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「これから、ベールダウンを行います」
控え室に訪れた神父様が、雪絵に向かって言った。
神父様曰わく、ベールは清浄のシンボルであり、邪悪なものから花嫁を守る魔除けとなるらしい。
それを降ろすのが、母が娘にする最後の身支度なのだそうだ。
「最後の、身支度……」
震える、雪絵の声。
深冬が、雪絵に向かって頭を垂れた。
「お母さん、お願いします」
雪絵の白くて細い手が、透き通ったベールに、触れる。
ゆっくりと、ベールが下ろされていく。
「……綺麗ね……」
雪絵は、涙ぐみながら微笑んだ。
深冬が、同じ顔で微笑む。
「時が経つのは早いね。
苦しい時もあったけど、お父さんと出会えて、あなたを育てられて、幸せになれた。ほんとうにありがとう」
「今度は、深冬の番。幸せになるのよ」
そう口にして、雪絵は深冬を抱きしめた。
「お母さん、ありがとう……」
雪絵の言葉に、綺麗な花嫁姿の深冬に、涙ぐむふたりに、幸せを覚える。
深冬の巣立ちは、もうすぐ。
*
白いウェディングドレスとベールを纏った深冬が、私の横で微笑む。
その姿は、言葉では言い表せないほど美しくて。
これから深冬は私の元を巣立つのだ、と改めて実感した。
私は深冬に微笑み返し、目の前に続くバージンロードを見つめた。
こんな日が来ることを、とても幸せに思った。
「新婦の入場です!」
そっと腕を組み、バージンロードへ、深冬と一緒に一歩を踏み出す。
私たちへ拍手が降り注ぐ。
雪絵、新郎新婦の友人たち、司さんの両親……皆が、温かな顔で、バージンロードの上に立つ私たちを見守っていた。
「私たちは幸せだ。深冬も、私たち以上に幸せになりなさい」
小さな声で囁くと、深冬もまた、
「お父さん、ありがとう」
と返してくれる。
バージンロードを歩くのは、人生で二度目だ。
一度目は、父親のいない妻と2人で。
二度目は、娘をエスコートする父親として。
少しずつ、司さんの姿が近づく。
大切に育ててきた娘が巣立つときが、近づく。
「深冬を、幸せにしてやってください」
私は、司さんに深く頭を下げた。
「もちろんです、お義父さん」
私が差し出した深冬の右手を、司さんが掴む。
深冬と司さんが、目を合わせて幸せそうに微笑んだ。
それは、彼女たちふたりの始まりとなるのだ。
Fin.




