第73話 黒崎家
ピンポーン。
「はい」
「すみません、鈴木駆と申します」
「っ!? はい、すぐに開けます!」
家の中からドタバタと音がして扉が開く。
ドアの奥から慌てた様子で以前会ったアオイさんの母親が出てきた。この様子だと、俺が例の事件に関わっていると察しているのかもしれない。まあ、俺がここを訪れた直後に告発文が公開され、そのあと俺のことを探りに来たISEOの人が訪れてきたのだから、それも当然か。
「あ、あの、以前の……いえ、失礼しました。まずはおあがりください」
「はい、お邪魔させていただきます」
家の中へ案内される。
「この方が例の……」
居間へ行くとメガネを掛けた細身の男性がいた。先日お邪魔した時はいなかったアオイさんの父親だろう。今日は父親もいそうな夜の時間帯に訪れたが、正解だったようだ。
「初めまして、鈴木駆と申します。生前はアオイさんと会ったことはないのですが、ゲームの中で交流をしていました」
「は、はい。黒崎総司と申します」
「先日はこちらにお邪魔させていただき、アオイさんにお線香をあげさせてもらいました。本日は最近お騒がせしてしまったことについて話をさせていただこうと思っています」
「っ! やっぱり先日の件は鈴木さんが……」
両親共に驚いているが、ある程度は予想していたのか、そこまで衝撃を受けたという感じではない。
「はい。アオイさんが被害を受けていたことと、彼女の上司への告発は私が行いました。勝手なことをしておふたりにご迷惑をお掛けしてしまい、本当に——」
「やはりそうでしたか! 鈴木さん、本当にありがとうございました!」
「あの子の無念を晴らしてくれて、ありがとうございます!」
俺が勝手な行動をして、2人の周辺を騒がしくしてしまったことを謝ろうとしたところを遮られ、ご両親に頭を下げられた。
「これまで私と妻はあの子の無念を晴らそうと、あらゆる手を尽くしてきたのですが、すべて駄目でした。鈴木さんのおかげで、ようやくあの子が悪いことをしていないことが証明されました!」
「うう……これであの子も天国で浮かばれています……」
ご両親が涙ぐんでいる。やはり以前母親が言っていたように、自身の身の回りが騒がしくなるより、アオイさんの無念が晴らされたことが嬉しかったようだ。アオイさんの母親が涙を流し、父親がその肩に手を回してそっと寄り添う。
ご両親の姿を見ると、あの時はいろいろと大変だったけれど、それが報われたように思える。あの時に行動して本当によかった。
「お見苦しいところをお見せしました」
「いえ、とんでもございません。少しでも力になれてよかったです。それで、あの……あのことで家まで押しかけてくるような迷惑なマスコミとかはいなかったでしょうか?」
「多少そういった者もおりましたが、大したことではありません。それに取材などをしてくれた方もアオイのことに同情してくれました。……葵が亡くなった当初から手のひらを返したテレビ局については腹が立ちましたが」
「なるほど……。改めてご迷惑をお掛けしました」
どちらかというと、アオイさんが倒れてしまった当時のほうが酷かったらしい。その時はアオイさんは横領犯として扱われていたからな……。
先日の件で手のひらを返してすり寄ってくるマスコミもいたのだろう。
「それくらい大したことではございません。改めて、娘の無念を晴らしてくれて本当にありがとうございました。……それでその、実はひとつ鈴木さんに謝らなければならないことがございます。実は先日、家内が鈴木さんのことを調べていたという者に鈴木さんのことを喋ってしまったようでして……」
「も、申し訳ありません! 娘の恩人である鈴木さんのお名前を教えてしまいました!」
ご両親が改めて俺に頭を下げてくる。たぶん夜ノ宮さんのことだろう。
そうか、俺の名前を伝えたことを気にしているのか。いきなり謎の方々に押しかけられて、パニックになって話してしまったのかもしれない。むしろ、おかげで取引を始めることができたので、感謝しなければならない。
「そちらについては大丈夫ですよ。おそらく夜ノ宮さんという女性の方ですよね?」
「は、はい! それと龍ヶ崎さんという男性の2人でした」
そちらの男性は知らないけれど、おそらくISEOの人だろう。
「交流のある方々なのご安心ください。夜ノ宮さんの方はつい先日もお会いしてきたばかりですので」
「よかったあ……」
アオイさんの母親が胸をなでおろす。
そうか、そのことをずっと気にしていたのか。しまったな、もっと早くお邪魔して安心させてあげればよかったか。
「あの、鈴木さん。なにかお礼をさせていただけないでしょうか」
「いえ、私がやりたいようにやらせていただいただけですので。ですが、お礼の代わりに、おふたりにはいくつかお願いしたいことがあります」




