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理想郷  作者: かきね
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戦争終結

 私は馬を駆けさせた。北のテーグ軍とは小康状態に陥り、後の指揮をヘルゲンに一任し、わずかの側近 100名にも満たない者達を率い、必死に馬を走らせる。


 ただ心の中で間に合ってくれと願い、はやる気持ちを何とか押さえつける。

 馬が休むもなく、走らせたせいで今にも倒れそうな状態で何とか皇都にたどり着く。


 レイナの顔を認識し歓喜の声で出迎える兵を無視し、皇城に足を急がせる。

 王の間へとたどり着いたレイナの第一声が部屋中に響き渡る。


「状況は?南と東はどうなったのですか?」


 王のいる部屋でレイナのこの行動はあまりにも非礼だった。しかしその行動を咎める者はいない。それだけ状況が差し迫っていると皆わかっているのだから。


 レイナの問いに応える者はいない。ただ沈黙で答えるのみだった。それだけで状況は大体把握できてしまう。だがレイナは皇国唯一の将軍なのだ。落ち込んでいる余裕などあるわけがない。すぐに踵を返し援軍に向かおうと歩きだそうとしたときだった。


「レイナか、よくぞ戻って来てくれた。北の状況はどうだ?」


 その声に心あたりがあり、すぐに声の主に振り返り、こんな状況でも最低の礼儀を持って答えようとその声の主の顔を見て、愕然とする。


「なんという・・・、なんという・・・」


 後の言葉が続かない。


 ここ最近はレイナは戦準備で駆け回っていた。故に最後に会ったのはいつだったか、出発する前に挨拶したはずだが、ここまでここまで・・・。


 涙等もう出ないと思っていた。もう子供の時に一生分泣いたと思っていた。だがそのお姿を見て自然と涙が溢れ頬を伝う。


「へ、陛下、なんというお姿なのですか・・・」


 辛うじて絞り出した声は震え、はっきりと声になったのかすら定かではない。


 レイナの声が皇の元に届いたのだろう。自分の頬を触り、そして薄く本当に薄くだが笑う。


「皆にも心配させてしまう有様だ。しかし小心者の私ではこの状況では食事も喉を通らないんだ。心配させたくはないのだがな、こればかりはいかんともしがたい。それよりもレイナ将軍先程の問いに答えよう。南、東砦は共に全滅だ」


「っ・・・・」


 理解してはいた。しかし声にして聞くと衝撃は大きい。さらに今の王にその事を言わせてしまう自分の機転の悪さに心がずきずき痛む。


「それでレイナ将軍北はどうなんだ?」


 再度の王の質問にレイナの心臓が跳ね上がる。


「北は膠着状態に陥りました」


 どうして、どうしてもっと早くに。


「おお、そうか良かった」


 王の嬉しそうな声にレイナの心は罪悪感でいっぱいになる。


 どうして、私は躊躇ってしまったのだろうか。


「しばらくは、敵も攻めて来ないでしょう」


 何度も嬉しそうに頷く、王の姿がレイナの心を締め付ける。


 竜の力を使うことを躊躇いなどせず最初から使っていれば、味方の被害もかなり減っただろう。それどころかもしかして・・・。南や東のどちらかいやどちらも救えにいけたかもしれない。


 右手に力が篭る。私は確かに竜の力を忌避している。しかしそれとは別に皇国の将軍なのだ。民を守る責務が私にはある。自分は喜んでその責務を受けたのではないのか。皇王に忠誠を誓ったのではないのか。


 皇の姿を再度見る。


 陛下をこの様な姿にさせているのに私は一体なにをしているんだ。


 涙が溢れる。しかし先程とは違う、自分の不甲斐なさを思っての悔し涙だった。






 手がワナワナと震える。


 そんな馬鹿なと何度も何度も手に持つ手紙を見返す。


 しかし幾ら読んでも書かれている事に変わりはない。


 それほど苦戦もする事なく。


 それほど犠牲を出すこともなく。


 勝利を掴める簡単な戦なはずだった。


 しかし、現実はあまりにも予想の遥か上を行っていた。


 ここ、北のテーグ共和国国境と皇国の国境に布陣していたテーグ軍の指揮官であり将軍ハロルドの元に国王の手紙が到着した。その手紙を受け取り読み始めたハロルドの表情の代わりざまは周囲の側近達に十分動揺が伝わるものだった。


「ありえん!!」


 ハロルドの怒声が響き渡る。


 それに押されてか周囲の側近はおどおどと将軍と手紙に視線を交互する。


 ハロルドの副官ヒーツが状況を打開しようと。


「一体何が書かれていたのですか?」


「見てみろ!」


 ぞんざいに手紙を渡され、上から下に手紙を読み視線が止まる。


「まさか・・・」


 唾を飲む音が聞こえ。


「トラント公国、ウカルナ国ともに敗北・・・。公国に至っては民に無数の死者が出たと・・・」


「なんですと、それは確かなのですか?」


 側近もまた驚き、副官ヒーツから手紙を奪い取る様に見る。そして驚愕で顔を歪める。


「そんな馬鹿な話があるか!確かに我が軍は伏兵により多大な被害がでた!しかし3カ国同時進軍の攻撃を国ができて間もないというのに撃退したなどと、そんな奇跡が起きるわけがない。それもだ、公国の領内深く侵攻等不可能だ。そんな余力があるわけはない」


 将軍の怒りは静まることがない。それも当然の話。勝利確実の戦で完全敗北。当然報酬どころか王の叱責は免れぬのだから。


「しかし、この手紙には和平交渉を結ぶと書かれています。更にすぐに兵を戻すようにとも」


 ハロルドの怒りの視線がヒーツに突き刺さる。


「分かっている!」


「ならばすぐに兵を退かねば王命に背くことになります」


 ハロルドの怒りはヒーツの言葉に更に燃え上がる。しかしヒーツにとっても説得せねば自分に罪がかかる恐れがあるのだ。当然と言える行動なのだ。


「くそ!あの赤髪の女さえいなければこんな事にはならなかったのに!なんなのだあの女は?あれほど周囲に炎が渦巻いていたというのに、苦痛に歪むどころか笑いながら攻撃してくるとは、化物か!あんなのが皇国に無数にいるというのか!」


「わかりかねます、何分情報が不足しています。ですが、王命である以上撤退せねばなりません」


 慰めの言葉が欲しかったわけではない、ただどうしようもない苛立ちがハロルドの心に募るのだ。だが、ヒーツの意思も固く、また自分も従わねばならないことは重々承知している。


「くっ、わかった。すぐに兵を撤退せよ」


 了承の意として頭をさげ、すぐにヒーツは踵を返す。





 皇国に三人の使者が次々と来る。今はもう南と東の敵が今や今や来るかと戦々恐々としている人々にとっては、あまりにもあまりにも首を傾げる和平交渉の使者だった。


 だが、どんな事情にしろ戦は終わりを告げる。


 皇の驚きと喜びの顔はレイナにもそして周りの重臣にも忘れられない表情の一つだろう。あれほどくたびれていた皇の表情が本当の笑顔になったのだから。 

随分間空きました。すみません。今皇国の話は一応重要なので、先に書いておこうかなと思って、書いたんですが、読者様には2人の冒険どうなったのって思っているでしょう。まだ皇国の話は続きます・・・。もう少し2人の話は待ってください。

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