ハーレムは対立しているが、それでもあなたは英雄だ。
「ひとまず、ハーレムは今のままの形を保てそうですね。あなた様が各派閥の一人一人に向けて、誠心誠意お話なさってくださったおかげです」
数日してからの午後。執務室で暫しの休憩を取るあなたは、最愛たるエイラの膝枕で微睡むなかでそんな言葉を聞いた。
少し前に起きたハーレム内での衝突と、それを受けて奔走したあなたを総括する彼女の声である。
あの後、ビタネスを慰めたのを皮切りにあなたは奮闘した。各派閥の女達、一人一人を回っては対話し、時に手合わせし、慰め、そして寄り添い……自身の想いを伝えようとしたのである。
その結果としてひとまず、ハーレムの空中分解という恐るべき事態は免れた。愛人派と放蕩派、一部においては清楚派への感情は据え置きのままだが、それでもどうにか折り合いをつけさせることに成功したのだ。
「あなた様のお言葉は、ハーレムの女達にとって何よりも優先して当然のことですもの。ましてや御身の過去……あの魔竜王との間に何があったのかを、断片とはいえ示したのであれば。たとえ互いに思うところあれど、彼女達に納得しない理由はあり得ません」
エイラの言葉に、あなたは心からの安堵に身体を緩めた。一旦危機を退けたという安心感と達成感は、あるいはあなた個人からすれば魔竜王を倒した時よりも大きいまであり得る。
せっかく自分を慕って集まってくれた女達が、このような相互不理解と軋轢によって互いに傷つけ合って終わるのでは、あまりにやりきれないという思いがあなたにはある。
それは結局、かの魔竜王との間に起きていた心の交歓や対話、しかして対立の果てに決着をつけねばならなかったことにも由来する感情だろう。
とどのつまり……あなたは自分と懇ろになってくれた女達に、あのような想いをさせたくなかっただけなのである。
「……あなた様は、互いの想いや考え、価値観はそれぞれにあって良いものとお考えです。そしてそれらを互いに交わし合うことも、時にはぶつけ合うことも良しとされるのでしょう」
うん、とあなたはうなずいた。多様性を、価値観の違いを良しとする世界から来たあなたにとって、それはあまりにも当たり前の概念であり考え方だった。
人は違う。それぞれ、誰しもが一つとして同じではない。身体や姿はもちろん、その心までも。
ゆえに誰もがいつも誰かと争う。嫉妬する。憎悪する──反面に寄り添い合うこともあれば、愛することもあるし、尊重することもある。
それで良いのだ。それぞれが自立した心を、感情を持つとはそういうことなのだから。ゆえにあなたは女達の言い合いの場とて、ギリギリまで我慢しきったのである。
「けれどできれば、誰もが互いに互いを許し合い、身内として、身内になれずとも隣人として尊重し合えることを誰より望んでいらっしゃるのがあなた。あの旅路のなかで、あの魔竜王との戦いを経て、あなたが辿り着いたたった一つの"正しいこと"。好きなものは好きなままでいい、嫌いなものは嫌いなままでいい──お互いに肯定できずとも否定し合うことなく、ただ各々の望む距離感を保ち合うこと」
あなたの想い、信念を言語化するエイラに静かに、力強くうなずく。楽しくもあり、悲惨でもあったあの輝ける旅路と惨憺たる決戦において見出した、あなたの答えがそれだった。
けれどこれさえ、見方によっては単なる押し付けでしかないのだろう。そもハーレムなど築いている時点でどの口がというはなしですらある……上下関係がある時点で、それは真なる尊重とはほど遠いというのがあなたの考えなのだから。
どうしようもない矛盾。それでも、あなたはできる限りすべてを大切にして生きたかった。
魔竜王を想ってのことでなく、ただあなたが美しいと感じるから。エイラが望むからでもなく、ただあなたが素晴らしいと信じるから。
しょせんどこまでいってもエゴの塊、思いやりなど形式にすぎないのかもしれない。けれど、それこそがあなたの本当の希望なのだった。
「愛しています。心から。数多の矛盾、葛藤を抱えてなお、自らの信じるところを主張するあなたのことも私は、好きですよ……みんなそうです。世の誰もが、相反する想いをそれぞれ袂に抱えて歩き続けているんです。あなたも私も、もちろんそうですから」
優しく語りかけ、慰めるエイラ。その無償の愛、無条件の信頼こそはあなたが最も望み、求め、そして手に入れたもの。
それだけあればよかった……それが今では50人もの女達に囲まれ、慕われ、あなたも応えて愛し、そして頭を悩ませたり楽しく過ごしたりしている。
人生とはいつ、どこで何がどうなるか分からないものだとつくづく思わされるものだ。
────そんな日々を、できる限り愛しく受け止め、楽しんで過ごしたい。君と、君達とずっと、いつまでも。
「……はい。ふふ、ええ。私も、私達もみんな同じ想いです。英雄様。私達の、ハーレムの主」
本音を静かにつぶやけばエイラも静かに返してくれる。
今はそれでいい。これから先何が起きるか分からないけれど、あなたはひとまず、ハーレムを堅持できたことを心から喜ばしく思っていた────
ここでタイマーストップ(完結)!ご愛読ありがとうございましたー!
大ダンジョン時代シリーズもよろしくですー




