまった事は雨が定期的に降る様にしてしまった事だ。もうこの力は周知の事実だ。だからといって開き直って、力に頼る事は決してしない、それをしてしまって災難を招く事態に陥らないとも限らない。なにせ、ユルグすら、この力は見たことも聞いたこともないほど強いそうだから。


 田畑、今だ土地は硬いが耕作し広げている、その休憩のちょっとした思案のつもりだった。いつのまにか深く思考の渦に入り込んでしまい、ユルグの接近に気がつかなかった。


「よろしいでしょうか?」


 ふと声が聞こえ、前方に立つユルグを確認し、失礼の無いよう軽く挨拶する。


「ユルグさんどうしたんですか?」


「いえ、あなたに畑仕事をさせるのはあまりにも・・・」


 困った表情を浮かべ、いつものやり取りの口上をユルグは伝える。


 皇の力がはっきりと周囲に知れ渡ってしまってから、どうも最初の態度から丁寧な態度に変わり、皇を恐縮させる。


「そんなわけには行きませんよ。どうか他の人と一緒にお願いします」


 ユルグはため息を一つ吐く。そして一礼をして持ち場に戻る。これが毎日の日課。皇としてはどうも腑に落ちない。何故、他者と同列に扱ってくれないのかと。それとも力で食っていける様になったから役目はそれで終わりという事なのだろうか。しかし、皇としてはそうもいかない。力は極力使わない方向で行きたいからだ。ならば労働を人に任せていいわけないのだから。それで自分の居場所を失っては目も当てられない。


 この世界に来て、一年が経とうとした頃。周りには緑も増え、今や草がほとんど生えない荒野とは思えない平原が出来始めている。生活にも大分慣れ、皇の住む場所は村と呼んでもいい建物が出来上がりつつある。もちろん建築用材は力を使ったわけだが。木々が生えるには時間がかかりすぎるため、仕方なかった。ここで思わぬ来客がユルグの案内で連れてこられた。


 半年に1度、1年に1度出会える位の同じ捨てられた地で暮らす者達。どこにそんなにいたのか、その数は数百人、村の外に集まり何故か皇がユルグに会うように勧められる。辞退をしたかったが、ユルグが会えというのなら会うしかなかった。


 村の外に集まる人々は膝を付き、畏まって皇が来る様子を注視する。あまりの視線に皇は後悔の念に苛まれたが、引き返す事もできず、その面々の眼前に立たされる。そしてユルグが口を開く。


「こちらが皇殿です」


 ユルグが手を向け皇を紹介する。それと同時に「オオォー」と歓声が上がる。


「皇殿、この者達は同じ地に住むもの。皆、ここで住むことを望んでおります」


 そうなのか、と他人事の様に頷く。


「よろしいでしょうか?」


 ユルグの質問の意図がよくわからなかった。ここの責任者はユルグだ。ならユルグが決める事のはず。自分に聞く意味がわからなかった。


「ユルグさんが住む事を認めるのならいいと思います」


 ユルグは一つ頷き。


「皆!許可が出た!ここで住む事を許す。感謝する様に」


 歓声が一気に湧き上がり、皇を圧倒する。


 それから一気に人口は数百人になり、村ではなく街と呼べる規模にまでなった。しかし、そこで暮らすには環境改善が必須。仕事が一気に増えることになった。


 数ヵ月後何とか人が最低限住む環境を整え、本格的な街作りの会議がユルグの家で行われる。そこに皇もまた呼ばれる。皇としては断る理由もなく、又自分でなにか役に立てればという思いもあった。


 ただ困った事は、一々皇に礼をする各代表に困惑の色が隠せない。


「皆さんお集まり頂きありがとうございます。それでは改めて」


 ユルグが皇に礼をし、それに倣って他の者も礼をした時は、皇をドン引きさせる。


 それ以外は概ね順調に議題は進みユルグ進行の元、着々と決まっていった。


 治水の整備、街の整備、治安の維持、用水路の整備、貯水池作成等多岐に渡る。それを優先順位を着けて実行していくことに決まった。


 ふと皇がつい口に出た言葉が皆を注目させる。


「各国で取引等はできないでしょうか?食料の種類が乏しいのは楽しみがないと思いますし、交流があればもっとにぎやかになると思うんですが」


 言葉が言い終わるか言い終わらない瞬間、歓声があがる。


「おー、さすが皇殿だ。民の事をしっかり考えて下さる」


「うむ、皇殿のおかげでこの地は豊かになりつつある。他の食物の種も育つだろう」


「皇殿がお作りになされた食物は栄養が豊富で、きっと良い取引の材料になるでしょう」


 皇が皆の言葉にビクッと体が動き、一瞬怒られたのかと錯覚をしたが、そこに出た言葉は賞賛の言葉だった。


 ユルグが何度も頷き。


「では決まりですな。元罪人以外の隊商を作り、交流をしましょう」


 その言葉にやはり賛同の言葉が部屋中に響き、決定となる。


 まさか、決定するとは思わず狼狽える皇を差し置いて、場はお開きとなる。政治のせも知らない皇の言葉がまさかあそこまで褒められるとは思わなかったのである。


 かくして、本格的な街作りは始まり、着々と進み始めた。


 第一弾、第二弾の隊商が出発し、皇の作り出した植物の実は大変貴重な物として売れた。それもこの食物はどこの国でも育てることが出来ないことがその貴重さに拍車をかけたからだ。そしてもう一つ、収穫があった。


 隊商が何をいったのか知らないが、街に住む事を望む者が他国から来たことだ。隊商が行く度にその数は膨れあがり、第2の街、第3の街が出来始める。そんな時だった、ユルグからの呼び出しがあったのは。


 ユルグの家に入り皇は少し驚く。すでに各代表が集合をしていたからだ。代表が集まるなんて聞いてなかった。いつもの様に空いている所に座ろうとした時、ユルグに止められる。


「そこではなくこちらに」


 ユルグが案内した場所はいままで誰も集まりの時には座らなかった場所。日本では上座に位置する場所を案内される。皇が躊躇うのをユルグがさらに勧める。


「どうぞこちらに」


 恐る恐る座る皇を納得したかの様に、皆が頷き。


「皇殿、いえ皇様。私どもはあなたを長とわかっております。しかしながら、皇様が言葉に出すのと、出さないのとでは皆のやる気が違います。皇殿の人望を慕いこれだけの数になりました。人を従えるのは好きではないのは、重々承知と心得ます。ですが民には長が必要なのです。どうかお言葉をいただきたい」


 ユルグの真摯な言葉を皆は大きく頷き。皇にその視線を集める。


 思考が全く追いつかず、一体何を言っているんだと問いかけたかった。だが、その期待に満ちた視線はそれを許さないと思われた。


 しばらく沈黙する皇に、周囲の者はただ黙って見つめるだけ。


 あれ、目立たたない様に行動してきたはずなのにどうしてこうなったんだ。そもそも長としてわかっておりますって、こっちはわかってなかったんだが。おかしい、おかしい俺は別に命令とかした事とかないのに、何故こうなるんだ。絶対無理と言いたい。


 周囲を眺め、その言葉は場に合わないとすぐに悟る。

 そして味方がいないことも。


 所在なげな皇を、後押しするつもりなのかユルグは平伏する。

 それに倣って、他の者も同じく平伏していく。


「皇様がその立場に着くのは避けられている事は重々承知しております。しかし、我らには長が必要なのです。指導者が必要なのです。どうか、どうか」


 皇は空、天井を見上げる。そして一つため息を着いて。


「わかりました。ですが、役不足かもしれません。その時は別の誰かが・・・」


 皇が言葉をまだ続けている時に、未だかつてないほどの歓声があがる。それどころか、涙する者、肩を抱き合うものまでいる。


 呆然と見ている皇にユルグが声を掛ける。


「皆、待っていたのですこの8年を。皇様がはっきりと長になることを。ですが、人が増えすぎました。、時間の猶予がなかったとはいえ、この様なやり方をしてしまい申し訳ありません」


 ユルグが静かに頭を下げる。今まで騒いでいたものもまた同じく頭を下げる。


「こ、これから、よろしくお願いします」


 皇が王となる1年前の事である。




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。