第一話 『もしも...乙姫の玉手箱の中身がすり替えられていたとしたら?』(浦島太郎)
最初に...
はじめまして。青家 凛と申します。拙い小説の設定を考えるのが好きです。
つれづれなるままに書き始めたものなので見苦しいですが、温かく見守って頂けたら幸いです。
今回はダーク強めです。今後の方針は書き始めてから決めます(現実逃避)
第一話 『もしも...乙姫の玉手箱の中身がすり替えられていたとしたら?』(浦島太郎)
乙姫に仕える亀の一族の長男、光亀は憤慨していた。
彼は野心家であり、幼いころから乙姫もろとも竜宮城を手中に収めようと画策していた。綿密に練
り上げた計画をいざ始動させようとしていたそのとき、ひとりの男が竜宮城にやってきたのだ。
男は名を浦島太郎といった。光亀の愚弟、元亀を助けたため、元亀が彼をもてなす
ために竜宮城に連れてきたのだという。光亀をはじめとした家臣たちは太郎を竜宮城に滞在させるこ
とを快く思わなかった。トラブルのもとになると思ったからだ。光亀は、太郎はどうせすぐに追い出されるなりして帰るだろうと思っていた。
結論から言うと、光亀の推測は当たらなかった。太郎は華やかな美男ではなかったものの、素朴で
誠実な人柄だった。最初の方は怪訝な怪訝顔をしていたヒラメの踊り子たちやタツノオト
シゴの使用人たちも次第に太郎の人柄に惹かれていった。
太郎に好意的な人はどんどん増えていった。あいさつを欠かさないところや困っている人がいたら手を差し伸べるところが人々(魚たち)には魅力的に映ったらしかった。
とうとう光亀が恐れていた事態が起こった。乙姫が太郎のことを好きになってしまったのだ。太郎も美しく気立ての良い乙姫のことを憎からず想っており、二人は互いのことを大切にし、仲睦まじい様子を見せていた。
光亀にとって予想外だったのは、竜宮城の人々が二人の仲を受け入れていたことだった。よそ者が婿に入るのは受け入れられないと言っていた者も太郎ならば大丈夫、むしろお似合いの二人だと太郎をほめたたえていた。
太郎と乙姫は正式な婚約者となった。後に引けなくなった光亀は二人を引き離す方法を思いつき、ひとりであくどい笑みを浮かべた。
光亀が最初にしたのは、太郎に故郷のことを思い起こさせることだった。人のよい太郎は、光亀が陸に残してきた太郎の両親が心配しているのではないかとささやくと、一回陸に戻って両親に会うことを決心した。その時に自分は海で乙姫と生きると両親に伝えるのだと、太郎はいかにも好青年らしい笑みとともに光亀に語った。光亀の本心を知らずに。
光亀は自ら太郎を陸まで送り届ける役に志願した。乙姫は太郎とのしばしの別れを惜しんだが、太郎が親に結婚の許しを貰いに行くというと頬を朱く染めた。周りもそのやり取りを微笑ましげに見守った。唯一光亀だけがほの暗い眼をしていた。
出発の前日、光亀は乙姫に相談を持ち掛けられた。光亀が本当に自分のことが好きなのか確かめたいという乙姫に光亀は恋文と贈り物を渡すことを勧めた。恥ずかしがる乙姫に光亀は、ちょうど太郎が一人になるとき、つまり明日からの帰省中に自分が渡すことを提案し、乙姫はそれを了承した。
自室に帰った光亀は急いで、乙姫に預かった文と贈り物の入った箱と、むかし海の魔女から譲り受けた煙状の老化薬の入った箱を入れ替えた。準備は整った。
翌朝光亀と太郎は陸に向かって出発した。道中はとても静かだった。太郎が年老いた自分の両親のことを心配してずっと考えていたので。光亀も脳内で自分のやることの確認をしていた。
陸に着いたとき、面影を残しつつもあまりにも変わってしまった景色に太郎は呆然としていた。当たり前だ。光亀は長い時間が経ったような細工をするためにわざわざ太郎の村と景観が似ているが彼の村よりそれなりに発展している村を選んで太郎を連れてきたのだから。
光亀が想定していた通りに太郎は絶望していた。そこで計画の最終段階として光亀は黒い箱を太郎に手渡した。なにを隠そう、中身が老化薬にすり替えられている箱だ。開けない方が良いといいながらも、太郎はきっと開けるだろうと確信していた光亀は彼からそっと離れた。数秒後、太郎は大量の煙となった老化薬をその身に浴びた。
演技派でもある野心家の光亀はあたかもとても動揺して叫んだかのように太郎に事実を...ただし脚色済みのものを...告げた。老化薬により老化していること(事実)、その薬は高価でめったに手に入らないこと(事実)、乙姫が晴れ晴れとした顔で自分にそれを渡してきたこと(嘘ではない)、そして、乙姫は好いた人にはその薬を渡すわけがないということ(用意したのは乙姫でないから事実)。
最後の言葉はつい漏れてしまったかのようにいうのがコツだ、と光亀は内心で解説していた。太郎はそれを聞いて光亀の目論見どおりに、乙姫の心が自分から離れたのだと思い込み、さらに絶望の淵に落とされたような眼をした。
老いとショックで死人のようになった太郎は、竜宮城には帰れない、と光亀に言って陸へと消えていった。それから彼の姿を見たものはいない。
光亀は悲痛な顔をしながら竜宮城に帰り...はしなかった。じつは彼は海の魔女に頼み、あの煙にある仕掛けをほどこしていたのだ。それは、あの煙を浴びた人のことを、その人を強くおもっていた者以外は忘れてしまうというおまじない。光亀は太郎を強く憎んでいたために忘れていないのだろう。光亀は意気揚々と竜宮城への道を泳いでいった。
竜宮城に帰った光亀が見たのは荒れ狂う乙姫と戸惑いを隠せないようすの家臣たちだった。太郎はどこだと泣く乙姫は光亀を見つけて詰め寄った。太郎のことを知っているかと一生懸命に聞く乙姫に光亀は困惑したように言った。太郎さんって誰ですか、家臣たちにもそんな名前のものはいませんよ、と。
それから乙姫は狂い始めた。見る人すべてを太郎と呼び、愛をささやく。大部分の家臣たちは気味悪がって彼女から離れていったが、光亀はずっと彼女についていた。いつからか周囲は光亀を乙姫の保護者兼責任者として、昔は乙姫がやっていた竜宮城の主としての仕事を彼にまわしはじめた。彼の優れた手腕を皆は褒め称えたが、彼はうつむき気味に、もっと頑張らなければと言うばかりだった。周囲はその謙虚さを持つ彼ををさらに好ましく思った。彼の歪んだ口元に気づかずに。
実質的に竜宮城を手に入れた彼はひとり嗤う。太郎のものになるはずだった周囲からの人気も、乙姫も、そして竜宮城も、全部自分のものになった、と。そうして彼は今日もまた優秀な好青年を演じ続ける。
めでたしめでたし。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
誤字脱字等見つけたら教えてくださると助かります。
よい一日をお過ごしください。




