戦後処理
和平交渉が一週間後に迫り皇国は慌ただしく動き出す。とにかやることが多すぎるのだ。皇国での被害状況を調べなければいけないし、復旧作業もしなければならないし民を家に戻す前に万が一の事を考えて安全も確かめなければいけない、大まかに言えばこの3つだが、小さな事を上げればキリがないほどやることがありすぎる。
そんな戦場の様な慌ただしさの中、南のサンランドの被害状況を確かめに行った役人が一人の男を連れてくる。役人の説明では、サンランドは無事だと言う報告と共に民からの報告で、サンランド目前の敵を撃退したのが、役人の連れてきた男、シルクスとその配下500名だと説明を受ける。サンランドを救った人物を粗雑には扱えぬと急遽皇王の対面を許される。
王の間に通されたシルクスがゆっくりと皇の前に進み、膝を着く。その光景を見た重臣達は感嘆の息を上げる。シルクスの雰囲気は他を圧倒するほど気迫に満ちている。現実で見るとまさにおとぎ話にでてくる英雄シルクスそのものだとしか思えなかった。そして一番気迫に押されていたのは顔をピクピクと引きつかせ怯えた表情で見る皇であった。そんな皇を後押しする様に、ユルグが声を発する。
「陛下お言葉を」
シルクスは顔を下げたまま微動だにしない。形式で言えば王の言葉なくして頭を上げるのは非礼に当たるため、形式どおりといえる。ただ、あまりにもシルクスに圧倒され短い時間とは言え誰も言葉を発せず、シルクスもまたそのままの状態なのだ。
皇は一つ咳払いをし。
「よ、よくぞサンランドを救ってくれました。感謝します」
多少震えた声ではあるが皇は言葉を発せた事に達成感を感じる。しかし、それもユルグの言葉に地に落ちる。
「陛下、まずは頭を上げさせたほうがよろしいかと」
あっ、と小さく皇はつぶやき。慌てたように。
「頭をお上げください」
そこで初めてシルクスは頭を上げ、皇を直視する。この時の感情を何といえばいいのだろう。別にシルクスは威嚇する様に見ていたわけではない、ただ皇をまっすぐ見ていただけだ。しかし、シルクスそのものの雰囲気と騎士としての経験とも言うべき気迫の込められた視線は、あまりにも皇には耐え難いものだった。
まさに蛇に睨まれた蛙状態。
視線を逸らしたら殺られる。皇はそう直感で感じ取る。意図せずして唾を飲み込む。
また、王の間に静寂が訪れる。
ユルグが頭を手で押さえているのは気のせいではないだろう。王の間が完全にシルクスに支配されていると言っても過言ではないだろう。唯一対抗できるのは、レイナくらいだ。頼りになるはずのレイナも戦後処理に追われあちこち飛び回って指揮をとっている為、現在不在という状況。このまま、静かな時間が流れると思われた瞬間。
「陛下、シルクス殿がお困りになっております。もう一度お礼を申し上げるのがよろしいかと」
場の支配から抜け出す一人の声がかかる。皇はシルクスを刺激しない様ゆっくりと、その人物に視線を動かす。そこにいたのは微笑みを浮かべたヘルゲンだった。そしてシルクスを見ると首をかしげているのが見て取れる。
ヘルゲンの微笑みに緩和されたのか、皇の緊張も若干解ける。
ゴホンと大げさに咳払いをし。
「シルクス殿すまない。さすが歴戦の勇士と呼ぶべきだろうか、見惚れてしまっていた。改めて礼を言う。サンランドを救っていただいて感謝する。本当にありがとう」
皇の言葉を聞き、シルクスは頭をさげ。
「感謝など勿体無い。私シルクスはあなたに剣を捧げる身。存分にお使いくださるよう」
「えっ」
シルクスの言葉に皇は素で反応し、慌てて手で口を押さえる。
剣を捧げる身って、騎士が王に仕える事を確か言うんだよな。あれ、おかしいな初対面だったはず。そもそも英雄シルクスってユルグから聞いた話では、すでに死んでいるはずじゃ・・・。
困惑する皇を察してか、シルクスは頭を上げ、微笑む。
「私は陛下のお力によって再び甦ったのです。私は知っています、皇王が心底苦悩する姿を。だからこそ、暗く閉ざした私の心を開き。もう一度主に仕えて忠誠を尽くそうとそう思ったのです」
一気に王の間は声が響き渡る。
「おおぉ、やはり陛下のお力で」
「そうではないかと思っておりました」
「まさに陛下のお力は神の如き」
感嘆の声が響き渡る中。
「皆さんお静かに、陛下とシルクス殿の対面は続いておるのですよ」
ヘルゲンの言葉に慌てて重臣は口を噤む。
「そうか、ならば再び剣を捧げてくれ、そして皇国の為にその力を使ってくれ」
「ハッ、この命尽きるまで陛下、そして国の為に使うことを誓います」
皇は大きく頷き。
「英雄を一兵卒にしとく事は出来ないな。レイナから数えて2人目の将軍に付いてもらえないだろうか?」
「ありがたき幸せ」
シルクスをまじまじと皇は見る。
自分の力で一度死した者を蘇らせた。それは本当に神の力のようだ。この世界ではゲームの様に一度死んだものは生き返る魔法はない。だが実際それが目の前に起きた。確かに英雄の様な人物が救ってくれる事は期待していた。そして何故我が国を襲うのかと憎んだりもした。しかし、具体的な願いはしていなかった、はずなのに・・・。俺の力は一体何なのだろう。場に合うように取り繕いはしたが、自分が恐ろしくてたまらない。
「か、へい・・・、陛下!」
ハッと意識を取り戻す。
ユルグが目の前に来て、声を掛けているのが見て取れた。
「ユルグ・・・」
ユルグが大きく息をついて。
「具合が悪いのかと心配しましたぞ。もう皆解散させました。やることがたくさんありますから。シルクス殿も着任早々ですが仕事を任せました。人ではいくらあっても足りませんから」
「そうか・・・。少し考え事をしていた」
「陛下、疲れがたまっているご様子。今日はお休みになられては?」
「いや、皆を働かせて自分だけ休む事はできない」
「しかし、陛下のお体は・・・」
「分かっている、心配させるまで働きはしないさ」
「それならよいのですが・・・」
ニコリと微笑み。
「さあ、ユルグやることがたくさんあるぞ。我らも仕事にかかろう」
ゆっくりとユルグは頭をさげ、皇の後に続く。




