21.もう一人の勇者
本日更新2回目。
「助かりました!!」
少年は目の前でガツガツとパンと焼いたチキンを食べる。野菜も食べるようにとクレアが言えば、「はぁい」と嫌々ながらモソモソと葉を食んだ。
コルツ王国は、クレアたちをドラゴレインからさらってこようとしていたらしい。今更ながら、王族・貴族が贅沢ばかりして還元されないことで民衆の怒りが爆発している。新しく生活に役に立つような何かも与えられはしなかった。その混乱を収めようと論文を辿れば、クレアのものに当たって、全てを押し付けようと攫うことを考えた。
結局それは鼻歌混じりのメイドによって阻まれた訳であるが、女王にとっては面白くなかったため、クレア周辺はやたらと警備が強化された。
「おかしいな。私、一応魔王討伐メンバーだったのに」
むしろ、勇者よりも矢面に立っていた割合は多かった。なぜなら平民だったから。
こんな時まできっちり差別をするのかとむしろ感心したくらいであった。
それなのに厚意で守られているというのは不思議な心地であった。
そんなコルツ王国の連中と一緒に捕まった少年が目の前にいる。
クロエが作った料理をモリモリ食べて、ソフィーの淹れた紅茶を飲む。「氷入ってる!すげぇ!!」という言葉も挟みつつ、やっぱり食べることに夢中である。
ようやく食べ終わった頃、パンと手を合わせて「ご馳走様っした!!」と元気に言うのを聞いてクレアたちは三人三様に何だろうと不思議そうな顔をした。クレアに関してはほとんど表情は変わっていないが。
「あ、ご馳走様ってのは俺の国の文化?みたいな」
「そういえば、遠い国から来たと言っていたか」
クレアが、まぁ国によって文化って違うらしいしなと雑に納得すると、彼は嬉しそうに「おう!」と頷いた。
「こっちの世界来てから、やれこちらにはこちらのルールがあるやら、マナー違反やら言われたけど、分かってくれる人もいるんだな!」
ミヤムラ ユウタ。
彼はクレアたちにそう名乗った。
彼が「召喚された」国の人はルールやマナーに多少厳しかったらしい。
考えてみれば不憫である。勇者として召喚されながら、旅の途中でコルツ王国の現地勇者一行が魔王を倒してしまったのだ。召喚した国は常識や生き方を教えてくれはしたけれど、王宮の人間は段々と厄介者を見る目でユウタを見始めた。無論、召喚した人間たちはそんなことはない。攫うような真似をして申し訳なかった、元の世界に返せはしないけれどできる限りの対応をと言ってきた。
「いや、でもここで一生生きんの無理だわーって思って冒険者になって旅に出ることにしたんだよ。なんか嫌がらせもあったし、もちろんその地に合わせた態度取るのがいいんだろうけど、どうしてもあそこに居たらここに来たの俺の意思じゃねぇしー、としか思えないじゃん」
結果、ドラゴレインに来る前に通り過ぎたコルツ王国でちょっと安い宿に泊まったらお金を盗まれて行き倒れた。ユウタは異世界ってハードだな、と苦笑する。
この辺りの事情は一応、ドラゴレインの牢屋で役人に話しており、釈放されたけどどうしようかななんてぶらぶら歩いていたら元離宮だったクレアの自宅にたどり着いた。グゥと腹を鳴らした際、ちょうど昼時だったため昼食を取りに戻るところだったクレアと遭遇して招待された。クレアも、彼がどうなったか気になっていたこともある。
「それにしても、冷蔵庫も冷凍庫もあるんだな!この国すげぇ」
「いや、コレうちのご主人が作ったから他んとこにはねぇぞ」
「魔法使いすげぇ!!」
「正確には魔導師ですけれど」
他のところにはないからなと釘を刺すクロエと、褒められて誇るように言うソフィー。キラキラした眼差しが己に向いてクレアは少しだけ、照れたようにそっぽを向いた。
「なんか、魔導師って研究?ばっかりしててあんまりそういうのは作るイメージなかった」
「それは間違ってはいないな。国と個人の資質にもよる。私も、師も、どちらかと言うと生活に根ざした魔法を得意としていた。だからこそのものだ」
「いいなー。俺って勇者として召喚された割に心象武器とか発現できないし、聖剣とかもなかったんだからせめてそういうお役立ち魔法が使えればよかった」
唇を尖らせる少年に、クレアは「いや、できるだろう?」とその胸を指差した。
「君の内には武器も、魔力もある。まぁ、魔法が何を使えるかというのは調べなければわからないが」
クレアのその言葉にユウタはキラキラとした目で頭を下げた。
「使えるまで弟子にしてください!!」
そんな彼にメイド二人は「帰れ!!」と言った。そして、ユウタは「帰る場所ないから無理!」と返した。




