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第二話 出会い

『昨晩、朝銀行にて事件がありました。警察の話では犯行は”ハンス”の仕業と見られています。昨晩ハンスが犯した容疑は、強盗、爆発物所持です。またハンスが所持していた爆弾が爆発し、警察関係者や銀行職員、周りにいた人達が巻き込まれ多数の死傷者が出ています。またハンスは強盗した現金をその場で燃やすという謎の行動を起こしており、現在は逃走中で行方は不明です。日本政府は異例の全国指名手配だけではなくハンスの行方について有力な情報を提供してくださったかたには賞金を出すつもりのようです。またこれが昨日死亡した人達の名前です』


 そう言ってテレビの画面は死亡者の名前の表示に切り替わった。死亡しているのはほとんどは警察関係者で一部に銀行職員や一般市民の名前がある。


「うわっ、凄いたくさんの人が死んだんだね。世の中物騒だなぁ。しかもこの場所家から結構近いじゃん」


 それを言ったのは一人の女性だった。女性はオレンジジュースを片手にソファーに座りながらテレビを見ていた。


 女性の身なりは小柄で身長は150cmほどだろうか、髪はストレートのセミロングで肩より少し長めで茶髪に染まっている。


あおい! そんなとこでくつろいでないではやく支度しなさい」


 それを言ったのは後ろの台所で洗い物をしている葵と呼ばれた女性の母親だった。


「はーい」


 葵は少しだけめんどくさそうな声で返事をし、コップを洗い物をしている母親の元に持っていき部屋を出て二階へ上がっていった。


 彼女達はこれから病気で入院している祖父の病院へ見舞いにいくようだ。彼女の祖父は三ヶ月前に末期の肺がんだと診断された。その後容態は次第に悪くなりもう家には帰れないだろうと言われていた。肺がんでうまく酸素を供給することができないので現在は酸素マスクをつけて入院生活を送っている。


 葵は自分の部屋で服を着替える。


 彼女の服装は結構カジュアルでなかなかセンスが良い。アクセサリーも多少身に着けまるでデートにでもいくかのようだ。デートといえば葵には彼氏はいない。半年前に彼氏と別れて以来、特に出会いもなくそのまま現在に至る。


 葵は着替えた後、今度は薄化粧を始めた。そして準備が整うと一階へと降り母親のいる部屋へと行く。母親も洗い物を終え、自らの準備も終盤を迎えていた。葵は母親の準備が整うまで再びリビングへと行きテレビをつける。現在はニュースも終わりなにかしらのバラエティー番組をやっている。


 ソファーに座りながら、葵はバラエティー番組を見ている。そうこうしているうちに母親の準備も整ったようで母親が葵を呼ぶ。葵はその声に反応してテレビを消し玄関へと向かった。


 玄関へ行くと葵はスニーカーを履き外へ出る。


 外は昨日から続いている晴天に輝いている。そして葵は車へと向かう。車の運転をするのは母親のようだ。しかし葵も運転は出来る。今回はたまたま母親が運転するだけだ。車は家の駐車場から出て道路へと移動する。


 葵はその時あることに気が付いた。


 この道を通って病院に行くということは昨晩あった事件現場のすぐ近くを通ることになる。葵は半分以上興味本位で現場を直接見てみたいと思っていた。葵はそのことを母親に話すと母親は少しだけならと葵の要望を受け入れてくれた。


 車はなんの変哲もなく道なりに進んでいたが、しばらく進むとたくさんの人がざわめきと共に姿を現した。かなりの人がいて車ですら通ることができないようだ。よく見ると警察のような人も数人いる。ここは昨日事件が起きた現場の近くだ。


 葵と母親はもしかして通行止めになっているのではないかと思い一度車を停めた。すると警察の一人が葵達の車に気が付き寄ってくる。


「すいません、危険ですのでここは通行禁止になってます。あちらの道から迂回してください」


 そう言いながら警察の人は道の端を指さした。警察の人が指さしたほうからいけば確かに迂回していつもの道に戻ることが出来る。とは言え事件現場を見に行きたかった葵にとって、そちらのほうに行くと言うことは事件現場にはいけないということになり残念そうだった。どちらにしてもあの様子では立ち入り禁止になっているだろうが。


 仕方なく葵を乗せた車は道を迂回して病院に行くことになった。


 さらにしばらく走り家から30分ほどで病院へと着いた。葵と母親は車から降り、受付を通って病室へと向かう。


 割かし大きな病院は、見た目が大学のような綺麗な病院だ。都会にあるのも手伝い入院していたり、診察にきたりする人も多く、さらに医療設備や環境も整っているしっかりとした病院だ。どこを見渡しても患者やお見舞いにきた人達の姿が目に入る。


 この病院でも昨日の事件で入院している患者などがいるのか報道陣の姿もチラホラ見ることが出来る。昨日の事件が起きた後この病院も大変だったのだろうか。そんなことを思いながら葵は三階にある病室へとエレベーターに乗り向かう。


 葵は昨日の事件を身近に感じていた。家の近くで起き、その事件で怪我をした人達が今いる病院にいる。他のあまり関心を持てない完全に無関係の事件とは違う。直接関係はないがすぐ近くで起きた事件なのだ。葵はそう思うたびにある思いが頭をかすめては消えていた。


 それは事件を起こした張本人、通称”ハンス”と呼ばれる男。その男は一体どんな男なのか。一体なんの目的でこれほどの事件を起こしているのか。たくさんの人が死に怪我をし、大変な目に合っている。それでも葵は少しその人物に会いたくなっていた。


 三階に着いた葵達はまっすぐ病室へと向かう。病室へ着くとスライド式のドアを開け中へ入る。葵の祖父は重病患者であるため現在は個室で部屋へ入ると心電図の機械の音と酸素マスクへ送る酸素を作っている機械の音だけが静かに響いていた。その病室は昨日起きた事件など知る由もなしというように静かにひっそりとそこにあった。


「おじいちゃん、来たよ!」


 葵の元気な声が静かだった部屋の中を飛び交う。その澄んだ声は確かに祖父の耳に届いたようで、祖父は喋ることが出来ないものの目を開け、微かに微笑んで見えた。葵の祖父は肺癌ですでに末期だと診断され、病状が悪化してから酸素マスクを着けほとんど話すことも出来なくなっていた。葵はもう何ヶ月も祖父の声を聞いていない。


 葵の祖父は元気だった頃は実によく喋る人だった。葵もそんな祖父の影響を受け、今の性格が作られているようなものだ。祖父に似ることを、隔世遺伝と呼ぶらしいが葵の元気な性格もそれの類だろう。葵の知識のほとんどはよく話し、なんでも教えてくれた祖父によるものが大半を占めていた。それだけに今の話すことがほとんど出来ないほどに弱った祖父を見ると葵はどうしようもなく悲しい気持ちに胸を締め付けられていた。加えて末期の癌。もう先も長くは無い。葵の気持ちはまるで深い奈落の底に落ちていくような気がしていた。


「葵、悪いけど飲み物買ってきてくれない?」


 母親の声に葵はハッとする。ずっと無意識的に祖父の姿を見ていた葵はその声に半ば驚き母親の顔を見た。


「え、ジュース? うん、いいよ。なにがいい?」


 葵はボーとしていたことを隠すように必死に話を繋げようとする。


「私は冷たいコーヒーでいいよ。はい、お金」


 そう言いながら母親は財布から自分の分と葵の分の小銭を取り出し葵に手渡した。葵はそれを受け取ると静かに病室を出て行った。自動販売機は三階に一つある休憩室にあった。

休憩室はお見舞いにきた人などが気分転換によく利用するするためか机や椅子はもちろん自動販売機やテレビ、雑誌なども置かれている。窓の外は軽くベランダになっており出ることも出来る。


 いつもは休憩室は人が多いのだが、昨日の事件もあってなのか人は一人もおらず葵はきょとんとした顔でジュースを買った。ジュースを買った葵は休憩室の椅子に座り自ら買ったジュースを飲みはじめた。窓の外を見ると都会の景色が見える。どこにでもあるビル群やマンション、民家、デパートなど。ここが都会の中心にあるというのを容易に感じさせることの出来る風景だ。


 とその時――。


 ふと影が見えた。葵はそれを確認するために椅子から立ち上がり窓へと近づく。窓から左右を見るがなにもない。葵はユウレイでも見たのではないかと一瞬鳥肌が立ち身震いがした。だが次の瞬間それはユウレイではなく、また見間違いでもないことに気が付く。


 窓の外にある小さいが確かにあるベランダ。そこにどこからともなく降り立った一人の青年。葵はその青年を見て……いや、目を離すことなんて出来なかった。それはほかの誰でもない。


 昨日事件を起こした張本人であり、世界的大犯罪者”ハンス”であった。


 葵も、そしてこの世のほとんど人間が知るであろう人間、”ハンス”。いや、人間であるかも疑わしいその存在。それが今、自分の目の前に突如現れた。


 ハンスも葵の存在に気が付き、お互いに目線が合った。葵はその眼を逸らすことも出来ずにただハンスを見つめる。


 今、この場はまるで時間が停止しているかのように二人は微動だにしない。


 それでも二人の運命の歯車はそのときを確実に刻んでいた――。


 


今回も読んで頂きありがとうございます。細心の注意をはらってますが万が一、誤字などがありましたら教えて頂けると助かります。

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