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理想郷  作者: かきね
26/27

正体

 夢を見た、嬉しい感情と悲しい感情が色々混じりあった夢。彼女にとってそれは、ただ一つの幸せであり、生きがい。それを奪い取られているとも知らず、毎日を暮らし、唐突に気がつかされた時の感情は言葉ではとても表せない。それほどの感情の波が押し寄せたのだから。それでも彼女は絶望しなかった。そもそも絶望という考えはなかったのかもしれない。彼女に占める物は自分の主君の下に向かうことで完結しているのだから。


 時雨が目が覚めたのは、翌日の昼過ぎ。余程消耗が激しかったのか治癒魔法をかけてもそれなのだから。2人の目が覚めたときの安堵の表情はそれを物語っている。少し落ち着き、遅めの昼食を取り、3人はこれからの事を話あう事にした。


 冷静でいる様なレイナ、見た目は落ち着いている。しかし左手は腰に着けた剣の鞘をゆっくりと撫でている。時雨はそれに気がつき。


「それが、皇王にもらった炎帝剣なのですね?」


 レイナは少し驚いた表情を見せ、納得したかの様に頷き。


「そうだ、これが我が主君より頂いた、剣。炎帝剣だ。しかし、実際に聞かされると分かっていても驚くな。それが時雨の力か?」


 どうやら時雨が寝ている時に、セトからこれまでの事、時雨の事をあらかた聞いていたようだ。


「そうです。最近は力の制御ができていると思っていたんですが、また覗いちゃったみたいです」


 少し申し訳なさそうにする時雨に、レイナは頭を振る。


「気にするな、そのおかげで私は大事なものに気が付けたのだ。その為なら些細なことだ」


「ありがとうございます」


 時雨は軽く頭を下げる。


「うん、それよりも時雨が揃ったことだし、本題に入ろう」


 時雨とセトはそれに同意するかのように頷く。


「では、まず確定事項から言います。皇王はレンさん。これは多分間違いなく決まりでしょう。そして問題の中心、レンさんの側にいる男、彼がレンさんに何かをしている。それが問題の焦点でしょう。では彼は何者なのかですが、レイナしょう、さんは何か心あたりはありますか?」


 現在いる場所は街の宿屋であり食事をする場、防音魔法をかけているとはいえ、突破する事はできる。何よりレイナの正体をわざわざ知らせる必要もないという判断から、セトはさん付けをしているようだが、まだ慣れない。


「それについてなのだが、私も昨日考えてみた。皇国にそんな事ができる人物を見たことも聞いたこともない。ただ・・・」


「ただ?」


「昔、そう大分昔の事だ。王から聞いたことがある。ほとんどの者はしらない。極一部の親しい者しかしらない中で話された事。今や聞いて生きている者はほとんどいない昔聞いた話だ」


「聞かせていただいても?」


「もちろんだ。聞いて参考にしていただきたい。王が心労で倒れた時、翌日には元気になっておられた。魔法は万能ではない、心の病までは治せない。しかし、皆が心配してる中、元気になって戻られた。最初はその時だと思う。その時に、陛下は忘れさせられたんではないかと辛い出来事から」


 セトは頷く。そして時雨もそれを見ている。


「最初は元気になって戻られたから、病の事などすぐ忘れてしまったのだが、あれほどやつれた王が元気になるのが早すぎると今になって思う。そして王はこう仰った、どうやらもうひとりシルクスと同様の者を生み出したかもしれないと。ただ王も夢かもしれないと半ば信じてない風であったので、私達もさして重要に捉えてなかった。もしかしたら、王が新たに生み出した存在が何かをしているかもしれない」


 時雨にはそれに心あたりがあった。夢で見た、出来事を思い出し、レイナの話をなぞる。セトもまた深く考え込み、重々しく頷く。


「その可能性があります。ただ疑問が一つあるのです」


「ああ、聞きたい事は分かる」


 レイナもその疑問に思いついたのだろう。セトの疑問にすぐに答える。


「シルクスの事だろう?」


「ええ・・・、そのとおりです」


 レイナはため息を一つついて。


「シルクスは言うなれば本物の騎士だ。国の為、王の為、働くそんな騎士だ。私とは思考がそもそも違う。そもそもだ、シルクスは恐らくは男の正体を知っている。なにせ王から生み出した者同士だからな」


 その言葉に2人は驚く。


「驚くのは無理はない。私も思い至ったのは昨夜のことだ。ただ、シルクスは知ってなお沈黙を続ける。ならば何故か?」


 時雨には思い至らない。レンが怪我をしている状況を見て、傍観者でいる。それは王を国を守る、騎士として、外れているとしか思えない。


 だがセトは違った。震える声で、言葉を紡ぐ。


「まさか・・・、レンさんが・・・、そう望まれていたというのですか?」


 沈痛な面持ちでレイナは頷く。


「そうだと思う。もちろん、死ぬ危険性があれば、さすがに止めるだろうが。シルクスにはそれはないと分かっているのだろう。彼らは、言わば王の願いによって産み出された存在。シルクスが王や国の為にいる存在ならば、もうひとりの男は王だけに存在すると見ていいだろうな。そして厄介な事に、その力は強大だ。私には抗う事すらできないほどのな」


 レイナの言葉で場は静まる。


 記憶改竄の力は完全な記憶消去ではない。頭のどこかで、もしかしたら心の片隅に残っているのかもしれない。だから、思い出させることができる。時雨がレンの今忘れている皇王の頃の夢を見ていたように、どこかで残っているからだ。だからといって、その相手からレンを救出できるかと言えば、相手にならないという答えにしかならない。レイナもそれがわかってるからこそ、急いでレンを助けにいきたいところを、こうして3人で話し合って状況を打開しようとこの場に留まっている。


 そして最悪な事に、時雨は相手の力がそれだけではないことを知っている。レンはしらない事実。でも繋がっているレンからなら見ることができた、あの夢。男の力は一国でも相手にならないと確信できるほど、常識はずれ。まさに神がごとき力を持っている。それをどうにかしようと考えても結論は不可能にたどり着いてしまう。それでも、何もしないよりはましと思いから、公国の戦いの事を話す。


 それにはセトはおろか、レイナも絶句する。


 それはそうだ。あの時の戦いは凄惨を極めた。しかし、一番の犠牲者と言えば公国だ。その被害は目も当てられない。それをしたのが相手とは、言葉にならない。ようやく、言葉を搾り出し。


「なるほど、そうか・・・。あまりにもこちらに出来すぎていると思っていた。そいうことか」


 呟くようにレイナは納得する。


 その時、時雨は1つのことを思い出す。


「クロウ・・・、レンが名を付けた名前はクロウ。それがあの男の名前」


 セトとレイナはクロウと復唱する。


大分間が空きましたすみません。連休メイン更新になりますが、よろしくお願いします。

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