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68.薬の納品




 クレアは大釜の火を止めて、一息つく。大釜の中身は火傷用の薬である。クレア宅まで情報が届くほどの大火事だったのだから、被害者も出てしまったのだろうと眉を下げる。



(正直、いらない事をしなければ何も起こらないのだが)



 ボヤ騒ぎはその後数件起きた。やらかした者から監視がついて、その者たちは原因がクレアがエリアスを誑かす悪女であるからだと言っている。クレア自身は彼に対して誘惑をしたりだとか、媚を売ったりはしていない。なので、クレア自身はその理由に心当たりはなく、困った顔をするほかない。



「国を超えても貴族の考えることは分からんな」



 ちなみに起こっているのは放火だけではない。結構な頻度で異臭騒ぎも起こっているし、石などを投げ込まれる貴族もいるらしい。聞き取りの結果、大抵エリアスに秋波を送っていた令嬢のいる家か権力欲の高い当主のいる家だった。報告はすでにおこなっているしやめなくてもいいと文書でもらっている。そもそも、依頼されて同じ魔法を王族の部屋にもかけている。


 しばらく待つと、薬の入った大釜の温度が下がった。それを瓶に詰めて、さらに箱の中へとそれを詰めていく。

それを繰り返せば、三つの箱が出来上がった。この薬はいらない事をされたせいで怪我をした犯人の家族や使用人へと使用されるとの事なのでしっかりと数を確認して蓋を閉じた。


 ノックの音がして返事をすると、疲れた顔のレディアがいた。納品予定の薬の確認をしてもらい封を閉じると、その説明書を手渡す。



「手を貸してみろ」


「いいけど……」



 顔色が悪いレディアの手を取って、治癒魔法をかける。軽く身体を癒したくらいではあるが、その頬に赤みが戻った。



「応急処置ではあるが」


「いや……助かった。薬ではない直接の癒しの魔法とは聖女だけのものではないのだな」


「ん?水魔法の応用でなんとかなるぞ」



 一瞬、ポカンとした顔をしたレディアではあるが、不思議そうな顔のクレアを見て笑う。



「そうか。思い込みというのは難儀なものだな」


「そうだな。過剰な聖女崇拝はヘタをすると人間を狂わせる。あと、国によるが腐った聖職者がいるとこに生まれると酷い目に遭う」



 クレアは聖女であった女のことを好きではないが、その境遇に思うところがないわけではない。

 貴族であっても領地収入があまり見込まれず、お金のない家に生まれ育った彼女は厄介払いだとでもいうように教会へと預けられた。そこから高位の貴族を戦いに向かわせるわけにはいかないと聖女となり魔王との戦いに追い立てられ、そして権力を欲した。

 やられたことが多いため、好きになることは一生ないだろうと思っているが。



「うん。治療魔法を広めるのは良いかもしれないな」


「そうなれば僕も教えてもらおうかな」



 どこかお茶目にウインクをするレディアを見て、少し元気になったようだと安心したようにクレアは笑った。

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