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69.誘因となったもの




 王族が異性に関することで目立ってしまえば、相手に迷惑がかかる。

 部下に見張らせているだけならばまだ良かった。だが、隙を見つけては乗り込んで行って結果的にこんな事態になった。一方的な恋であれば、忍ぶ必要がある。

 もしも両思いで、王子妃となる覚悟がある、もしくは外堀を埋めることができているのであれば、この件を利用することもできたかもしれない。けれど、二人の間には良くも悪くも何もない。



「配慮ができないのなら、近づくな」


「しかし陛下」


「しかし?お前はこの件があの悪魔のような男に伝わったら国がどうなっていたかを考えた?」



 アレクサンドラも息子だけが悪いのではないとわかっている。往々にして犯罪行為なんて行う者が悪いのだ。けれど、もしエリアスの惚れた女が何の力もない令嬢であったなら、彼女はこの世にいないだろう。そのことはクレアの魔法で跳ね返された結果からも明らかだ。



「だが、彼女に来るなとは言われていない」


「来てほしいとも言われていないはずね。そもそも、クレアは自分が我々に保護されている立場だと知っている。来た第二王子に来るな、だなんて言えないでしょうね」



 注意しても隠れることがないエリアスの態度がある意味ではこの事件を誘発したとも言える。

 獣人の多くは愛を伝えることを隠さなければいけないことだとは思っていない。番という存在を強く信じる者もいる。研究の結果、ただ一人しか感じられない特殊なフェロモンで互いに惹かれ合う、そんな存在がいることも分かっている。その存在を運命だと尊ぶ者もいるのだ。

 けれど、エリアスは女王の息子で、本人の意思に関わらずそのフェロモンを遮断する処置が赤子の時に為されている。それなのに恋愛でおかしくなるというのは本人の資質だろう。



「気持ちを通じ合わせているのならまだしも、そうでないのに見張らせ、報告させ、付き纏う。側から見ればお前の行為はそう見える」



 お前がやられて嫌だったことね。

 アレクサンドラの言葉にエリアスは顔色を変えた。



「この事態の沈静化を図りなさい。いいわね」



 拒否権など与えないという笑顔の母を見て、エリアスは静かに頭を下げた。






「この家は娘の暴走だな。仔細を話し、娘を見限るのであれば助けてやれ。こちらの家は当主の命令だ。内部も真っ黒だな。洗え」



 部下からの報告を見ながらアレーディアは指示を出していく。その傍らには茶髪の青年がいた。赤い瞳が細められ、次の書類をアレーディアへと手渡す。



「ここは母親の暴走。娘は亡くなったのか」


「死んだと見せかけて、兼ねてよりの恋人と逃走したようです。随分とプレッシャーをかけられていたようですね。元より平民として生きる準備もしていたようです」



 手際のいいことで、と皮肉るように言った側近に苦笑する。

 無事、回復した青年に家を継がせ、側近へと迎え入れたアレーディアは目をつけていた側近候補が無事でよかったと思う。優秀な人材は宝だ。



「それにしても、この魔導師とやらは規格外もいいところですね。しかも、本人に自覚はないときたら厄介だとしか」


「以前、相当に貶められていたようだから無理もない話ではある」


「マーリン様の件がないのであれば、それこそ第二王子殿下に引き取ってもらってもよかったかもしれませんが」


「いや、居てもいなくても陛下が許さなかっただろう」



 遠くから子供の癇癪を起こす声が聞こえて、アレーディアはペンを動かす手を止めた。



「魔導師クレアは、陛下と我が妹のお気に入りだ」



 側近になった青年は表情を動かさぬまま眉間を揉んだ。ふと、未来の主君を見ればどこか楽しそうに赤い花を見つめていた。

 嫌な予感はしたが、彼は口を噤んだ。薮を突いて蛇を出す気はないのである。

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