59.新作魔道具
ネーロに用意されたものは机に布団がついたものであった。言われて中に足を入れてみればじんわりと足が温かくなる。ピンと張っていた尻尾がだんだん下がり、柔らかく揺れ出した。
「ユウタ曰く、“コタツ”というらしい」
組み立てた天板の下の土台に小さな魔石で熱を放出するためのクリムゾンボアと呼ばれる魔猪の牙で作った小型の装置が付いている。ユウタが「こたつが欲しい」と頻繁にぼやくのでその情報を頼りに作ったが、クレア自身は「寝てしまうからな」と使用していない。ユウタは幸せそうに使用していた。最初は出力が強すぎて布団が燃えることもあったが、現在は安定して作れるようになった。
「しあわせぇ……」
とろんとした目で「いくらっスか」と聞かれたので、「材料費がそこそこかかるから結構するな」と言って値段を出した。
「8万ジルくらいか」
ジルというのがこの大陸で主に流通している通貨である。これはあくまで原材料費や加工費用を3台で割ったものであり、流通させようとすればもう少し値段が上がる。しかし、幸いにもボアという魔物自体は比較的狩りやすいものではあるし、職人と商家と冒険者が提携すれば段々とより安く、いいものができる可能性は高い。ユウタに頼まれて作ったが、基本的にクレアの専門は魔道具の製作ではない。
「まぁ、欠点はうっかり寝てしまうことだな」
「わかるっス……」
「なんか、何か作ったら報告して欲しいと言われているんだがこれも必要か?」
「いやそれは絶対っス。クレアさんが搾取されるような事態が万一でもあったらマーリン殿が暴れるんで」
その言葉にクレアの表情が久しぶりに抜け落ちた。ちょっと師のことを思い出したのである。現在マーリンはドラゴレインを離れている。「僕ぅ、寒いのって苦手なんだよねッ」などと可愛こぶってピンクの花の絨毯に乗って南へと飛んでいった。花畑に佇む美男のようで絵にはなるがそれを見る弟子の目は氷のようであった。外見は20代前半であってもその実年齢はそんなものではない。少なくともクレアの母はその活躍していた時代を知っていたし、「何であんなに外見が変わらないの」と言っていたのでそれなりである筈だ。
「師が……なぁ。いや、弟子が舐められるのは師匠も舐められるているのと同じこと、などと言って暴れる可能性は無いわけでは無いな」
実際その理由で生首になった王と王妃と王太子夫婦を知っているネーロは少し目を逸らした。楽しそうにその前で酒を飲んでいたという目撃情報もある。嫌いな奴の生首でもネーロはそれをつまみに酒は飲めない。というか、大多数はそうだろう。
「師はあんな可愛こぶりっ子する割にやることが過激だからな。近場である盗賊団が悪さをした時も、魔物の群れに放り込んで爆笑しながらワインを瓶から直飲みしていた」
クレアが「騎士団に突き出した方がいいのでは?」と聞いたが、「僕が面白くないじゃないか」で終わった。当時学生だったクレアにそれを見せているあたりマーリンがそこまで気遣いをするタイプではないと思われた。
しかし、その反面その盗賊団が人身売買をおこなっており、良い値で売れそうなクレアに目をつけていたことを彼女自身は知らない。稀代の魔導師は弟子が思うより弟子を可愛がっていた。
銅貨 10ジル
大銅貨 100ジル
銀貨 1000ジル
金貨 10000ジル
白金貨 100000ジル
10ジル=10円
マーリンは残虐な感じになる前にクレアを家に転移魔法で帰したし、血飛沫見ながらワインをもう一本空けた。




