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22.弟子入りと魔法契約




 結局、ユウタが生きていくためにはある程度修行が必要だとクレアがメイド二人を説得して弟子入りすることになった。その際に契約書を出されて驚いた。



「弟子入りって契約書いるのか!?」


「魔導師が正式に弟子を取るときは契約書を交わすということはまともな(・・・・)魔導師であれば常識だ。我々は魔法士、もしくは魔法使いと呼ばれる者たちよりもより多くの機密と能力を抱えている。弟子入りを許すということは、君の人生、その一部を背負うということ。互いのためにコレは必要なことなんだ」



 クレアの言葉にユウタは息を呑んだ。ほんの少しの時間しか付き合いはないが、クレアが簡単に嘘を言わない人物だと彼は認識している。たしかに、大きな力というものは人間を狂わすし、人の人生を変えてしまうこともあるのだろうと納得して彼は頷いた。

 コルツ王国を見てきたのも大きかったかもしれない。


 荒れた大地、痩せた民。ふと通る馬車から覗く仕立てのいい服を着た男女はそれを疎ましそうに眺めながら鼻で笑っていた。富裕層と貧民層の差は元いた国とは比にならないくらい大きい。元いた世界でも、外に飛び出せばそういった国はあったかもしれない。だが宮村(みやむら)勇太(ゆうた)がいた日本という国では、彼の見る限りでは一応社会保障が機能していた。竜が見たくて近道のために通り過ぎたことをまだ後悔している。



「君ほど大きな魔力を持っていれば、暴走する可能性だって皆無ではない。魔法の暴走は時に他人だけでなく自らも傷つける。だから、互いに覚悟をもって臨むという意味合いでも目を通してほしい」


「わかった」



 剣の師もまた、「才能はありそうだけどよ、俺は師匠なんてガラじゃねぇんだわ」と言っており、実際教えるために四苦八苦していた。「なんで呼んだんだよ、この国」とユウタも思いはしたけれど、頭を悩ませながらも国一番の剣士が教えてくれただけありがたいのだろうとも思う。



「……なんか、歳近そうなのに今までで一番先生感強いな」


「他人の指導はお金になる。特に単位に困った貴族のお嬢様の指導とか」



 さらりとそう言ってのけるクレア。

 学園の卒業をしないととんでもないバカという扱いになってしまって良い嫁ぎ先がなくなってしまう。授業を聞いていれば当然普通に点数が取れるはずなのに、これっぽっちも努力をしなかった貴族令嬢の両親は必死になって指導者を探す。バカな娘を排出したなんて思われれば娘だけでなくその兄弟にまで類が及ぶ。

 お金が必要だったのでクレアはその話に乗った。それだけの話ではある。



「……本当は何歳なんだよ」


「18だが」


「見た目通りで安心した」



 そう言ったユウタは15歳である。

 奇しくも、クレアが魔王退治に強制連行されたのと同じ歳だった。ちなみに文字は教わっていたようで、彼は丁寧に読み込んだ。召喚された国の王太子が頻りに「契約書の類は絶対に細部まで見るんだよ。魔法が関わればなおのことだ」と彼に教え込んでいた。小さい文字すら見逃せば大変なことになるとユウタは彼に言い聞かされていた。そんなことを知らないクレアは、まだ15歳なのに賢いなと感心していたりする。



「大丈夫!だと思う!!」


「うん。じゃあ、『契約を』」



 クレアが契約書に魔力を送り込むと、文字が淡く輝いた。浮かび上がった巻物は二つに分かれて各々の手の中へと入る。



「契約は成された。今この時より、ユウタ。君は私の弟子だ」



 魔法契約はその魔力に紐付けられて、それに反した場合、その程度に応じてペナルティがある。主な内容が己の保護であるとユウタは理解している。クレアにはあまり得はない。大体の場合、魔導師の弟子取りはそういうものだ。大きな魔力を持つ人間を守り育てるため、秘伝の継承などが絡むケースは多い。今回の場合は前者だ。



(その身に新たな聖剣を宿している可能性もある。慎重に育てなくては)



 彼があまり魔法を教えられていない原因もなんとなく察しながら、クレアは己の師を思い返した。非常に女好きでいい加減で適当だけど魔法の腕だけは一流の稀代の天才魔導師のことを。ただ、会いたいとは全く思わなかった。

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