77.かつての恩人へ
ユウタはグレプの実を使ったタルトを頬張りながら、「そういえば」と口に出した。
「俺が前にお世話になった人が王様になったらしいんだよな。お祝いとか一応送りたいんだけど失礼かな?」
ユウタの問いに対してクレアは考え込んだ。まだ魔物が多い世であるとはいえ、魔王が居なくなって勇者の価値は多少落ちている。以前世話をしていただけの少年を王族が受け入れるのだろうか。
そんなことを考えた上で、ドラゴレインの王族と祖国の王族だった連中を比べて眉を下げた。祖国の連中は絶対に鼻で笑って捨てただろう。しかし、この国の王族が即位した時であればある程度受け取ってもらえそうな気もしたのだ。
「私はユウタがいた国の礼儀などを知らんからな。そういったことは貴族に聞いた方が詳しいだろうな」
考え込んだ後、窓から顔を出すと壁に背を預けたネーロがいた。クレアに気がついたネーロは耳を動かし、「何スか?」と問いかけた。彼に対して、先ほどのユウタの質問を投げれば、「それは貴族よか王族に問い合わせた方が無難っスねぇ」と返ってきた。
「では、手紙を認めてみよう」
誰宛が良いのだろうか、と首を傾げる。こんな時、マーリンであれば突然アレクサンドラの目の前に現れて尋ねるところであるが、クレアは流石にそういうことはしなかった。そんな普通なことにホッとしながらネーロは「アレーディア殿下に手紙書いてくれれば届けますよー」と言うと、ユウタが「わかりました!」と元気に返事をした。
「ロルフ、元気かなー」
ネーロに渡す手紙の内容を考えながら、クロエに渡された布で手を拭った。そして、ユウタから出た名前を聞いたネーロは一瞬硬直した。
「あー……、ユウタくんってレオニール王国から来たんスか?」
「はい!俺のこと召喚したのに、何も教えないまま戦場に放り出そうとしてた王様たちを止めて、色々手配してくれたのがロルフレードなんです!」
後ろに「恩人!」という文字が見えた気がする。
ロルフレード・アイル・レオニール。
レオニール王国の若き王。その戦ぶりから赤獅子と呼ばれる青年である。
彼が王位を継ぐ前の国は、使うべからずと言われた魔法を使い、勇者を召喚したせいで青藍の魔導師マーリンの怒りを買った。ドラゴレインでは、マーリンと契約することによりなんとか怒りを鎮めることに成功したことの方がその戦ぶりよりも評価が高い。それくらい魔導師マーリンは手に余る。
「あの人いなきゃ、俺今頃骨だったな」
「ここ以外にもまともな偉いやつっているもんなんだな」
「つーか、むしろコルツだっけ?あそこほど酷いのが珍しいんじゃないか?ま、レオニールも前の王様とか魔法師団とかはクソだったけど」
ユウタも何度か殺されかけているのでその辺りはあまり擁護するつもりはない。ロルフレードも一緒に殺されかけているので彼とその腹心のことは巻き込まれて可哀想にな、と思っている。
交代の時にそのままアレーディアのところへ向かったことでその手紙は速やかに第一王子の手に渡った。
彼らにロルフレードと争うつもりはない。向こうが放り出したユウタが特に恨んでいないというのであれば、止めるのもおかしな話だろうか。
中身は検めるが、と条件付きで認められたユウタは、派遣されたクローディアの助けの元きちんと形式通りにロルフレードへの贈り物を用意した。
「魔石で作った指輪とか、本当に贈り物として良いんですか?」
「あれほどの質のものでしたら、むしろ感謝されると思うっス」
ネーロの言葉に「そういうもんか」と頷いて、彼は形式を整えてもらってそれを送ったのだった。




