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『2008/08/02 pm:4:00〜6:00 松島にて』

雫という名の少女がいる。

彼女には特にこれと言った特技があるわけでもなく、彼女自身はごくごく平凡な女の子だ。彼女は3日ほど前から故郷の松島に夏休みを利用して帰郷しており、現在は、彼女の友人とその姉、そして姉の友人の4人で海水浴に来ている。


「おーい、雫ちゃん!こっちこっち!はぐれたらダメだよー!迷子になって、サザエ鬼に海中に引きずり込まれるよー!あれ?海中に引き込まれて、迷子になるのかな?そのときは迷子じゃなくて行方不明?う〜ん、まあ、どっちでもいいか」


この一声にびくりと反応する雫。彼女はこういったオカルト全般の話が苦手で、特に水物関係はダメらしい。


「もう、止めてよ。歩お姉ちゃん。そんなこと言われたら泳げなくなるでしょう!」

そう言って頬を膨らませて怒る雫。彼女自身は自らの怒りを前面に押し出しているつもりなのだが、その表情がまた可愛いと思っている歩には逆効果にしかならない。


「大丈夫だよ雫ちゃん!お姉ちゃんが守ってあげるから!だからお姉ちゃんから離れたらダメだよ?雫ちゃんは千佳と違って可愛いんだから!そんな雫ちゃんをお持ち帰りしたいって思ってるのはなにもサザエ鬼だけじゃないんだから。最近は物騒だからね。変な人たちからもお姉ちゃんが守ってあげる!さあ!雫ちゃん!お姉ちゃんの下に!このお姉ちゃんの胸に飛び込んできなさい!」

 と、無い胸を一生懸命、雫に向けて押し出す健気な15歳。その隣から嘆息が聞こえる。


「可愛くない妹で悪うござんしたね。そんな可愛くない妹より、夏休みにしか来ない雫の方が大事ですか。そうですかそうですか。まあ、いいんだけどね、そこは。実際何かあってもお姉ちゃん役に立たないし。・・・胸もないし」

 

歩は千佳の発言の「胸も・・・」くらいのところから顔を般若にして妹を追い回している。なぜか彼女は小4の千佳よりも胸が無い。どうしてないのか本人にも分からない。

ただ、妹の千佳は同世代の娘に比べて発育がいい。同じ遺伝子を引き継いでいるはずなのにこの差はいったいなんなんだろうか、と彼女は常日頃疑問に思っているのだが、彼女がきちんと遺伝学を学べばその理由は分かることだろう・・・納得はできないだろうが。


「おーい、歩—。小4の妹にマジ切れは不味いんじゃないのかー?ものは考えようだぞー。肩こらないだろー。お前—」

 そうつっ込むのは歩の同級生にして親友。15歳にして弾けるボディを体得してしまった有香だ。彼女は胸に神を宿らせている。

基本的にこの年頃の男どもの女性の価値基準は完璧に外見に重点が置かれるため、顔立ちもいい有香は中学校でモテモテである。


「うるさい!肩がこっても揉めば直るだろう!だけど貧乳は揉んだって直らないんだ!大きくならないんだ!揉んで大きくなるのは妊娠してからだって何を言わせるのよあんた!私はかわいそうじゃないぞ!これからだ!これから私はうう・・・」


ちなみにここはプライベートビーチでも何でもないので、当然他の海水浴客も居る。彼らの反応はまちまちで、完全に無視するものも居れば、やたらと歩に共感している人も居て、中には「ぺっタンコは何も恥じることではない。それはまさしく・・・」と意味不明なことほざいている妻子もちが居る。妻子もちは当然、奥さんにビンタを張られ、娘からは「男なんて・・・」とか言われている。


「お姉ちゃん。泣かないで。これからだよ。雫もまだぺっタンコだもん。でも、義明先生が言うには、雫はこれから大きくなるらしいから、お姉ちゃんもきっとそうだよ。だから元気出して一緒に牛乳飲もう?」


出ました、伝家の宝刀GYUNYUです。ぶっちゃけ、これで本当に大きくなるのか疑問ですよね?だってあれ、脂肪の塊ですよ?太る確率の方が高いですね。まあ、きちんと運動すれば、話は別でしょうが・・・。

「雫ちゃん・・・ありがとう。お姉ちゃん、元気でたよ・・・。そうだよね?だって人生80年だもんね?まだ15年しか経ってないんだから、これからだよね?うふふ・・・」


 小学4年生に適当な慰めをされた中3は壊れかけていた。特に、自尊心が。


「やるわね雫ちゃん。私たちがいくら言ってもへこたれない歩を一撃で粉砕とは」


 下手に邪気が無い雫のような子がこういうことを言うと、かなりサクッと来る。

この後、歩は何とか自力で自尊心を回復させ、いつもの元気を取り戻した。その後は例年通りのお祭り騒ぎ。浜辺で城を作ったり、無意味にヤドカリを集めたり。

 

楽しい時間は過ぎていく。それは平和な時間で、とてもいとおしい時間で・・・。でも、多くの人にとっては当たり前のもので・・・。


そんな大切で、あるのが当たり前の時間が過ぎていく。


                     ♪


 時間は過ぎに過ぎて、現在夕方の5時半。泳ぐには、ちょっと適さない時間帯になってきた。


「よっし、雫ちゃんもう帰ろうか。まだ明るいけど、5時半だしね。どうせいつでも来れるしね。」

そう言って、雫に笑いかける歩。そんな彼女に痛烈な突込みが入る。


「えらく楽勝ムードだね?歩?忘れちゃいないだろうけど、一応私たち受験生だよね?その辺の基本事項分かってる?」

「千佳いくよー。荷物持てー。速く帰らないとサザエ鬼が来るぞー。」


 中3にもなって、聞こえないふりをする親友。あまりにも子供っぽい親友に有香は思わずため息を漏らす。


「歩お姉ちゃん。お勉強は大事だよ?逃げてちゃ何も始まらないと思う。だから、明日はしっかり受験に備えて、大勉強した方がいいと思う。」


 しっかりした小4も居たもんだ。それに対して、小4に勉学の重要性を諭される中3。もう、どっちが姉貴分か分からなくなっている。


「・・・うん、ごめんね。雫ちゃん。・・・そうだよね。お勉強大事だよね。・・・じゃあさ、明日は頑張るから・・・明後日は遊んでいい?」

 

この台詞のために、家への帰り道の途中、歩は、有香から「姉貴分名乗るならもっとしっかりしろ」とか、千佳からは「お姉ちゃん器小さすぎ、そんなんだから胸も・・・」など、散々なことを言われ続けることになる。・・・自業自得なのだが。



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